『原作者が消えた世界で婚約破棄されましたが、転生者は負ける気しません』

夢窓(ゆめまど)

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第二王子アルフォンスに“転生者バレ”

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「……王子、あなたも“転生者”ね」

そう口にした瞬間、空気がひときわ静まった気がした。

アルフォンスは一拍、瞬きをした。
そして、ゆっくりと片方の口角を持ち上げ――

「……おっかしいなぁ。やっぱバレてた?」

まるで子どもがいたずらを見つかったときのような表情で、彼は頭をかいた。

私は少しだけ目を細めて言った。

「“白きバラの誓い《バラチカ》”を持ち出すなんて思わなかったのよ。
あれ、前世で一部界隈にだけ流行った乙女ゲーム。しかも、レアルート限定。
総プレイ人口なんて、片手で数えるくらいだったわ。普通は知らない」

アルフォンスは、あーやっぱりという風に、片手で顔を覆った。

「だよね。黒バラ(悪役令嬢)のお方の名前出した瞬間、あっ、これ絶対バレるなって思ったよ。
でもさ、ちょっと賭けてみたくなったんだよね。君が本当に“あっち側の人”かどうか」

「賭けって……アンタ、悪趣味よ」

「うん、よく言われる」
彼はあっさりと認め、肩をすくめた。

「でも、なんか会話が通じすぎるからさ。
テンプレ婚約破棄劇場の中で、あんな“自分の言葉”で話す子、君以外いなかったんだ。
だから確かめたかった。ボクだけじゃないのかって」

「……それで?」

「うん。君も転生者だった。大当たり」

とぼけた口調で言いながらも、その声の奥にある安堵は隠しようがなかった。

私は少し黙ったあと、改めて問いかけた。

「……で? 転生して王族とか、ずいぶん恵まれてるじゃない」

すると、アルフォンスは首を傾げ、いつになく真面目な声色で言った。

「うーん、そうかな。ボクは……死んだら、いきなり王族になってた。
“あーこれ、ゲームで見たことあるやつだ”って思ってたら、
案の定、テンプレ破棄と聖女イベントが始まって。ああ、これバラチカの世界だって気づいた」

彼は天井を見上げ、小さく笑った。

「でもさ。ボク、レアルートの“攻略対象”ではあるけど、
実は“ヒロインがバッドエンド回避のために犠牲にするルート”の男だったんだよ。
……知ってる? あの“橋の上の処刑”のやつ」

「知ってる。あの選択肢ひとつで、助けるか見捨てるかが決まるやつね」

「そう。それ。だからさ――
下手に動いたら殺されるだけのポジションなんだよね、ボク。
おとなしく笑ってやり過ごしてる方が、まだ長生きできる」

「……最低」

私はあきれ半分、呆れきれなかったもう半分で彼を見た。

「アンタ、やっぱりハズレだわ。攻略対象のくせに自分のルート放棄してるじゃない」

「それね。……でも、前世の推しが言ってくれたんだ。
“死にたくないって言ってくれるだけで、あんたが救われた”って」

その声に、かすかな寂しさが滲む。

ほんの一瞬だけ、彼の瞳に沈んだ深さを私は見た。

「で、さ。聞いていい? 君の目には、今のあの茶番、どう映った?」

彼は話題を変えるように言った。
私は、ほんの少し口元を吊り上げる。

「“聖女ミキ様”、見覚えは?」

「……ないね。完全に初見。
“ルート”にも出てこない。世界観にも、設定にも存在しなかったはず。
なのに、急に核心ポジションに座って、空気まで掌握してる。
あれは、“正史”じゃない。書き換えられた結果だ」

「同感よ。あの子……“ルート改変”の象徴」

私たちの声は静かだった。
けれど、話している内容はあまりにも異常だった。

「神殿の動きも早すぎる。
王子の決断も、あの幼稚な演出にしては滑らかすぎた。
裏で“何か”が仕組んでる。
この世界そのものを、バッドルートの罠に引きずり込もうとしてる」

「しかも、“プレイヤー”や“運営”じゃない、“別の力”がね」

「そう」
私は頷いた。
「この世界が、“誰かの手で再構築されてる”。
それも、私たちが知ってる“バラチカ”とはまったく違う方向に」

その瞬間だった。

廊下の奥、重厚な扉が勢いよく開き、ひとりの騎士が駆け込んできた。

「マリー様! 申し訳ありません!」

彼の顔には焦燥が滲んでいた。
儀礼も何もかまわず、真っ直ぐ私の前まで駆けてくる。

「神殿が――ミキ様を“唯一の聖女”として正式に認定する法令を発表しました!」

私はわずかに目を伏せ、ふぅっと息を吐いた。

「……はあ、ほんっと、急ぐのね。
強引なルート改変ってやつは」

横にいたアルフォンスも、乾いた笑みを浮かべた。

「こりゃあ、本格的に“バッドエンド世界”へようこそってやつだね」

私たちは、目を合わせた。

冗談めかしたやり取りの奥に、たしかに共通の理解があった。

“この世界を守るには、動かなきゃいけない”。

けれど、それはもう“ゲームの続き”じゃない。
これは、“物語”じゃない。

これは――生き残るための、本当の戦いだ。

そして私は知っている。
この“黒バラ”悪役令嬢が、誰にも手折られず咲き続けるためには、
“根”を張る場所と、“共犯者”が必要だ。

横にいる、少しひねくれた王子。
きっと彼は、最悪の未来すら笑い飛ばすだろう。

私はゆっくりと、笑ってみせた。

「ねえ、アルフォンス。
あなた、バラチカの続き……書く気はある?」

彼は片目を閉じて、にやりと返す。

「うん、悪くないね。“攻略対象”と“悪役令嬢”が手を組んで、正史をぶち壊す――
……きっと、今までにない最高のルートになる」
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