失われた相場譚2~信用崩壊~

焼き鳥 ◆Oppai.FF16

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第18話・幽霊観

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「なにそれ怖い」

 俺が反応するよりも早く、宇藤が。
 眉毛の上あたりに縦線がたくさん。

「ちょっとサラちゃん、それ……」

 オタオタと美原さん。
 サラのドレスの腰の部分をクイクイと引っ張ってる。
 口外するなと言う事だろうか?

「なんだよそれ、藪から棒だな」

 正直な感想を述べる。
 女の子? 頭の上を通った? ワケワカンネ。

「それこそサラの幻覚とか見間違いじゃないのか」

 いままで散々言われてきたことを、サラにぶつけてみる。
 すると。

「そうかもしれない」

 と、意外にもあっさり折れてきた。

「そ、そうよねー。そんな幽霊みたいなものが出てきたなんて冗談じゃ……」

 この手の話には弱いのか、宇藤が否定しにかかる。
 しかし。

「でも園実も見た。はず」

 とサラが状況を追加。

「あわわ……」

 まるで幽霊を見るような目で宇藤に見られて、挙動不審になる美原さん。
 両手を開いて胸の前で振りはじめる。

「……見たの?」

 両手の否定も虚しく、宇藤から追及を受ける。

「み、見たっていうか、チラッとそんなものが見えたような気が……」
「見たのね」
「いえあの、どっちかっていうとサラちゃんの声に驚いた方が」
「なによハッキリしないわね」

 いきなり不機嫌になる宇藤。
 なんだ、そういう話は苦手なんじゃないのか?
 よく分からん奴だな。

「しかしなんだ、上を通ったんなら……見上げれば見放題……?」

 中学生ならセーラー服だろ。
 プリーツスカートだろ。
 当然、白■■■だろ!

「なんですぐに知らせてくれなかった? サラ!」

 なんか急に目が覚めてきた。
 これがザラ場中にあれば、居眠りなんてしなかったのに!

「加治屋、サイテー」
「まったくね」
「あ、あの、今のは私もその、ちょっとって……」

 三人同時に、眉間にしわを寄せられてしまった。
 オマケに、ちょっと引かれてしまう。

「そもそもなんで白限定なのよ!? 納得いかないわ!」
「そこかよっ!」

 つーか人の心を読むなって……っていかん、軌道修正しなければ。

「……それは、祢宜さんが映ってたとかじゃないのか?」
「ノー、祢宜さんは午後から席を外してた。それに」

 サラの否定。続けて。

「そのころ加治屋は爆睡中だったから」

 と、とどめを刺されてしまった。

「何時頃だったの?」
「14時になったころ」
「あー、その頃ね……」

 宇藤が頷いて。

「正直に言うと、私もちょっとボーッとしてたかも」
「なんだよオマエもかよ」
「なによ、私はアンタみたいにヨダレ食ってなかったわよ!?」

 まあとにかく、後場寄りで前場の空売りと買いを手仕舞いしていたので、ますます手持ち無沙汰な状態だったのだ。
 それでも、宇藤もウトウトしてたとは意外だったな。

「とにかく」

 間に入るようにして、サラ。

「これで目が覚めた?」

 下からじっと見上げてくる。

「あ、ああ……もう大丈夫だ」

 宣言する。
 軽くポーズもとって見せる。

「それなら、今日もよろしく」

 言って、さっさと自分の席に移動するサラ。
 昨日もやったが、今日もこれから夕食までサラの仕事の応援をするのだ。

 それは、サーバのログデータのチェック。それもデータの文字列そのものだ。

「数字とアルファベットの羅列に目が滑るなら、19,20,21桁目を基準にするといい」

 サラのアドバイス。
 なんでも、そこの3文字は何故かアルファベットで意味のある単語(AREとかGODとか)になる場合が多いらしく、目に留めやすいのだとか。

「分かった。頑張ろう」

 言って、座ってた丸椅子をサラの横に持って行って置いた。
 サラも転寝うたたねするような奴に手伝ってもらいたくないのだろう。
 それでさっきのようなヨタ話をしたに違いない。
 おかげさんで、目はバッチリ覚めたが……

 ……ヨタだよな?

