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7 矛盾
しおりを挟む「なんだか、今日はため息多いね」
「あ、ごめんなさい」
昼休み、社内の休憩スペースで小山内と自作弁当を食べていた千遥は知らぬうちにため息を連発していたようだ。
「何かあったの?」
食べる手をとめ、小山内が心配そうに千遥を見る。
「いえ、何でもありません」
「そう?毎回弁当食べさせてもらってお礼もできてないから、悩みくらいならいくらでも聞くけど」
「お礼なんて、お弁当も多く作りすぎちゃって余ってるだけですし…」
本当のところは懲りずに毎回藤郷に声をかけているのだが、その度にいらないと素っ気なく断られている。面倒なのか最近は返事さえしてくれないときもある。
落ち込むけど、こうやって余った弁当を小山内がちょくちょく食べてくれることもあってそれに救われていた。
明るい性格の小山内は平凡オメガの千遥にも気さくに声をかけてくれる。
「悩みというか…ちょっと気になってる人がいるんですけど相手は僕のことどちらかというと嫌っていて…でもまだちょっと諦めきれずにしつこく話しかけてしまって…」
「へー、そうなんだ」
(しまった…話しすぎた…)
くだらない話でも愛想よく聞いてくれる小山内についつい気安くなって余計なことまで話しすぎてしまった。
「き、気持ち悪いですよね…ストーカーみたいだし、諦めた方がいいってわかってるんですけど…なかなか…」
(引かれたかな…)
千遥は相手の様子を窺うように落としていた視線をちらりと上げて小山内を見た。
そんな千遥に小山内はニッと爽やかに笑ってみせた。
「気持ち悪くなんかないよ。好きなんでしょ?そういう気持ちって自分の意思でどうこうできるものでもないしね。まあ振られちゃったら諦めるしかないかもしれないけど…
俺だったら千遥くんに話しかけられたらむしろ嬉しいのに」
「ハハ、小山内さんくらいですよ。僕みたいなベータにしか見えないオメガにそんなこと言ってくれるのは…」
「えっそう?俺はベータとかオメガとか関係なく千遥くん可愛らしいと思うけど?」
「かっ、可愛いって…小山内さん冗談はやめてください。僕なんてベータと間違われてるくらいですからフェロモンも人より薄いみたいですし…」
「そうかな?俺は千遥くんの香り結構好きだけど」
小山内は心持ち千遥の首筋に鼻を近づけスンスンと嗅いだ。
「マーマレードみたいな甘い柑橘系。もしかして発情期近い?」
少し首を傾げて尋ねる小山内の仕草はなんだか色っぽくて、千遥はカアッと頬が熱くなった。
「って、ごめん!今のセクハラだよね…」
千遥の様子を見てすぐに小山内は距離をとり謝った。
「いえそんな、全然大丈夫です」
いろいろ本気にしてはいけない。
千遥は自分に言い聞かせる。
小山内は明るく誰にでも気さくで、しかもアルファだ。モテるに決まっている。「可愛い」とかそういうことは普段から言い慣れてる彼にとって挨拶程度の発言に違いない。
まだ熱が冷めない頬を小山内から隠すように少し俯いて、弁当のおかずの残りを食べようとした時――
「伊井田」
名前を呼ばれて振り向くとそこには藤郷が立っていた。
「ちょっといいか?」
「あ、はいっ」
藤郷から社内で声をかけられたのはほとんど初めてだった。驚きつつも千遥は急いで弁当をしまうと藤郷の元へ近づいた。
そのまま背を向けて歩き出した藤郷の後をしばらくついていくと彼は人気のない廊下で足を止めた。
「いつだ?」
「え…?」
「発情期はいつだと聞いている」
「あ…えっと三日後の予定です」
「わかった」
「え?あの…」
それだけ確認すると藤郷はまた千遥にくるりと背を向けて歩いて行ってしまった。
(……今のって、どういうこと?)
それから千遥は発情期が来るまでひとり悶々と考え続けた。
あんなに冷たい態度をとっていた藤郷がわざわざ千遥の発情期の日を確認しにきたのだ。
(それって――
それって、一緒に発情期を過ごしてくれるってことだよね?)
発情期の一日目、無事休暇を取れた千遥はドキドキソワソワしながら藤郷を待っていた。
部屋は前日にひと通り掃除したし、部屋着も持っている中では綺麗なものを選んで着ている。
しかしいくら待っても千遥のアパートのインターホンは鳴らない。
(いつ来るんだろう…)
もしかして仕事が忙しくて来れなくなったのだろうか。
いや……そもそもはっきり来るとは言われてなかった。
夜になるにつれ、だんだんと身体が火照り、頭がフワフワしてきた。
何度か火照る身体を自分で慰めたが、熱が上手く収まらない。
運命の番と発情期を過ごせると勝手に期待していた分、いつもより発情状態が辛く感じる。
来ないならあんなふうに思わせぶりに聞かないで欲しかった。期待させないでほしかった。
喉の渇きを覚え、ふらふらとベッドから起き上がり机の上の水に手を伸ばした時――
インターホンが鳴った。
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