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五章 人々ではない無意識の争い
6話 魔法で半分の虹の種
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家に帰っても、東を向くと――
まるで「やあ」と、青緑の山が声をかけてくるようだった。
他の山々の木には、もう葉は残っていない。
風に鳴る枝ばかりが、冬を先取りしている。
瑞々しく色を宿しているのは、ミナリーの山だけだ。
浮いている。
季節からも、世界からも。
どうせなら――
他の山にも、同じ色を与えてみようか。
そんな考えが、ふと頭をよぎる。
もちろん、やり方なんて知らない。
知っていたら、とっくにやっている。
それでも、山はそこにあって、
今日も変わらず、こちらを見ている気がした。
次の朝、起きて顔でも洗いに行こうとした。
驚いた。
寝床のすぐ横にあったのは――
まるで大きな荷物のようだ。
どうやって届けられたのか――
それもそうだがさらに驚き、思わず息を呑むことがある。
ツタの一本一本で、細かな意匠が施されている。
絡まっているだけではない。
組まれ、編まれ、形を成している。
それは、明らかに――箱だった。
開けてみる。
そこにあったのは、白い――
まるで、時間そのものに漂白されたような骨だった。
バラバラではない。
今にも、何事もなかったかのように立ち上がりそうな形を保っている。
もちろん、もう動くはずもない。
スケルトンだとか、そういう話でもない。
手に取った瞬間、
驚きよりも先に、呆れが込み上げた。
こんな姿になっていても。
それでも、分かってしまうのか。
仲間だった者は――
形を失っても、間違えようがないらしい。
紛れもなく、この骨は。
あの魔法使いのじいさんのものだった。
もしかして、この土地のどこかで、ずっと眠っていたのだろうか。
俺に、墓を作れと言われている。
理由は分からないのに、そんな気がした。
そう言えば――
じいさんの故郷なんて、俺は知らない。
ミナリーと遊んでいるところを邪魔するのは気が引けるが――
トリスに調べに行ってもらうしかないか……。
……いや。
それとも、最初から“ここ”なのか?
墓を作るくらい、朝飯前だ。
山だって、もうある。
考えても仕方ないな。
とりあえず、
どこか――よさそうな場所を、探してみよう。
ふう。
探してみたが、特別ここだと思える場所は、見つからなかった。
結局、家の中に置いておくことにした。
骨を丁寧にまとめ、壁際に寄せる。
「じいさん……懐かしいな」
思わず、声が漏れた。
「後ろから不意打ちされたときさ、じいさんが死んじゃって……正直、困ったんだ」
独り言だ。
返事はない。
それでも――
この骨は、わざわざ“碧翠のミナリア”が送ってきたに違いない。
この土地のどこかに、まだ痕跡があるはずだ。
今日はこれで終わりにして、明日早く探しにいくか。
「……明日でも、まったく構わないのじゃが」
――ん?