 ………………

 …………

「……寝れんぞ……」

 PCルーム、22時30分。
 明日は、今日のような醜態を晒さずに済むように、早寝することにしたのだが。
 夕方、サラが言ってたことがやっぱり気になって、寝れなかった。

 結局、それらしいエラーデータは見つからなかった。
 疲れ切った俺ら4人には、食堂で待っていた祢宜さんの笑顔が眩しかったのだが。
 (昼飯に続いて、夕食でも双子の攻撃をくらったが、もう反撃する余裕もなく好きにさせていた)

「……ぬうう」

 シャワーを浴びて、一緒に洗ったワイシャツをアイロンがけしたあたりまでは眠かったのだ。もうフラフラで。
 だが、その後歯を磨いてベッドに潜り込んだころには、すっかり目が冴えてきていた。

「出るなら出てみろ……」

 サラが言うところの女子中学生、宇藤が言うところの幽霊。

「下から覗いてやる」

 と強がってはみるのだが。

 カーテンの隙間から漏れてくる月明かりに浮かびあがる部屋の中に。
 静けさをいや増しにするような壁紙の白さに。
 いきなりJC幽霊が浮かび上がるんじゃないかと言う恐怖心が。

「そもそも、サラのヨタ話に決まってるし……」

 強がりや半端な理論防御を打ち砕く。

 …………

「……ああくそっ」

 起き上がる。
 強引に肉体を限界に到達させれば、頭で何考えようと眠れるに違いない。
 そう思って、昨夜のようにPCでFPSを立ち上げてプレイしようと思った。
 のだが。

「んんっ!?」

 横目に見える窓のカーテン。
 月の光に照らされたそれに、何やらヒトガタっぽいシルエットが張り付いていた。
 しかもそれは、普通の女の子くらいの高さときている……

「くっ、こ、こいつが……?」

 幽霊なのか? サラや宇藤が言っていた?
 もしそうならば。
 高さ的に下から覗くのは不可能だ!!

「それならっ!」

 下から捲りあげればいいだけの話。
 そう思ってカーテンを両手で思い切り開いたのだが。

「!!……ひ……」
「って、あれ?」

 そこ(掃き出しの窓の外)には、グレーのスウェット姿の美原さんが立っていた。

「ひいいいいいっ」

 ヤバい!
 美原さんの、悲鳴を通り越した本気で怯える声。
 倒れてしまう前に、窓を開けて飛び出し、美原さんの背中を支えた。

「だ、だいじょうぶですっ!」

 言った俺自身、何が大丈夫なのかさっぱり分からなかった。

 …………

「はあ、そうだったんですか」

 目を白黒させた美原さん。
 落ち着きを取り戻した後、なぜ自分がここに居るか、ぼそぼそと話してくれた。
 
 それによると、サラの話を真に受けた俺が、また今夜も寝れなくて明日の仕事に支障が出るかもしれない、と。
 そうなるのを防ぐために、サラの話は冗談なんだと断言して俺を安心させるつもりで来たのだそうな。

「とにかく、驚かしてしまってスミマセンでした」
「いえ、私も窓の外のテラスでウロウロしてて、不審者みたくなってましたし」

 何故か、PCルームのドアをノックするのを躊躇ってしまった美原さん。
 応接の掃き出し窓からテラスに出て、そこから中の様子を見て俺にアクセスしようと思ったらしい。
 だがしかし、カーテンは閉められ、中はどうも明かりも落とされている模様だと。

「でも、真っ暗の中から、いきなりカーテン開けられて顔出されたら、そりゃビックリしますよね」
「え、ええ、まあそうなんですけど」

 そこで美原さん、テラスの端に移動する。

「あ、ほら加治屋さん、星がこんなに綺麗に」

 言って両手を開く。
 降り注ぐ星の光を、全て受け止めようとするかのように。

「夏の大三角形がこんなにハッキリと見えるなんて……」
「あ、はあ……美原さんは星に興味があるんですか?」
「え、ええ。星というか星座の物語になんですけど。特にギリシャ神話とか」

 美原さんは、見た目そのままに少女趣味なとこがあるんだな。

「加治屋さん、ほらあの白鳥座、神話ではゼウスが変身した姿だって……」
「へ、へえ……」

 しかし、なんだろう、この妙なムリヤリ感は。
 なぜ俺に夜空を注視させたがる?

「あ、それと、あのベガ。七夕の織姫でも有名ですが、ギリシャでは琴の名手のオルフェウスが……」
「わーそーなんだー(棒)」

 それは多分、後ろを見せたくないからなんだろうな。

「そしてアルタイルには、あの美少年ガニュメデスの神話が……って!」

 美原さんのギリシャ神話紹介を無視して、いきなり後ろを振り向いた。
 すると。

「あ、バレた」

 サラが、テーブル前の椅子に座ってFPSゲームをしていた。

「ちょっとぉ、このキャラなんか変よ」

 宇藤までいる。
 つうかアンタらいつの間に?

「……どういうつもりだ?」

 画面を見ると、俺のキャラがやられまくっていて、画面全体がファイヤークラッカーレッド状態だ。

「園実の貞操を防御するため」
「アンタを犯罪者にしないためよ」

 なんて奴らだ。
 俺にはプライベートは存在しないのか?

「もう、サラちゃんったら……」
「おお、美原さん、一発ガツンと言ってやってくれ!」

 そうだ、こういう時にこそ常識人としてのモブキャラが引き立つというものだ。
 さあ美原さん、思い切って!

「リロードしないから弾切れのままじゃないの」

 ギャフン!


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