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ギルドの仕事をしてみる

オレ達の我が家(1)

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 先ほどは馬車で来たので目測を誤りました、徒歩では思いのほか遠かった高級住宅街の一角にやってきました。
 買い物しながらだったので今回は良かったけれど、毎日ギルド通りまで通うのはなかなかな距離。今後はなんて言っていないで明日にでも馬車の手配をしたいな、巡回馬車とか面倒いからさ。「リンさん良きに計らえ」言って見たけどリンはエディタを開いて変更するだけでオレのことは無視したよ。
「俺も馬車操れますので」
 アルは自分にも仕事ができそうだと表情を明るくする。今は護衛として居るはずなのに、武器の1つも与えられて居ないのでジレンマがあるっぽい。武器屋に行く暇が無いだけなんだけど、明日も時間とれるかな?アルだけ武器屋に行かせるとそこそこの武器しか買わなそうなんだよな。自分に合う最高の武器を探さないと。オレにもリンにも欲しいし、やっぱ一緒に行きたいから少し我慢して貰おう。リンに武器屋もToDoリストの順位を上げておくように指示した。

 馬車も通れる立派な鉄扉てっぴの横にある、通用門から敷地に入る。
 鉄扉には前の持ち主の紋章が入った鉄の意匠が、両扉に溶接で貼り付けられていた。赤いペンキでその上から×印が付けられているのがシュールだった。
 オレはスキルを使ってサクッと意匠を取り外すと、そのままそれを材料としてアイアンアートをイメージした成形を施しツタ模様にして貼り付け直したのだった。錬金スキル便利だよね。
 敷地内から振り向くと、三人はまだ表でオレのアートを凝視している。ついでだから鉄扉も含めて黒メッキ仕様にしたから余計に驚いているようだが、早く着いてきて欲しい。
「行くよ~」
 声をかけると、それぞれ思うところがあったようなのだが切り替えて中に入ってきた。
「リン、始めるよ。それが終わったら宝探しもしなきゃだし、最低二人分のベッドは今日中に用意しないとだから忙しいよ」
 昼を少し早めに摂ったとは言え、書類の山と白金貨の勘定でなかなかに時間を取られた。その上買い物なのでそろそろ夕方の六刻の鐘が鳴りそうだ。
 草の伸びきった前庭を進んで玄関口まで急ぐ。玄関扉も無駄に大きいと思ってしまうが、貴族だったのだから人をたくさん呼んだのだろう。まあ、家の大きさに合う大きさって言うのもあるだろうし、そこは仕方ない。ここには意匠が彫られていたらしく、刃物の傷で削られていた。今度直そう。
 玄関を開け放し、内見でも見なかった邸の中に新しい空気を入れる。人が建物に足を踏み入れるとポルターガイストが起こるらしく、解体業者も家具などを引き取ろうとした業者も追い返されたらしい。購入希望で入ることさえできない状態で事故物件扱いとなっていた。
 けれど、天眼持ちのオレと精霊眼持ちのリンには見えていた。家妖精ブラウニーである。彼らは人を追い出したかったわけでなく、自分たちの存在を知らせたかっただけなのだ。恥ずかしがり屋の妖精なので構ってくれなくても良いらしいが、家を取り壊されてはたまらないと行動した結果だった。
「今度ここのあるじになったアマネだよ。屋敷内を改装したり改築したりはするけれど、君たちの意見はきちんと聞くから仲良くしてくれると嬉しいな」
 何も見えない空間に話しかけるオレを奇異の目で見るドイル兄妹。気が触れてるわけじゃないから。
「ここに居るリンも君たちが見えているし、話もできるからね」
「私は精霊王様から加護を頂いております。けして精霊の敵にはなりません、ご安心くだい」
 そこでいくつかの光がオレ達の目の前に飛んできて、小さな妖精の姿を現した。この姿はドイル兄妹にも見えるらしくキャロルなんかは「カワイイ」を連発していた。
 まだ声を出せるほど成長はしていないらしく、オレ達の周りを飛び回り歓迎してくれた。この世界でのブラウニーは見た目が女性だけに偏っていることはないし、人の代わりに家事をこなせるほど体力は無い。前世の靴屋のこびと的な存在だと思っておくのが良いようだ。魔法は使えるという違いはあるけれど。

