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考えてほしい
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イシャズが去っても、ヴェルはしばらくの間動かなかった。
まるで、イシャズが戻ってくるのを警戒しているみたいだった。
「ヴェル、もう戻ろう」
俺はヴェルの手を引いて、巣に戻った。
小精霊たちがわっと飛び立って、一部始終を見られていたことを知る。
こいつら、意外と物見高いよな。
「え、待って!? それじゃあこの間のも?」
ヴェルとキスしたり、それ以上のことだってしてたのに!
「どうした、ルアーカ」
「い、いや……、何でもない」
ヴェルも俺も、濃密な魔力に酔っていたわけだから、小精霊たちだってきっと同じに違いない。
深く考えるのはやめておこう。
俺は熱くなった頬を扇いだ。
ヴェルが今、少年の姿だから、妙に後ろめたい気分になった。
夜明け近くに目を覚ますと、ヴェルは十五歳くらいになっていた。
目覚めたときから、少し物憂げだ。
指先に水を集めて、二つのグラスに注いでいた。
一つはヴェルので、もう一つはこの間俺が気に入った青いグラス。
遠慮せずに使えということかなと思って見つめていると、ヴェルは注ぎかけていた俺の分の水をパシャリと床に捨ててしまった。
「何やってんの!?」
「ルアーカ、水を汲みに行こう」
「え? それは?」
「魔法で集めた水には、どうしても私の魔力が入ってしまう。……人間には、毒だと」
イシャズが言ったこと、気にしているんだ。
意外なようで、ヴェルならあり得るかもと、納得してしまうような。
「人間には、でしょ?」
そう言い切って、俺はヴェルの指をくわえた。
まだ少し、甘い味が残っていた。
「ルアーカ!」
ヴェルは焦ってる。心配してくれるんだなと思ったら、少し嬉しかった。けど、手遅れじゃないかな。
待っていても、ヴェルが追加の水をくれないので、あきらめて口を離す。
「俺はもう半分精霊だって、ヴェルが言ったんじゃないか。今更じゃない?」
「しかし……」
ぺろりと指を舐めて催促すると、ヴェルは根負けしたようにため息をついた。
「やはり汲みに行こう」
「え!?」
ヴェルは驚く俺を連れて、水場を目指した。
薄暗い森の中、泉には狼の群れが集っていた。
ヴェルは彼らの邪魔をする気はないようで、俺を膝の上に乗せたまま、木の下でくつろいだ。
すごくさり気なく乗せたけど、自分がまだ子供の姿だって自覚がないのかな。俺としては非常に気まずいので、そろっと隣に座りなおした。
そのうち、水を飲み終えたらしい狼が、ヴェルに気づいて一礼して去っていく。
狼の群れがいなくなると今度は鹿やネズミたちがやってくる。
ヴェルが降り立てば、きっと動物たちは喜んで彼に場所を譲るのだろうけど、ヴェルはそんなことしない。
大きな力を持っているけれど、その力をむやみに振るうことは好まない。
好きだなと思う。彼の、こういう優しいところが。
彼の肩にもたれかかって、一緒にのんびりとした時間を過ごすのも。
「ルアーカ」
「うん?」
「私のことが好きか」
心を読まれたのかと思って、俺はちょっと目を見開いた。ヴェルの瞳はまっすぐで、澄んでいて、気になったからちょっと聞いてみた、という感じの雰囲気だった。
俺はごまかすことなく微笑んだ。
「好きだよ」
てっきり喜んでくれると思ったのに、ヴェルの瞳が迷うように揺れた。
彼は自分の手をのぞき込んだ。
「私の魔力は、周りのものを惹きつける」
「うん」
「おまえには私の魔力をたっぷり染み込ませてしまったから、私に惹かれるのは当然だ」
まるでいけないことのように言うから、俺はびっくりしてしまった。
「後悔しているの?」
「いや、――だが怖い。魔力のことがなくてもおまえは私を好きになってくれたのか、私はおまえを好きになれたのか。……わからないんだ」
いま、何か大事な言葉を聞いた気がする。
「俺のことが、好き?」
「好きだ。――だが」
ヴェルは力強くうなずいた後、瞳をうろつかせた。
俺は続きをじっと待った。
「私の魔力で変質した君は、非常にその――私の好みなんだ」
すごく恥ずかしそうに言われて、こっちまで顔から火を噴きそうだった。
「それはほとんど本能的な行動で、意識するしないにかかわらず、そうなってしまうものなんだ」
妙な流れになってきた。おそるおそる、尋ねてみる。
「俺じゃなくてもよかったってこと……?」
「そうではない! ただ、ルアーカももう一度よく考えてみてくれないか」
「精霊って、そんな面倒くさいこと言うんだね」
「これまでなら、考えなかった。おまえのことだから、考えたい」
そう言って、ヴェルはふと泉のほうを見た。
いつの間にか、ひっきりなしにやってきていた動物たちの気配が消えていた。
彼は静かに泉の水を汲んだ。
まるで、イシャズが戻ってくるのを警戒しているみたいだった。
「ヴェル、もう戻ろう」
俺はヴェルの手を引いて、巣に戻った。
小精霊たちがわっと飛び立って、一部始終を見られていたことを知る。
こいつら、意外と物見高いよな。
「え、待って!? それじゃあこの間のも?」
ヴェルとキスしたり、それ以上のことだってしてたのに!
