悪役令嬢引き受けます

NAMO

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ハイリスク・ハイリターンでも結構でしてよ

やばい選択、わたし間違えた?!

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 ネヴェルス公爵の目は、なにか深刻なものを伝えようとしているかに思えた。
「ルカイヤ・プラテルと申します」
 呼び止められゆっくりと向き直り、恭しくドレスを広げて名乗った。
「ルカイヤか。貴族の中にあったとしても誰もそなたを平民だなどと思わないだろうな。見事な所作だ。両親もよく作法を教えたのだろうか?」
「いいえ、閣下。私には親はおりません。作法所作はひとえにこの宿、ミンドライトの徹底した教育のおかげ、ご贔屓頂けましたら幸いです」
(自分ではなく宿を立てる!身を引いて身を立てる!完璧!)
 ネルヴェス公爵が宿の上客ともなれば、噂も人を呼ぶだろうし給金のアップ、職の安定につながるもの。今日も私は優秀だわ…と、退室許可を待つ。が、ネヴェルス公爵が放った言葉は
「ではルカイヤ。私の養女にならないか」



3歳の時、父が戦で死んだ。
勝敗を決する最後の戦だった。その戦の後15年。この国は戦に怯えることはなくて、比較的平和な状態にあると言っていいわ。
母は戦って死んだ父を誇りにしていた。それは泣き崩れないための自制だったのかもしれない。そう自分に言い聞かせなければ全てを呪ってしまいそうだったから、狂ってしまいそうだったからかもしれない。
そしておそらく、私という存在があったから強く生きなければならないと母は父の死を良いものとした。でも本当は許せなかったし悲しかったのだと思うわ。その心の乖離が母を蝕んでいったのね。母は父の名を呼びながら泣きながら病で逝ってしまった…

 親が2人とも居なくなって、身よりが無くなったけど、このミンドライトの女将が住み込みで働かせてくれたわ。
 幼なじみが親に可愛いドレスを買ってもらっているのを見て私は羨ましかった。私だって可愛いドレスが着たかったけど買ってくれる人は居ないの。学校で勉強してみんなで笑ってお菓子を食べて…もしたかったけど…わたしは働かなきゃ生きていけなかったわ。

 でも、幸いこのミンドライトは高級宿。支給される服もいいものだったし、上級従業員の赤いドレスの制服は貴族の一般客もそのデザインに惚れるくらい素敵だったの。
 そう、わたしはラッキーだったのよ。学校に行けなくてもここで語学や必要な勉学は習えたし、全て実践向け。頑張れば親無しの私もあの憧れのカッコイイドレスを着ることが出来る。だから、私は頑張ったのよ。



「それでは、そなたの父が私の友人であったということにして。どうだろう?」
 父や母の素性を話すとさらに公爵はわたしを養女にと誘った。なぜ?
 愛妾にと誘われついて行った先輩もいたけれどそんな感じでもない。わたしは先輩のように色気勝負なんてしないし(似合わないし)、そもそも公爵の表情はそういったものには全く思えなかった。
「閣下、失礼ながらわたくしから質問をさせて頂いても…?」
 いいだろう、と頷く公爵。
「なぜ、平民のわたくしをそんなに養女に迎えようと仰るのです…?」
 公爵の目が曇ったのを見た。なにか、こちらに申し訳ないことをしているといったような、そして悲しみのような。
「そなたは聡い子であろう。事情を説明したならば断ることは出来なくなろう。そういう、事情だ」
 説明を聞いたら断ることを許されない。それは…

何となくわかる。政治絡み、もしくはなにかの策略。貴族や商人の泊まる宿。守秘義務が張られていることが宿の安全性と信用の1つ。だからこの宿の個室では色んな話をするもの達がいる。事情を聞かずに断ればよし、事情を聞いて断れば…それは、最悪、死。

少し鳥肌が立った。

「では…仮に養女となった後、わたしはどのような生活を?」
 今の生活も気に入っている。けど国1番の貴族の養女はどんな生活をするのかも気になった。
「そうだな、王妃のような生活とでも言おうか。この宿での接客とはまた違った王宮の作法や規則は多くあるが、王宮で接客…と思えばそう変わりあるまい。そして接客される側にもなる。金はここにいるより遥かに自由に使えるだろうし、そなたの身分では出会えないようなもの達との交流もあるだろう。なにか好きな趣味があればそれを存分に楽しめるように計らおう」
 言うなれば、大出世。には変わりない。
 その裏にどんな目的があるのかは分からないけれど。ここでの仕事も気に入っているけれど、既に手に入れてしまった最上級従業員のドレス。ここから上の目標がない。
 人生これからも働いて…誰かと結婚するのかしら。結婚に対して夢を持てる余裕もないほど仕事と勉強に打ち込んできたから、恋愛なんて何をするのかも分からない。
 自分の店を持つだとか、そんな気も別にない。接客が好きだけど経営は女将を見ているだけで自分に合わないと思うもの。
 ならいっそこのチャンスでまた違う生活に飛び込むのもアリ?
 
 18歳。他の人とは違う「なにか特別な出来事」に惹かれたのか。それとも心のどこかに持っていた生い立ちのコンプレックスが働いたのか、養女…仮でも親という後ろ盾が得られる安心感が欲しかったのか。
あの時なぜYesと言ってしまったのか、その理由は今でもよく分からない。
下品な態度の貴族であったら微笑んでニッコリ辞退したのだろう。
何故かわたしは養女になることを承諾していたの。
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