そうか、じいさんか……。
俺ももう、夢でも見ているのか。
少し、疲れているしな。
「墓は、もうあるんじゃよ」
「へぇ。それなら、なぜここに来たんだ?」
「わしは無理やり起こされたんじゃて。安らかに眠っておったというのにな」
「はは、起こされたって。骨だけの死体じゃないか」
自分の笑い声で、アセルは目を覚ました。
……やっぱり、寝ていたらしい。
もう一度寝ようかと、体勢を整え、寝床に横になる。
そのとき――
じいさんの骨を入れた箱が、視界の端に入った。
箱の中に、座っている。
俺を、じっと見ている。
そこにいたのは、骨ではなかった。
半分ほど透けた、じいさんの姿だった。
息を呑む暇もなく、理解だけが先に来る。
「……俺は」
喉が、ひくりと鳴る。
「じいさんの幽霊と、話してたのか……」
「じいさんは、いつからゴーストになったんだ?」
「勇者くんよ。人を勝手に魔物にするのは、やめるんじゃ」
そう言いながら、じいさんは呆れた顔をした。
身体は半分ほど透けているというのに、その表情だけはやけに存在感がある。
「君は、昔から冗談が下手だったな」
「冗談というより……骨と幽霊が同時にあるってのは、どういう状態なんですか?」
「さてな。細かいことは、あまり覚えておらん」
じいさんは顎に手を当て、思い出すように続ける。
「ただ、ずいぶん深く、深く眠っていたはずじゃ。それが突然――わしのすべてが粉々になるような、大きな揺れが来てな」
一拍置いて、付け足す。
「……まあ、実際にバラバラにはなったが」
つまり。
“碧翠のミナリア”が、生まれた時か……。
「よく分からないですけど。この骨を、じいさんの墓に連れて行って、もう一度眠ってもらっていいんですね?」
「うむ……それがじゃのう」
じいさんは、少し言い淀んでから続けた。
「勇者くんは、これを知っているのではないか?」
その手にあったのは――
いつの間にか、虹色にきらめく四つ葉だった。
「え?」
思わず、声が漏れる。
「なんで、それを持ってるんです? いや、それより……どうして、その子まで幽霊みたいになってるんですか?」
頭が追いつかない。
「余計に、訳が分からない……」
「たぶんじゃがな」
じいさんは、考え込むように視線を落とした。
「この植物が復活する、その瞬間。わしもすぐそばにおった。そのせいで――復活しきれなかったのではないか? ……そっちの魔法は、専門ではないがの」
もしかして、と思い。
俺は姫を手に取ろうとした。
だが――
感触はなく、温かみもない。
そこに“いる”はずなのに、触れられない。
「でも、じいさんもここに運ばれたってことは、俺になんとかしろって言うことなのか……」
答えは、まだない。
だが、手掛かりは一つある。
「まずは……じいさんの墓を見れば、何か分かるかもしれない」
勢いよく戸を開ける。
――そのときになって、ようやく気づいた。
俺は、どうやら、やらかしたらしい。
振り返った瞬間――
そこにはもう、誰もいなかった。
魔法使いのじいさんも。
虹の四つ葉の姫も。
朝の光に溶けるように、ただ、消えてしまったあとだった。
まるで「やあ」と、青緑の山が声をかけてくるようだった。
他の山々の木には、もう葉は残っていない。
風に鳴る枝ばかりが、冬を先取りしている。
瑞々しく色を宿しているのは、ミナリーの山だけだ。
浮いている。
季節からも、世界からも。
どうせなら――
他の山にも、同じ色を与えてみようか。
そんな考えが、ふと頭をよぎる。
もちろん、やり方なんて知らない。
知っていたら、とっくにやっている。
それでも、山はそこにあって、
今日も変わらず、こちらを見ている気がした。
次の朝、起きて顔でも洗いに行こうとした。
驚いた。
寝床のすぐ横にあったのは――
まるで大きな荷物のようだ。
どうやって届けられたのか――
それもそうだがさらに驚き、思わず息を呑むことがある。
ツタの一本一本で、細かな意匠が施されている。
絡まっているだけではない。
組まれ、編まれ、形を成している。
それは、明らかに――箱だった。
開けてみる。
そこにあったのは、白い――
まるで、時間そのものに漂白されたような骨だった。
バラバラではない。
今にも、何事もなかったかのように立ち上がりそうな形を保っている。
もちろん、もう動くはずもない。
スケルトンだとか、そういう話でもない。
手に取った瞬間、
驚きよりも先に、呆れが込み上げた。
こんな姿になっていても。
それでも、分かってしまうのか。
仲間だった者は――
形を失っても、間違えようがないらしい。
紛れもなく、この骨は。
あの魔法使いのじいさんのものだった。
もしかして、この土地のどこかで、ずっと眠っていたのだろうか。
俺に、墓を作れと言われている。
理由は分からないのに、そんな気がした。
そう言えば――
じいさんの故郷なんて、俺は知らない。
ミナリーと遊んでいるところを邪魔するのは気が引けるが――
トリスに調べに行ってもらうしかないか……。
……いや。
それとも、最初から“ここ”なのか?