「どうした、ルアーカ」
「い、いや……、何でもない」
ヴェルも俺も、濃密な魔力に酔っていたわけだから、小精霊たちだってきっと同じに違いない。
深く考えるのはやめておこう。
俺は熱くなった頬を扇いだ。
ヴェルが今、少年の姿だから、妙に後ろめたい気分になった。
夜明け近くに目を覚ますと、ヴェルは十五歳くらいになっていた。
目覚めたときから、少し物憂げだ。
指先に水を集めて、二つのグラスに注いでいた。
一つはヴェルので、もう一つはこの間俺が気に入った青いグラス。
遠慮せずに使えということかなと思って見つめていると、ヴェルは注ぎかけていた俺の分の水をパシャリと床に捨ててしまった。
「何やってんの!?」
「ルアーカ、水を汲みに行こう」
「え? それは?」
「魔法で集めた水には、どうしても私の魔力が入ってしまう。……人間には、毒だと」
イシャズが言ったこと、気にしているんだ。
意外なようで、ヴェルならあり得るかもと、納得してしまうような。
「人間には、でしょ?」
そう言い切って、俺はヴェルの指をくわえた。
まだ少し、甘い味が残っていた。
「ルアーカ!」
ヴェルは焦ってる。心配してくれるんだなと思ったら、少し嬉しかった。けど、手遅れじゃないかな。
待っていても、ヴェルが追加の水をくれないので、あきらめて口を離す。
「俺はもう半分精霊だって、ヴェルが言ったんじゃないか。今更じゃない?」
「しかし……」
ぺろりと指を舐めて催促すると、ヴェルは根負けしたようにため息をついた。
「やはり汲みに行こう」
「え!?」
ヴェルは驚く俺を連れて、水場を目指した。
薄暗い森の中、泉には狼の群れが集っていた。
ヴェルは彼らの邪魔をする気はないようで、俺を膝の上に乗せたまま、木の下でくつろいだ。
すごくさり気なく乗せたけど、自分がまだ子供の姿だって自覚がないのかな。俺としては非常に気まずいので、そろっと隣に座りなおした。
そのうち、水を飲み終えたらしい狼が、ヴェルに気づいて一礼して去っていく。
狼の群れがいなくなると今度は鹿やネズミたちがやってくる。
ヴェルが降り立てば、きっと動物たちは喜んで彼に場所を譲るのだろうけど、ヴェルはそんなことしない。
大きな力を持っているけれど、その力をむやみに振るうことは好まない。
好きだなと思う。彼の、こういう優しいところが。
彼の肩にもたれかかって、一緒にのんびりとした時間を過ごすのも。
「ルアーカ」
「うん?」
「私のことが好きか」
心を読まれたのかと思って、俺はちょっと目を見開いた。ヴェルの瞳はまっすぐで、澄んでいて、気になったからちょっと聞いてみた、という感じの雰囲気だった。
俺はごまかすことなく微笑んだ。
「好きだよ」
てっきり喜んでくれると思ったのに、ヴェルの瞳が迷うように揺れた。
彼は自分の手をのぞき込んだ。
「私の魔力は、周りのものを惹きつける」
「うん」
「おまえには私の魔力をたっぷり染み込ませてしまったから、私に惹かれるのは当然だ」
まるでいけないことのように言うから、俺はびっくりしてしまった。
「後悔しているの?」
「いや、――だが怖い。魔力のことがなくてもおまえは私を好きになってくれたのか、私はおまえを好きになれたのか。……わからないんだ」
いま、何か大事な言葉を聞いた気がする。
「俺のことが、好き?」
「好きだ。――だが」
ヴェルは力強くうなずいた後、瞳をうろつかせた。
俺は続きをじっと待った。
「私の魔力で変質した君は、非常にその――私の好みなんだ」
すごく恥ずかしそうに言われて、こっちまで顔から火を噴きそうだった。
「それはほとんど本能的な行動で、意識するしないにかかわらず、そうなってしまうものなんだ」
妙な流れになってきた。おそるおそる、尋ねてみる。
「俺じゃなくてもよかったってこと……?」
「そうではない! ただ、ルアーカももう一度よく考えてみてくれないか」
「精霊って、そんな面倒くさいこと言うんだね」
「これまでなら、考えなかった。おまえのことだから、考えたい」
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いつの間にか、ひっきりなしにやってきていた動物たちの気配が消えていた。
彼は静かに泉の水を汲んだ。
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