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見惚れてました
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竜宮城のもてなしに、拒否権ってものはないらしい。
俺は豪華な部屋に押し込められて、薄い浴衣みたいな服を着せられた。
うう、スースーする。下に履くものをください。せめてパンツを返して。
「いろんな意味で心もとない……」
ため息が止まらないよ。
俺はソワソワと室内を見回した。目の前にはごちそう。背後には金屏風。
俺は真っ赤な座椅子に乗せられ、その上でちんまりしていた。
竜宮の料理に興味がないわけじゃないけど、味の感想を書いても単位はもらえないだろうな。
それより、俺、ちゃんと帰れるのかな。
「美女はどうしたんだよ、美女は」
せめてこういう場面には美女の接待が必要なんじゃない?
ブツブツ言っていたら、本当に美女がしずしずと入ってきた。
「隼さま、お寛ぎいただいておりますでしょうか」
低く落ち着いた声に聞き覚えがあった。
「あ、さっきのカメさん!」
「海松人(みると)と申します」
「よかった。元気そうだね」
「はい。お気遣いいただきありがとうございます」
「ところで、あのとき逃げ――」
逃げろと言ったのはどういうことか聞こうとして、俺はハッと口を閉ざした。
彼女が黙るように手振りで示したのだ。そしてチラリと俺の前の料理を見下ろす。
「お口に合いませんでしたか」
「とても食べる気には」
「では一度おさげしましょう」
彼女が優雅に手をあげると、ガチムチのコスプレ男どもがササっと料理を下げていった。全員俺にウィンクだの投げキッスだのしていって暑苦しいことこの上ない。
二人だけになると、彼女は俺のそばに膝をつき、深々と頭を下げた。
「私のことを心配していただいたそうですね。ありがとうございます。本当に――私を呼んでくださって良かった」
「え?」
彼女は身を乗り出し俺の手を握った。
手が案外ごっついな。とか一瞬思ったが、黒目勝ちの瞳が間近に迫ってきて、思考力が一気に下がった。
うわーこの人、本当にきれいだな。
微笑むとちょっと可愛い感じになって、やばい、すげー好き。
(海中での会話は乙姫様に筒抜けになります)
ギクッと俺は彼女を見つめた。
いま、なんか脳に直接語りかけられたような……?
(その通りです。あなたも私に話しかけてみてください)
(もしもしカメさん?)
(馬鹿にしてます?)
決してそんなことはない。
でもそんなに怒るとは。ウミガメとリクガメって仲が悪いのかな。
(海松人です。海坊主の海、松葉蟹の松に人と書いて海松人)
海坊主? なんか、イメージと合わないな。ミルトといえば、地中海のほうにそんな酒があったけど……。それに『うさぎとかめ』は古代ギリシャの寓話だ。これは偶然の一致か?
(――わかりましたか?)
俺の思考が盛大に逸れているのを察したらしい。海松人が俺の指を曲げちゃダメなほうに押し上げた。
(ヒエッ! 了解です。海松人さん)
海松人、海松人っと。男みたいな名前だな。まあ男が乙姫を名乗ってたくらいだし――。
(聞いてください)
(あ、はい)
海松人はこのまま、会話というか念話を続ける気らしい。
(これは警告です。いいですか、あなたはこれから乙姫様に性的にもてなされます。そしてそうなれば良くて腹上死。悪ければ内臓が破裂するでしょう)
(待って。両方死んでる)
(私はあなたに命を救われました。ですから私も、隼さまをお救いしようと思います)
海松人さんの気持ちはとっても嬉しい。
アレに性的にもてなされるとか意味がわからないし、しかももてなすとか言って俺が犯されんのかよ。
なんでそれで喜ぶと思った?
……だけど海松人さん、ちょっと震えてないか。これって相当危ないことなんじゃ。裏切り者には死を、とかさ。
海松人はふっと苦笑した。
(この状況で、私の心配ですか。どうやら私はとんでもなくのんきな人を巻き込んでしまったようですね)
のんきとはなんだと、一瞬思ったものの、それ以上に申し訳ない気持ちになって俺はしょんぼりした。
(海松人さんは逃げろと忠告してくれたのに、見惚れて動けなかったのは俺のほうだし)
(見惚れて?)
そうだよ。一目惚れってこんな感じかー。と、自分でもちょっとびっくりした。
惚れた相手のせいにするとか、カッコ悪いことは、嫌だよな。
そこで俺はあえて軽いノリで彼に伝えた。
海松人さんが、罪の意識なんて背負わなくて済むように。
(うん。だって海松人さん、すっげえ美女だから、つい)
(え? 美女ですか?)
まさかの無自覚。大丈夫かなこの人。正直いまこの状況も距離が近すぎて心臓ばっくばくなんだけど。
おっと、なにやら咳払いしてる。
しまった。いまのも筒抜けか。
(そ、それでは時間もないので道具の説明に入ります)
(なんか始まった! 道具って?)
(手、一度離しますが声は出さないでくださいね)
(気をつけます)
答えたものの、道具って何の話だ?
海松人が重箱からゴソゴソ取り出したものは、なんだろう。パッと見はただの筒。
アワビっぽいものが詰められている?
興味本位でのぞき込んだら、海松人は俺の手首をひょいとつかんで筒を持たせた。
(お察しのとおりオナホです)
(察してないけど!?)