墓を作るくらい、朝飯前だ。
山だって、もうある。
考えても仕方ないな。
とりあえず、
どこか――よさそうな場所を、探してみよう。
ふう。
探してみたが、特別ここだと思える場所は、見つからなかった。
結局、家の中に置いておくことにした。
骨を丁寧にまとめ、壁際に寄せる。
「じいさん……懐かしいな」
思わず、声が漏れた。
「後ろから不意打ちされたときさ、じいさんが死んじゃって……正直、困ったんだ」
独り言だ。
返事はない。
それでも――
この骨は、わざわざ“碧翠のミナリア”が送ってきたに違いない。
この土地のどこかに、まだ痕跡があるはずだ。
今日はこれで終わりにして、明日早く探しにいくか。
「……明日でも、まったく構わないのじゃが」
――ん?
そうか、じいさんか……。
俺ももう、夢でも見ているのか。
少し、疲れているしな。
「墓は、もうあるんじゃよ」
「へぇ。それなら、なぜここに来たんだ?」
「わしは無理やり起こされたんじゃて。安らかに眠っておったというのにな」
「はは、起こされたって。骨だけの死体じゃないか」
自分の笑い声で、アセルは目を覚ました。
……やっぱり、寝ていたらしい。
もう一度寝ようかと、体勢を整え、寝床に横になる。
そのとき――
じいさんの骨を入れた箱が、視界の端に入った。
箱の中に、座っている。
俺を、じっと見ている。
そこにいたのは、骨ではなかった。
半分ほど透けた、じいさんの姿だった。
息を呑む暇もなく、理解だけが先に来る。
「……俺は」
喉が、ひくりと鳴る。
「じいさんの幽霊と、話してたのか……」
「じいさんは、いつからゴーストになったんだ?」
「勇者くんよ。人を勝手に魔物にするのは、やめるんじゃ」
そう言いながら、じいさんは呆れた顔をした。
身体は半分ほど透けているというのに、その表情だけはやけに存在感がある。
「君は、昔から冗談が下手だったな」
「冗談というより……骨と幽霊が同時にあるってのは、どういう状態なんですか?」
「さてな。細かいことは、あまり覚えておらん」
じいさんは顎に手を当て、思い出すように続ける。
「ただ、ずいぶん深く、深く眠っていたはずじゃ。それが突然――わしのすべてが粉々になるような、大きな揺れが来てな」
一拍置いて、付け足す。
「……まあ、実際にバラバラにはなったが」
つまり。
“碧翠のミナリア”が、生まれた時か……。
「よく分からないですけど。この骨を、じいさんの墓に連れて行って、もう一度眠ってもらっていいんですね?」
「うむ……それがじゃのう」
じいさんは、少し言い淀んでから続けた。
「勇者くんは、これを知っているのではないか?」
その手にあったのは――
いつの間にか、虹色にきらめく四つ葉だった。
「え?」
思わず、声が漏れる。
「なんで、それを持ってるんです? いや、それより……どうして、その子まで幽霊みたいになってるんですか?」
頭が追いつかない。
「余計に、訳が分からない……」
「たぶんじゃがな」
じいさんは、考え込むように視線を落とした。
「この植物が復活する、その瞬間。わしもすぐそばにおった。そのせいで――復活しきれなかったのではないか? ……そっちの魔法は、専門ではないがの」
もしかして、と思い。
俺は姫を手に取ろうとした。
だが――
感触はなく、温かみもない。
そこに“いる”はずなのに、触れられない。
「でも、じいさんもここに運ばれたってことは、俺になんとかしろって言うことなのか……」
答えは、まだない。
だが、手掛かりは一つある。
「まずは……じいさんの墓を見れば、何か分かるかもしれない」
勢いよく戸を開ける。
――そのときになって、ようやく気づいた。
俺は、どうやら、やらかしたらしい。
振り返った瞬間――
そこにはもう、誰もいなかった。
魔法使いのじいさんも。
虹の四つ葉の姫も。
朝の光に溶けるように、ただ、消えてしまったあとだった。
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