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074. 狼人の手紙
しおりを挟む「そう……だよね……っ。」
悔しそうに、辛そうに腕の中の少女へ声を掛ける。
寝床の上、リリナの傍らに紙切れが数枚置かれている。
「これ……?」
リリナを優しく解放し、その紙を拾い上げる。
「多分、お手紙……。
でも、私、読めないから……。」
涙を拭い、鼻水を啜りながらリリナが答える。
そこに書かれている文字に目を通す。
文字はぎこちなく震え、お世辞にも綺麗な字とは言えない。
だが、一筆一筆に力が込められているのが分かり、
気持ちを伝えようとするその精一杯の努力は伝わってくるものがある。
――集会所でラウルが言っていたことを思い出す。
『……文字も一応書けはするんだが、
如何せんこの大きな手だ。どうにも書き物は苦手でな。』
「(苦手って言ってたのに……。)」
――。
* アシュリィが来てくれることを信じてこれを残す。
* まず初めに、騙すようにして旅立ってしまうことを謝罪する。
* 許さなくて良い。俺の弱さ故の過ちだ。
*
* 謝礼は不要という話だったが、リリナの資金としても受け取って欲しい。
* 貨幣は嵩張るため、遺物その物を可能な限り置いておく。
* 売ればおおよそ――
「――!?」
驚いたアシュリィが目を丸くする。
寝床の上から木箱にちらりと目をやると、
隅にはゴロゴロとした物が入っている袋が見える。
その書かれていた金額は、町にいる旅人が半年は生活できるほどの大金である。
物量的にも、財産の大半を置いていったのだろう。
アシュリィの目に薄っすらと光が射し込む。
「……。
こんなに……こんなに大切に思ってるじゃない……っ!」
* アシュリィには色々と迷惑を掛けた。改めて感謝を。
* この後も暫くはリリナのことを頼んでしまうことになるだろうが、
* どうか宜しくお願いしたい。
* いつか『星の道』へと辿り着ける日を願っている。
*
* そして、リリナ――
未だ涙が止まらない彼女へ視線を送る。
* 助けたあの日、あれは良心からではなく
* 妹のことで塞ぎ込んでいた俺の義務感だった。
*
* だが、事情を知り、純粋な感情で接してくれるお前と一緒にいることが
* 不思議と心地良く感じられた。
* 楽しかった、と言っても良いのだろう。
* 結果として過去の【啓示】を受けられたのも、
* 行動を共にしていたことが関係しているのかもしれない。
* そんなお前の故郷を共に探してやりたい。そういった思いもあるが、
* 旅は危険とも隣り合わせだ。
*
* お前はまだ小さく、これから多くのことを学び、長い時間を生きる。
* 安全な場所、穏やかな環境で成長していって欲しい。
* いつかは故郷の情報も見つかるはずだ。
*
* どうか、どうか幸せになってくれ。
「(最後の一枚……。)」
* 最後に。
* 手紙での別れになってしまったことを深く謝罪する。
* この数日、本当に心地良かった。幸せだった。
* これ以上この環境に身を置くことで、自身で決めた旅の目的以上に
* リリナのことを優先してしまう己が垣間見えてしまった。
* だから逃げるようにここを去ることにした。
*
* この先、二人のことを忘れることはない。ありがとう。
読み終えたアシュリィが再びリリナを優しく抱き寄せる。
その瞳は少し潤みながらもキッと遠くを見据え、悔しそうに言葉を漏らす。
「まだ……間に合う――。」
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