運命の番は僕に振り向かない

ゆうに

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3 仕事

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「伊井田さんまだ終わってないの?」
「すみません…」
「…今どきこれほどパソコン扱えない人も珍しいよ。よくうちの会社入れたね」

千遥の教育係になった同じオメガ性の倉木が、ため息混じりに言った。

藤郷を脅して?紹介してもらった働き先は千遥の想像を遥かに超えた大きな会社だった。
しかも代表を務めるのは藤郷本人だった。

千遥はそこで主に総務を担当する部署に配属された。驚いたことにその部署はオメガの社員が多く働いていた。聞けば今は国がオメガの雇用を企業に推進していて、大企業ではオメガ性の社員も珍しくないらしい。

「コネ入社って噂もたってるよ?こんな中途半端な時期だし」
「いえっ、そういうのではないです…」

千遥は内心慌てながら否定した。
藤郷から仕事を紹介する代わりに自分と運命の番であることはもちろん、一切の関係がないように振る舞えと言われている。

「あっわかった!あれでしょ?まともな職歴のないオメガを雇用すると助成が受けられるとかなんとか。会社にメリットがあったんだ」

「あ、そうみたいです」
 
「ふーん、なるほどね。それじゃあ仕方ないか。まあ頑張って」

千遥の肩をぽんと叩いて倉木は自分のデスクにむかった。

教育係の倉木は華奢で可愛らしい見た目の男性オメガだった。
倉木だけではない。この部署で働くオメガの社員のほとんどが千遥に比べると華奢で庇護欲をそそられる容姿をしていた。


「お、藤郷社長来てる。なんの用事だろう?」

倉木の言葉に千遥は反射的に部屋の入口に目をやる。
そこにはスラリと背が高く、仕立ての良いスーツを着た藤郷が立っていた。
一瞬、彼と目が合った気がしたがすぐに逸らされた。そもそも千遥の気の所為かもしれない。

千遥の耳は自然と彼と総務部の他の社員との会話を拾っている。

「社長、今度新入社員の歓迎会をするんです。社長もよかったら来てください」
「都合が合えば顔を出そう」

「やった。待ってますね」

可愛らしいオメガの女性社員が藤郷に愛想を振りまいている。
彼女だけではない、この場にいるオメガ社員の多くが、社長でアルファでもある藤郷に熱視線を送っている。




この会社に雇用してもらってすぐのころ、
仕事を紹介してくれたことの御礼を伝えたくて千遥は藤郷に声をかけたことがある。

「と、藤郷社長」
「何の用だ?」
「あの、仕事を紹介してくれて本当にありがとうございます。本当に助かり――」
「感謝してるなら俺には関わらないでくれ。一切俺と関わりがあるとまわりに話さないでくれ」

「はい…」

千遥は見た目も良くないオメガだから知り合いと思われたくないのだろうか。
冷たく言い放った藤郷はすぐにその場から去っていった。




定時に退社し、帰路につく。
千遥は就職と同時にそれまで住んでいたオンボロアパートから、会社が寮として借り上げているアパートに引っ越した。家賃も会社から補助が出るので格安ですんでいる。
まともな仕事もなく仕方なく体を売って生活していた頃と比べれば遥かに良い生活を送れている。
だからこれで満足すべきなのかもしれない。

でも近くにあれほど待ち焦がれていた運命の番がいるのだ。
千遥は期待を捨てきれずにいた。
今は冷たくても、もっと頑張って仕事を覚えて、一人前になれば彼にも見直してもらえるかもしれない。

いつか彼にとって大切な存在になれるかもしれない。



かつて千遥の目の前で、元恋人の枇々木は運命の番と出会ってそれはそれは幸せな顔をした。まるでこの世のすべての幸福がそこにあるというような表情。
そんな顔、千遥はそれまで一度も見たことがなかった。

運命の番とはこれほど強く惹かれ合うものなのかと、当時千遥は衝撃を受けた。
それなら千遥にはどうすることも出来ないんだと、
なすすべなく、大好きだった枇々木を諦めるしかなかった。

でも、だとしたら千遥だって運命の番とは何があっても結ばれるべきなのだ。
そうじゃないと、困る。
運命の番が現れたから枇々木を、身を引きちぎられそうに辛くても諦めたのに。


絶対的な存在でなければならない。
そうであるはずの運命の番との絆が千遥に対しては当てはまらないなんて、これ以上惨めなことはないじゃないか。





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