俺は豪華な部屋に押し込められて、薄い浴衣みたいな服を着せられた。
うう、スースーする。下に履くものをください。せめてパンツを返して。
「いろんな意味で心もとない……」
ため息が止まらないよ。
俺はソワソワと室内を見回した。目の前にはごちそう。背後には金屏風。
俺は真っ赤な座椅子に乗せられ、その上でちんまりしていた。
竜宮の料理に興味がないわけじゃないけど、味の感想を書いても単位はもらえないだろうな。
それより、俺、ちゃんと帰れるのかな。
「美女はどうしたんだよ、美女は」
せめてこういう場面には美女の接待が必要なんじゃない?
ブツブツ言っていたら、本当に美女がしずしずと入ってきた。
「隼さま、お寛ぎいただいておりますでしょうか」
低く落ち着いた声に聞き覚えがあった。
「あ、さっきのカメさん!」
「海松人(みると)と申します」
「よかった。元気そうだね」
「はい。お気遣いいただきありがとうございます」
「ところで、あのとき逃げ――」
逃げろと言ったのはどういうことか聞こうとして、俺はハッと口を閉ざした。
彼女が黙るように手振りで示したのだ。そしてチラリと俺の前の料理を見下ろす。
「お口に合いませんでしたか」
「とても食べる気には」
「では一度おさげしましょう」
彼女が優雅に手をあげると、ガチムチのコスプレ男どもがササっと料理を下げていった。全員俺にウィンクだの投げキッスだのしていって暑苦しいことこの上ない。
二人だけになると、彼女は俺のそばに膝をつき、深々と頭を下げた。
「私のことを心配していただいたそうですね。ありがとうございます。本当に――私を呼んでくださって良かった」
「え?」
彼女は身を乗り出し俺の手を握った。
手が案外ごっついな。とか一瞬思ったが、黒目勝ちの瞳が間近に迫ってきて、思考力が一気に下がった。
うわーこの人、本当にきれいだな。
微笑むとちょっと可愛い感じになって、やばい、すげー好き。
(海中での会話は乙姫様に筒抜けになります)
ギクッと俺は彼女を見つめた。
いま、なんか脳に直接語りかけられたような……?
(その通りです。あなたも私に話しかけてみてください)
(もしもしカメさん?)
(馬鹿にしてます?)
決してそんなことはない。
でもそんなに怒るとは。ウミガメとリクガメって仲が悪いのかな。
(海松人です。海坊主の海、松葉蟹の松に人と書いて海松人)
海坊主? なんか、イメージと合わないな。ミルトといえば、地中海のほうにそんな酒があったけど……。それに『うさぎとかめ』は古代ギリシャの寓話だ。これは偶然の一致か?
(――わかりましたか?)
俺の思考が盛大に逸れているのを察したらしい。海松人が俺の指を曲げちゃダメなほうに押し上げた。
(ヒエッ! 了解です。海松人さん)
海松人、海松人っと。男みたいな名前だな。まあ男が乙姫を名乗ってたくらいだし――。
(聞いてください)
(あ、はい)
海松人はこのまま、会話というか念話を続ける気らしい。
(これは警告です。いいですか、あなたはこれから乙姫様に性的にもてなされます。そしてそうなれば良くて腹上死。悪ければ内臓が破裂するでしょう)
(待って。両方死んでる)
(私はあなたに命を救われました。ですから私も、隼さまをお救いしようと思います)
海松人さんの気持ちはとっても嬉しい。
アレに性的にもてなされるとか意味がわからないし、しかももてなすとか言って俺が犯されんのかよ。
なんでそれで喜ぶと思った?
……だけど海松人さん、ちょっと震えてないか。これって相当危ないことなんじゃ。裏切り者には死を、とかさ。
海松人はふっと苦笑した。
(この状況で、私の心配ですか。どうやら私はとんでもなくのんきな人を巻き込んでしまったようですね)
のんきとはなんだと、一瞬思ったものの、それ以上に申し訳ない気持ちになって俺はしょんぼりした。
(海松人さんは逃げろと忠告してくれたのに、見惚れて動けなかったのは俺のほうだし)
(見惚れて?)
そうだよ。一目惚れってこんな感じかー。と、自分でもちょっとびっくりした。
惚れた相手のせいにするとか、カッコ悪いことは、嫌だよな。
そこで俺はあえて軽いノリで彼に伝えた。
海松人さんが、罪の意識なんて背負わなくて済むように。
(うん。だって海松人さん、すっげえ美女だから、つい)
(え? 美女ですか?)
まさかの無自覚。大丈夫かなこの人。正直いまこの状況も距離が近すぎて心臓ばっくばくなんだけど。
おっと、なにやら咳払いしてる。
しまった。いまのも筒抜けか。
(そ、それでは時間もないので道具の説明に入ります)
(なんか始まった! 道具って?)
(手、一度離しますが声は出さないでくださいね)
(気をつけます)
答えたものの、道具って何の話だ?
海松人が重箱からゴソゴソ取り出したものは、なんだろう。パッと見はただの筒。
アワビっぽいものが詰められている?
興味本位でのぞき込んだら、海松人は俺の手首をひょいとつかんで筒を持たせた。
(お察しのとおりオナホです)
(察してないけど!?)
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