運命の番は僕に振り向かない

ゆうに

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5 お弁当

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「うー頭痛い」

歓迎会の翌朝、自宅のベッドで目を覚ました千遥は二日酔いによる頭痛に顔をしかめた。

(あー昨日はやっちゃったな…)

昨夜、酒を飲みすぎて気持ち悪くなり、路上で吐いてしまった。しかも藤郷の目の前で。さらに運の悪いことに藤郷のスーツを汚してしまった。
何度も謝って、スーツのクリーニング代を支払うと申し出たがきっぱりと断られてしまった。
その後、藤郷は律儀にも千遥をアパートまで送ってくれたのだ。

(優しいところもあるんだな)

千遥に限らず、会社の社員には基本親切に振る舞っているのかもしれない。
それでも今まで冷たくされてばかりだったせいか、期待したくなってしまう。彼も運命の番である千遥のことを少しは気にかけているのかもしれないと――









後日――


「藤郷社長」

会社の人気のない廊下で千遥は藤郷を呼び止めた。

「なんだ?」
「先日は酔って大変ご迷惑をおかけしました。あの…それで実はお詫びも兼ねてお弁当作ってきたんです。良かったらお昼一緒に食べませんか?」

「……俺がいつ食べたいと言った?」

冷めた藤郷の瞳に千遥は怯みつつも言葉を続ける。

「あ…あの、自分のお弁当のついでに作ったものなのでもしよかったら――」
「いらない。結構だ」

そう言うと藤郷はすぐに千遥に背を向けてスタスタと行ってしまった。



昼休み。
会社近くの大きな公園の、木陰のベンチで千遥はひとり弁当を食べる。

藤郷の好物が何かわからなかったからいろいろおかずを詰め込んだ弁当箱の中身を見る。

「……」

まあこうなることはほとんど予想していた。
ちょっと親切にしてもらったからって、それで自分が彼の特別だと勘違いしてはいけなかった。
そういうことだ。

弁当のおかずを一口食べた時、どさりと勢いよく隣のベンチに誰かが座った。
思わず千遥は隣を見る。

隣に座った男性はよほど喉が渇いていたのか、こくこくこくと勢いよくペットボトルのお茶を飲んでいる。
仕事先から戻ったばかりなのかもしれない。
千遥と同じ時期に中途採用で入社した営業部の小山内だった。

千遥の視線に気がついた小山内がこちらを見る。

「あ、お疲れ様です」
「お疲れ様…君は伊井田くんだったよね?」

「そうです。僕のこと覚えててくださったんですね」
顔を合わせて話したのは歓迎会の帰り以来だった。

「そりゃ同期入社は二人きりだし。あ、俺の名前知ってる?」
「小山内さんですよね。先日の歓迎会の帰りは酔ってご迷惑かけてすみません」
「いや、全然。それにあの後は社長に任せっきりだったし。うちの社長クールな印象だったけど、意外に面倒見いいとこもあるんだな」

そこで小山内はチラリと千遥のもつ弁当を見る。

「美味しそうだね。もしかして手作り?」

「あ、はい。僕が作りました」

「へー器用だね。あー俺も腹減ってきた。何か買ってこようかな」

「お昼はこれからですか?」
「そう。午前中の仕事が思ったより伸びちゃって…」

「あ、あの、実はお弁当作りすぎちゃって余ってるんです。良かったら食べてください」
そう言って、千遥はもう一つの弁当箱を鞄から取り出す。

「えっ、いいの?」
「はい、余った分なので…もし、迷惑じゃなければ…」

小山内は弁当箱を見て言う。
「全然迷惑じゃないけど…ひょっとして誰かにあげるものだったんじゃない?」
「いいんです。不要になってしまったものなので、食べてもらえると逆に助かります」

「ラッキー。じゃあ遠慮なくいただこうかな」
小山内はそれ以上深く追及せず、ニコリと笑って千遥から弁当を受け取ってくれた。


「うんこれ、めっちゃくちゃ上手い」
「いやそんな…普通です」

小山内は千遥が作った平凡な弁当を褒めちぎって完食した。
明るく接してくれる小山内に千遥は少し救われた気持ちになった。




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