妻がゾンビになりまして……

Mr.Six

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3-1:妻が怒りまして……

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「パパ、お客さんだよ……てか、何してんの?」

「花音! いや、違うこれはママが」

美鈴は頭を撫でたからか、俺から離れて、寝室に向かった。

俺は立ち上がり、衣類を整えた。

「あの~、そちらの方々は?」

2人の男の内、1人はずっと下をうつむいていて、もう一人は堂々としていた。

おそらく、事故を起こした時のバス会社の運転手とその上司といった感じだった。

その上司が花音の前に出て、名刺を俺に渡してきた。

「朝早くにすみません、私は朝日バスの営業部長をしています、渡辺と申します」

朝日バス? バス会社の中でもトップを争う大企業か。

そんな大企業が事故を起こしたのか?

「私は、浦見と申します」

「あ、え~と」

「この度は、浦見の不注意により奥さんに大変な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした」

上司の渡辺という男は、深々と頭を下げた。

それを見て浦見は軽く頭を下げた。

正直、浦見という男、自分が悪いと思っていないのか、少し不機嫌な表情を浮かべている。

俺はムッとしてしまったが必死に感情を押し殺した。

「あの、ここで言うのもあれなんで上がってください」

俺は、お客さん用のスリッパを2つ用意して、2人に履かせリビングの椅子に座らせる。

「花音、お前は学校だろ、ここはいいから学校にいってこい」

「いやよ、私も聞く、なんでこうなったか知りたいし」

花音が怒るとめんどくさいことになりそうだが、仕方ないか。

「すみません、娘も同席で構いませんか?」

「私たちは全然大丈夫です。娘さんにも辛い思いをさせてしまい大変申し訳ありません」

渡辺は花音にも頭を下げてくれた。

俺は会社と学校に連絡をして、今日はお休みをいただくことにして、

席に着き、話題を切り出した。

「えーっと、今日は事故のことですよね。確か、居眠り運転をしてたとか」

「はい、浦見が走行しているときに眠気を感じてしまい、前方をしっかりと見ていなかったと本人から伺っております」

俺は目の前のお茶を軽く口に含んで、落ち着いてから浦見という男に質問をした。

「浦見さんでしたっけ? 貴方はこの事故をどう思ってるんですか?」

「そりゃあ、悪いと思ってますよ」

「ん?」

俺は浦見という男の態度に疑問を感じた。

「あの、失礼ですけど、反省ってされてますか?」

怒るな、俺。

「もちろん、今後は居眠り運転をしないように気を付けていきますよ」

「今後はって、今回のことについてどう思ってるかってことなんですけど。うちの嫁は事故で怪我をしているんですよ?」

なんだ、この男。

「いや、でもバスのロータリーで左右を確認せず飛び出した奥さんも悪いんじゃないんですか? ドラレコを確認したら、走行しているのに急に飛び出してきてるんですよ?」

はぁ? こっちが悪いって言いたいのか?

俺は膝に置いている腕を震わせていた。

「おい、浦見。そもそも居眠り運転をしていなければ大事故にはなっていないんだ」

上司の渡辺は、机に両手をつき、頭を下げた。

「申し訳ありません、うちの教育が足りず滝沢様に不快な思いをさせてしまいました」

なんで、貴方が謝るんだ。

謝るのはこの浦見って男だろ。

俺は花音を横目でチラッと覗いた。

花音の目はガン開きで浦見という男を睨みつけている。

気持ちは俺と一緒ってことか。

「つきましては、奥さんの治療費、通院費用、そして慰謝料をまた改めてお支払いさせて頂きたく思っております」

「……」

俺と花音はただ黙って渡辺の言葉を聞いていた。

「これで、滝沢様が納得いただけると到底思っておりません、もちろん最大限の誠意を尽くさせて頂くおつもりです」

「渡辺さん」

唐突に花音が口を開いた。

「私たちはお金が欲しいわけじゃないですよ、ただ真摯に謝罪して欲しいだけです」

確かに、この事故で美鈴はゾンビになってしまった。

お金ではもうどうしようもないことになっているんだ。

「なのに、この浦見って人は、まるでこっちが悪いみたいに言ってるじゃないですか」

「そんな風には言ってないでしょ。悪いって言ってるじゃないですか」

浦見は花音の言葉を遮るように話始める。

浦見と花音の言い合いが始まり、俺と渡辺は二人をなだめていると、

扉が開く音が響く。

「「あっ……」」

俺と花音は思わず声を出してしまった。

そこには、美鈴が静かにこちらを見ていた。
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