運命の番は僕に振り向かない

ゆうに

文字の大きさ
7 / 17

7 矛盾

しおりを挟む





「なんだか、今日はため息多いね」
「あ、ごめんなさい」

昼休み、社内の休憩スペースで小山内と自作弁当を食べていた千遥は知らぬうちにため息を連発していたようだ。

「何かあったの?」
食べる手をとめ、小山内が心配そうに千遥を見る。

「いえ、何でもありません」
「そう?毎回弁当食べさせてもらってお礼もできてないから、悩みくらいならいくらでも聞くけど」

「お礼なんて、お弁当も多く作りすぎちゃって余ってるだけですし…」

本当のところは懲りずに毎回藤郷に声をかけているのだが、その度にいらないと素っ気なく断られている。面倒なのか最近は返事さえしてくれないときもある。
落ち込むけど、こうやって余った弁当を小山内がちょくちょく食べてくれることもあってそれに救われていた。
明るい性格の小山内は平凡オメガの千遥にも気さくに声をかけてくれる。


「悩みというか…ちょっと気になってる人がいるんですけど相手は僕のことどちらかというと嫌っていて…でもまだちょっと諦めきれずにしつこく話しかけてしまって…」

「へー、そうなんだ」

(しまった…話しすぎた…)
くだらない話でも愛想よく聞いてくれる小山内についつい気安くなって余計なことまで話しすぎてしまった。

「き、気持ち悪いですよね…ストーカーみたいだし、諦めた方がいいってわかってるんですけど…なかなか…」

(引かれたかな…)

千遥は相手の様子を窺うように落としていた視線をちらりと上げて小山内を見た。
そんな千遥に小山内はニッと爽やかに笑ってみせた。

「気持ち悪くなんかないよ。好きなんでしょ?そういう気持ちって自分の意思でどうこうできるものでもないしね。まあ振られちゃったら諦めるしかないかもしれないけど…
俺だったら千遥くんに話しかけられたらむしろ嬉しいのに」


「ハハ、小山内さんくらいですよ。僕みたいなベータにしか見えないオメガにそんなこと言ってくれるのは…」

「えっそう?俺はベータとかオメガとか関係なく千遥くん可愛らしいと思うけど?」

「かっ、可愛いって…小山内さん冗談はやめてください。僕なんてベータと間違われてるくらいですからフェロモンも人より薄いみたいですし…」

「そうかな?俺は千遥くんの香り結構好きだけど」

小山内は心持ち千遥の首筋に鼻を近づけスンスンと嗅いだ。

「マーマレードみたいな甘い柑橘系。もしかして発情期近い?」

少し首を傾げて尋ねる小山内の仕草はなんだか色っぽくて、千遥はカアッと頬が熱くなった。

「って、ごめん!今のセクハラだよね…」
千遥の様子を見てすぐに小山内は距離をとり謝った。
「いえそんな、全然大丈夫です」

いろいろ本気にしてはいけない。
千遥は自分に言い聞かせる。
小山内は明るく誰にでも気さくで、しかもアルファだ。モテるに決まっている。「可愛い」とかそういうことは普段から言い慣れてる彼にとって挨拶程度の発言に違いない。

まだ熱が冷めない頬を小山内から隠すように少し俯いて、弁当のおかずの残りを食べようとした時――

「伊井田」

名前を呼ばれて振り向くとそこには藤郷が立っていた。
「ちょっといいか?」
「あ、はいっ」

藤郷から社内で声をかけられたのはほとんど初めてだった。驚きつつも千遥は急いで弁当をしまうと藤郷の元へ近づいた。
そのまま背を向けて歩き出した藤郷の後をしばらくついていくと彼は人気のない廊下で足を止めた。

だ?」
「え…?」
「発情期はいつだと聞いている」

「あ…えっと三日後の予定です」

「わかった」
「え?あの…」

それだけ確認すると藤郷はまた千遥にくるりと背を向けて歩いて行ってしまった。

(……今のって、どういうこと?)



それから千遥は発情期が来るまでひとり悶々と考え続けた。
あんなに冷たい態度をとっていた藤郷がわざわざ千遥の発情期の日を確認しにきたのだ。

(それって――
それって、一緒に発情期を過ごしてくれるってことだよね?)


発情期の一日目、無事休暇を取れた千遥はドキドキソワソワしながら藤郷を待っていた。
部屋は前日にひと通り掃除したし、部屋着も持っている中では綺麗なものを選んで着ている。

しかしいくら待っても千遥のアパートのインターホンは鳴らない。

(いつ来るんだろう…)

もしかして仕事が忙しくて来れなくなったのだろうか。
いや……そもそもはっきり来るとは言われてなかった。


夜になるにつれ、だんだんと身体が火照り、頭がフワフワしてきた。
何度か火照る身体を自分で慰めたが、熱が上手く収まらない。

運命の番と発情期を過ごせると勝手に期待していた分、いつもより発情状態が辛く感じる。

来ないならあんなふうに思わせぶりに聞かないで欲しかった。期待させないでほしかった。


喉の渇きを覚え、ふらふらとベッドから起き上がり机の上の水に手を伸ばした時――

インターホンが鳴った。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。 そう思って、失恋の悲しみを猫カフェで埋めていたある日のこと。 僕は“彼“に出逢った。 その人は僕に愛を教えてくれる人でした。 失恋の先にある未来では、僕は幸せになっているのかな。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

彼氏の優先順位[本編完結]

セイ
BL
一目惚れした彼に告白されて晴れて恋人になったというのに彼と彼の幼馴染との距離が気になりすぎる!恋人の僕より一緒にいるんじゃない?は…!!もしかして恋人になったのは夢だった?と悩みまくる受けのお話。 メインの青衣×青空の話、幼馴染の茜の話、友人倉橋の数話ずつの短編構成です。それぞれの恋愛をお楽しみください。

【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした

鳥居之イチ
BL
———————————————————— 受:久遠 酵汰《くおん こうた》 攻:金城 桜花《かねしろ おうか》 ———————————————————— あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。 その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。 上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。 それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。 お呪いのルールはたったの二つ。  ■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。  ■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。 つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。 久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、 金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが… ———————————————————— この作品は他サイトでも投稿しております。

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

処理中です...