 邸の取り壊しの話が出る前は、ブラウニー達が悪さをすることもなかったので資産を確認しに来たり、まだ隠している機密文書があるのではと役人や商人が通っていたようなのだが、見つけられなかった隠し部屋。
 天眼には昼間に来たときから見えていた。比喩ではなく本当の宝探し。
 キャロルには邸中の窓を開け放ち、空気の入れ換えを頼んだ。数体のブラウニーがお供に付いている。
 残りの三人と好奇心旺盛なブラウニーがお宝ツアーの参加者だ。まあ、オレはどこだか分かっているし、ブラウニー達も知っては居るのだが。
 そこに行き着くまでに、目につく家具や趣味の悪い美術品をどんどん無限収納へ入れていく。家具も趣味の良い物とは言えないが、材料が素晴らしいのでいろいろオレが作るときに解体した物を使わせて貰う。美術品はマルコイディスさんにでも任せよう。売れるようなら売ってくれれば良いし、差し押さえられるようならそれで構わない。本命の隠れ蓑になってくれれば良い。
 調べ尽くされたのだろう二階の書斎に赴くと書類や書籍が散乱していた。書籍にはあとで復元の魔法を創ってかけてみよう。リペアとかってよく小説に出てくるあれをイメージすればできそうだ。その魔法ができれば邸のリフォームもはかどるだろうし。書類は、なにがヒントになるのか分からないのだからすべて持ち帰る気概で居ないとダメだよねって思うけど、どうなんだろうね。
「この部屋にあるのですか」
 ある意味本当の被害者なアルは、宝より真実を知る手がかりが欲しいらしい。今更知っても何かが変わることはないけれど、両親、それも父親の関与がどれほどの物なのか知っておきたいらしい。知っていて加担したのか騙されてはめられたのか。

 オレは机の引き出しが二重底になっているのをみんなに見せて、そこに魔力を流す。本来なら登録した魔力の波長にしか反応しないのだがチートは狡いのである。波長を合わせるのは解錠スキルの技だ。隠れていた魔法紋が浮かび上がりそのまま天井に消えると、上からはしごが降りてきた。天井裏の隠し部屋だ。
今更だが明かりはライトの魔法で灯している。動力源は玄関ホールにオブジェのようにある水晶のような魔法石で、そこに魔力を貯めておけるということだった。玄関ホールの理由は忘れたら困るし、切れたときにすぐに補充できるようになのだとアルが教えてくれた。誰が補充しても使えるそうだが、魔力が少ないと時間がかかるそうだ。オレの魔力は多いから速攻で満タンになって驚かれた。
 隠し部屋にもライト設備は整えられているようで、上がっていくと自動で部屋が明るくなった。入れるのは三人でギリギリのサイズで背の大きなアルは頭を下げないと立っていられない状態だった。オレも髪の毛が擦っている気がするので180cmなんだろうな。立てるだけで思わず腰曲げて歩くし。
 ここは綺麗に整頓されていた。アルは早速機密書類へと手を伸ばしていたが、好きにさせておくことにした。手に負えなくなりそうなら天眼使って助力するつもりだけど、今は自分一人でやりたいだろうと思ったから。
 リンとオレ、そして妖精達はお宝に集中することにした。白金貨や金貨はそのまま無限収納へ放り込むと3億エルほどになった。これはこのまま貰っておく。邸を購入時に敷地内はすべてオレの物になるという契約したからね。先ほど言っていた絵画などをマルコイディスさんに託すのはあくまでもイメージ戦略だ。はっはっは。
 今回も、宝飾だらけで実用性のない魔剣もどきは商業ギルド経由で御領主様にでも献上しよう。魔剣って言っても魔法剣って類いで悪い物でも無いし。
 リンと二人で魔法道具や魔法の指輪、魔物素材等々あるものすべて鑑定しまくって仕分けしていった。要る物要らない物、再考する物、やばい物。
 いくつかのマジックバッグもあったので、中身を取り出して空になった容量大のウエストポーチをアルに渡した。それに書類を全部入れて下の部屋でゆっくり調べれば良い。ここはマジ狭いから、酸欠も気になる。アルが借りるつもりで受け取るから、アルの個人所有で契約するよう促した。オレも共同登録することでやっと受け取ってくれた。うん、ここにあった契約済みの魔法道具全部、契約解除しちゃってるからね、オレがわざわざ契約しなくても使えるんだけどさ、気持ちの問題なんだって。
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