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大見得なんて似合わない
しおりを挟む乙姫との攻防がまだ続くと知って、こっちが絶望してるのに、海松人はちょっと笑ってる。なんなんだ!
「すぐに軟膏を塗りますので」
「いっ! いいいいっ」
めっちゃヒリヒリする! 俺、さっきからまともな言葉を話せてない。
悲鳴をあげているうちに、ドタバタと乙姫が入ってきた。
「隼が目覚めたそうだな! 今宵も俺自ら歓待しようではないか!」
「いいえ、乙姫さま。隼さまは体がまだ癒えていません。これをごらんください」
海松人は真っ赤に腫れた俺の尻を示した。
やめて、恥ずかしい。
「癒えてないだと。おまえの力を使ってもか」
「隼さまは生身の人間なのですよ。それを健気にもこのように小さな穴で乙姫さまの砲口を受け入れたのです。ちっとも不思議ではありません」
実際受け入れたのは、乙姫のじゃなくて海松人のだけどな。
少々恨めしく思うが、それよりも軟膏のヒリヒリが収まらない。
……てか砲口ってなんだよ。じわじわ来るな。吹き出しちゃいそう。
枕に顔を押し付けて笑いをこらえていたら、乙姫は勝手に勘違いをしてくれた。
「たしかに辛そうだ。ならばしっかりと休ませろ」
「はい」
あ、危ないところだった。
乙姫が立ち去ると、海松人は俺の服をていねいに整え、子供にするように俺の髪を優しく撫でた。
(今回はこれでごまかしきれるはずです)
(ほ、本当……?)
(ゆっくりとお休みください――と言いたいところですが、少しだけ話を聞いてくださると助かります)
(話?)
俺は深く考えずにうなずいた。
海松人が今話したいというのなら、必要なことなのだろう。
(信頼してくださるのは、ありがたいんですけどね……)
海松人はなぜかちょっとあきれ顔だ。
そうは言うけど、今、彼を信じずにどうするんだ。この場所で彼だけが頼りだってのにさ。
(いつでも聞くよ)
俺が口の端を上げてみせると、海松人は反対に、泣きそうな顔をして、俺の額に口づけた。
(では、今から乙姫の秘密をお話します)
海松人が語ったことは、同時に、俺がここから生きて帰る唯一の方法でもあった。
一通り話し終えると、彼は微笑んだ。
(さあ、もう眠って。無事に帰れるかどうか、隼さまの演技にかかっていますよ)
演技か。あんまり自信ない。学芸会で村人Cをやったきりだ。
それに眠るのも実は怖い。
竜宮城で過ごす一刻が、俺を元の世界から遠ざける。
あのころの同級生も、今の友人も、家族も。帰ったらもういないのかもしれないのだ。
知らない世界で、俺ひとり、生きていけるのかな。
(大丈夫です。隼さま。ちゃんとお帰しいたします。それに、隼さまはひとりではありませんよ)
大丈夫。海松人は繰り返す。彼の声が耳に心地いい。
もっと聞いていたいと心の中で願ったら、海松人は小さな声で子守唄を歌い始めた。
意外と下手くそで、おかげでいい感じに気が抜けた。
俺は金屏風のある部屋で、ひとりきり目を覚ました。
枕のそばに、俺がこちらに来たとき着ていた服が畳んで置いてあった。
身につけようとしたら、ぱんつがない。ハーフパンツはぱんつじゃないんだぞ。
だけど残念ながら、探している暇はなさそうだ。あのドタバタいう足音は乙姫のものだ。
裸でいてはろくでもない誤解を受けそうだ。
「目覚めたようだな、隼! もう体はいいんだろう? さあ、俺のものになれ!」
「趣旨変わってる!」
「うん? ああ、そうだったな。もてなしを受けてもらうぞ」
彼はいかにもウキウキした様子だ。あなたが気に入ったのはオナホですけどね。
脳内ではツッコミを入れていたのだが……。
彼がこちらに足を一歩踏み出すと、体がギクッとこわばった。
危うく恐怖で固まるところだった。なんとか建て直せたのは、乙姫のうしろに海松人の姿を見たからだ。
彼は目配せをくれた。
ああ、色っぽいな。
なんて、我ながらアホなことを考える余裕があるようだ。
俺はこっそり息を吸い直す。
ここからは、一世一代の大芝居だ。
といっても、凡庸な俺に大見得なんて似合わない。作り笑いも止めておこう。
ただ、言いたいことを言うだけだ。
「いいえ、それには及びません」
「俺のもてなしを拒むか」
「乙姫様、俺は欲しいものができました」
「む」
彼は黙って、チラリと海松人を見た。
まさかもうバレた?
いいや落ちつけ。恐れるな。優位なのはこっちだ。
海松人が教えてくれた。
竜宮城に迷い込んだ人間がいたならば、乙姫は必ずその者を歓待しなくてはならない。
それは俺が思うよりもずっと、厳格な決まり事なのだそうだ。
俺たちのあずかり知らない神々のルール。
もし俺が、もてなしに満足せぬまま帰ったら、それは乙姫の失点になる。彼の座が揺らぐほど。
よりによって自分の領域で、人間ひとり満足させられないというのは、神にとっては大恥なんだとか。
俺は金銀財宝を望まなかった。
用意された部屋を、喜ばなかった。
与えられた食事に、手をつけなかった。
乙姫の接待は……俺の体がもたなくて、中断した。
彼は今、手詰まりだ。
俺の望みは、なんでも叶う。手ぶらで帰ること以外は。
だったら、俺が欲しいのはただ一人。
「海松人さんを俺にください」
「なに?」
心底意外というように、乙姫は目をひん剥いた。
俺は思わずニヤリとしていた。
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