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しおりを挟む『千遥っ、本当にごめん』
数年前、大好きだった恋人の枇々木は旅先で運命の番と出逢って千遥と別れる選択をした。何度も何度も千遥に謝って。それまで泣き顔なんて見たことがなかったのに悪かったって、涙まで流していた。
その時にはもう枇々木の心は千遥じゃなくて運命の番の方を向いているってわかってたから別れたくない、なんて縋り付くことはしなかった。
でも千遥は心の中で何度も後悔していた。
枇々木が運命の番と出逢うことになった旅行。その行き先を決めたのは千遥だった。あの時、千遥が別の行き先を選んでいたら二人は出逢わなかったんじゃないかって。
そうしたら今も千遥の隣には枇々木がいてくれたんじゃないかって。
枇々木は千遥のもとを去る時、困ったことがあったらいつでも気にせず自分に連絡してほしいと言っていた。
でも千遥はお金がなくて生活に困るようになっても彼には連絡出来なかった。
運命の番と幸せに暮らしているであろう彼の重荷になんてなりたくなかった。幸せいっぱいの彼に可哀想だと同情されたくなかった。
だから千遥も、自分の運命の番と出逢えることを一心に願っていた。出逢いさえすれば千遥も無条件に幸せになれると思っていた。
でも現実はそう上手くいかなかった。
◇◇◇
千遥はとても悩んでいた。
あと数週間で発情期がくる。
藤郷に好かれていないことはわかっていたが、それでも一応彼は千遥の運命の番だ。その期間だけは一緒に過ごすことも考えてくれるかもしれない。
歓迎会の日だって酒に酔った千遥を一応は心配してアパートまで送ってくれた。
いつも嫌がられるけどこちらから話しかけていればいつか距離が縮まる可能性だってある。
数日間散々迷って、結局千遥は藤郷に声をかけた。
「藤郷社長お疲れ様です」
千遥に声をかけられ振り向いた藤郷は冷めた目でこちらを見る。
「あの、まだ数週間先の予定なんですが発情期があって……その……」
緊張で口が渇き、言葉が続かずにいると藤郷が先に言葉を放つ。
「…君の教育係、オメガ性の社員だったろう?」
「あ、はい」
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「なら発情期の休暇申請の仕方を教えてもらいなさい」
それだけ言うと藤郷はくるりと背を向けて再び歩き出した。
千遥は慌てて呼び止める。
「ま、待ってください」
「……まだ何か?」
ため息を吐き、藤郷は立ち止まる。
「それでその…そのとき一緒に過ごしたり…とか…しますか?」
「なぜ俺がお前と過ごさなければならない?」
眉間に皺を寄せる藤郷にびくびくしながら千遥は周りに聞こえないように一層声を落として言った。
「い、一応…運命の番同士ですし…」
千遥の言葉に藤郷は大きくため息を吐く。
「仮に運命の番だとして。そうであれば本人の意思に関係なく発情期を共に過ごさなければならないのか?それが義務だとでも言うのか?」
「いっ、いえ、違います。嫌なら別にいいんです」
「俺は嫌だと言っている。これ以上くだらないことで話しかけるのはやめろ」
(くだらないこと…)
鉛のように重くその言葉が千遥の心を沈めていく。
彼にとって、運命の番であるはずの千遥の発情期はくだらないことのひとつなのか。
千遥はそれ以上は何も言うことができずに、離れていく藤郷の背中をしばらく見つめていた。
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