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カップノワール商会始動

あやふやな記憶を手繰り寄せる(2)

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「アマネ様こそ、こんな大男を相手にされて後悔されているのではないですか、みっともない醜態をさらしてしまい呆れているのではないですか」
 様付きに戻ってしまった。後悔していないかと言われたら後悔している。しかし責任はきちんと取るつもりであり、責任は謝罪からではない。オレのモノにしてしまったからには一生掛けて幸せにするという覚悟の責任だ。モノ扱いするなと言われそうだが、オレが囲うという意味ではモノなのだ。物では絶対無いことだけは言っておく。
「アル、こっちを向いて。今から言うことを信じてほしい」
 俯いたままだが、意識をこちらに向けたのが分かる。アルの手にオレの手を重ねて続ける。
「オレのことはアマネだ、隷属契約しているけれど対等な人間としてこれからも接してくれ。矛盾になるがこれは『命令』だ」
 この世界の隷属契約に精神・意識操作はない。契約された約束事が破られた時に奴隷紋が痛みを与える仕様らしい。魔導具として西遊記の緊箍児のように締め付ける首輪などもあるそうだが、それも物理的に言うことを効かせるだけで精神的に作用しない。リンが持っている魅了スキルとは別物なのだそう。
「契約にない命令なので背くことはできるが、アルにはアマネと呼んでほしい」
「皆にそう呼ばせるのですか」
「雇い入れる奴隷すべてではないよ、逆にキャロルにアマネ呼びされるのは……うん、嫌だな」
 想像して笑ってしまう。まだ心は日本人なので敬称への拘りは大きいようだ。対等な人間、目上の人間、敬える人間ならアマネ呼び大歓迎だけど、その逆は抵抗あるな、うん。キャロルの場合は年下の可愛がる対象だからってだけだけど。

「昨夜?いや一昨日の夜になるのか……その時のオレはまともじゃ無かった。理性なんて無くて本能でしか動いてなかった。それは本当に申し訳ない」
 仕方の無いことだと説明されても、これは人として謝罪しなければならないことだと思った。謝るなと顔を上げるアルに対して『今』だとキスをする。最初は軽く、だんだんしつこく。アルの肉厚で弾力のある舌が応えてくれる。目元は赤く色づく。
「アルはカワイイ」
 耳朶に息を吹きかけながら囁くと、アルはぶるりと震えた。
「カッコイイのにカワイイ。男らしいのにカワイイ。イケメンでカワイイ。お兄ちゃん頑張っているのもカワイイ。真面目なのもカワイイ。オレに逝かされちゃうのもカワイイ。オレの下で醜態さらすの可愛過ぎ」
 たくさんのカワイイを連呼する。他で言われたことはないだろうオレだけのカワイイ、アルバート。それなのに強い、オレの騎士。
「後悔はしているよ、初めてだったんだろ?もっと余裕持って善がらせてあげたかった。あの時の記憶は断片的でしか思い出せなくて悔しい。
 それでも2回目に理性が飛ぶ前に話したはず。オレはアルが愛おしい。平等なんてきれい事は言えないけれど、アルを抱いたこと自体は後悔していない。
 覚えておいてくれ、オレは遊びで性交するタイプじゃ無いんだ。抱かれたからにはオレの恋人になったんだ、アルこそ覚悟してくれよ」
 顔をこれ以上に無いほど真っ赤にしているアルがカワイイ。カワイイが増えていく。
「オレにはリンも居るのに、アルにもリンにも他を作ってほしくない。我が儘な恋人でごめんな」
「はい、はい」
 アルは何度も頷く。
「オレはアマネを好きになって、愛して良いのだろうか。ずっと」
「そうして貰わないとオレが困る」
 お互いに強く抱きしめ合って、額を合わせながら笑う。安心したのかオレの腹の虫が仕事を始めた。ぎゅるるるるる~と大きな音に2人で笑う。
「温め直してこようか」
 腹減りのオレはそれを制して、冷え切った粥もどきを口に運んだ。うん、これは塩味で良いよ。

 食事中のオレを見つめながらアルは表情を暗くする。
「今度は何が不安なんだ」
 皿を空にしてクリーンをかけておく。それから率直に質問した、遠回しに訊いても誤解を招きそうだったから。
「俺だけ置いて行かれるのだと気がついてしまいました」
 寂しそうに言うアルの真意が今ひとつ理解できずに問い返す。
「置いて行かれるとは?もう少し詳しく」
 大事なことは確認大事。知ったかぶりや解ったふりは危険。
「リンはクオータエルフで寿命長いですし、外見も変わらないと聞きます。不老のアマネに俺はいつまでカワイイと思って貰えるのか不安になりました」
 食べているオレを見て、そこまで思考飛ばしましたか。そうですか、がっついて居るオレを見て、きっと『若いな~』とか思ったんだろうな。中身はおっさんなのにな。
「オレはアルがお爺ちゃんになってもカワイイって言い続けられる自信あるけどね、アルからしたら確かに不安だよな。今だけじゃ無く先も考えてくれて嬉しい。
 可能性の話だけど、リンはオレの眷属になっているんだ。そしてオレの眷属で居る間はリンも不老だ。だからアルも眷属になってくれるなら不老になるだろう。
 でも、それってよく考えると呪縛だ。長い長い時間オレの傍らに居続けることになる、そして家族や他の仲間と違う時間を生きることになる。簡単に決めていいことじゃない」
 アルにはキャロルという大事な妹が居るんだ。オレのエゴで時間を止めて良いわけがない。
「ゆっくり考えれば良いよ。大丈夫」
「キャロラインを眷属にすることはできないのですか」
「そうだね、まだ基準は解っていないけどキャロルに眷属化できる知らせをオレは受け取っていないし、受け取ったとしても眷属にはしないと思うよ」
 奴隷契約も大きな責任を持つけれど、眷属化は比じゃない責任になる。オレがこの手で守れる数しか契約したくはない。アルは少しばかりショックを受けたようだったが、こればかりは譲れない。
「今のままで良いんだよ」
 そう伝えることが精一杯だった。
 オレは自信にクリーンをかけて、もう一度眠ることにした。時差呆けにならないように明日の朝には必ず起こすように御願いだけはした。
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