4 / 33
第二王子アルフォンスに“転生者バレ”
しおりを挟む「……王子、あなたも“転生者”ね」
そう口にした瞬間、空気がひときわ静まった気がした。
アルフォンスは一拍、瞬きをした。
そして、ゆっくりと片方の口角を持ち上げ――
「……おっかしいなぁ。やっぱバレてた?」
まるで子どもがいたずらを見つかったときのような表情で、彼は頭をかいた。
私は少しだけ目を細めて言った。
「“白きバラの誓い《バラチカ》”を持ち出すなんて思わなかったのよ。
あれ、前世で一部界隈にだけ流行った乙女ゲーム。しかも、レアルート限定。
総プレイ人口なんて、片手で数えるくらいだったわ。普通は知らない」
アルフォンスは、あーやっぱりという風に、片手で顔を覆った。
「だよね。黒バラ(悪役令嬢)のお方の名前出した瞬間、あっ、これ絶対バレるなって思ったよ。
でもさ、ちょっと賭けてみたくなったんだよね。君が本当に“あっち側の人”かどうか」
「賭けって……アンタ、悪趣味よ」
「うん、よく言われる」
彼はあっさりと認め、肩をすくめた。
「でも、なんか会話が通じすぎるからさ。
テンプレ婚約破棄劇場の中で、あんな“自分の言葉”で話す子、君以外いなかったんだ。
だから確かめたかった。ボクだけじゃないのかって」
「……それで?」
「うん。君も転生者だった。大当たり」
とぼけた口調で言いながらも、その声の奥にある安堵は隠しようがなかった。
私は少し黙ったあと、改めて問いかけた。
「……で? 転生して王族とか、ずいぶん恵まれてるじゃない」
すると、アルフォンスは首を傾げ、いつになく真面目な声色で言った。
「うーん、そうかな。ボクは……死んだら、いきなり王族になってた。
“あーこれ、ゲームで見たことあるやつだ”って思ってたら、
案の定、テンプレ破棄と聖女イベントが始まって。ああ、これバラチカの世界だって気づいた」
彼は天井を見上げ、小さく笑った。
「でもさ。ボク、レアルートの“攻略対象”ではあるけど、
実は“ヒロインがバッドエンド回避のために犠牲にするルート”の男だったんだよ。
……知ってる? あの“橋の上の処刑”のやつ」
「知ってる。あの選択肢ひとつで、助けるか見捨てるかが決まるやつね」
「そう。それ。だからさ――
下手に動いたら殺されるだけのポジションなんだよね、ボク。
おとなしく笑ってやり過ごしてる方が、まだ長生きできる」
「……最低」
私はあきれ半分、呆れきれなかったもう半分で彼を見た。
「アンタ、やっぱりハズレだわ。攻略対象のくせに自分のルート放棄してるじゃない」
「それね。……でも、前世の推しが言ってくれたんだ。
“死にたくないって言ってくれるだけで、あんたが救われた”って」
その声に、かすかな寂しさが滲む。
ほんの一瞬だけ、彼の瞳に沈んだ深さを私は見た。
「で、さ。聞いていい? 君の目には、今のあの茶番、どう映った?」
彼は話題を変えるように言った。
私は、ほんの少し口元を吊り上げる。
「“聖女ミキ様”、見覚えは?」
「……ないね。完全に初見。
“ルート”にも出てこない。世界観にも、設定にも存在しなかったはず。
なのに、急に核心ポジションに座って、空気まで掌握してる。
あれは、“正史”じゃない。書き換えられた結果だ」
「同感よ。あの子……“ルート改変”の象徴」
私たちの声は静かだった。
けれど、話している内容はあまりにも異常だった。
「神殿の動きも早すぎる。
王子の決断も、あの幼稚な演出にしては滑らかすぎた。
裏で“何か”が仕組んでる。
この世界そのものを、バッドルートの罠に引きずり込もうとしてる」
「しかも、“プレイヤー”や“運営”じゃない、“別の力”がね」
「そう」
私は頷いた。
「この世界が、“誰かの手で再構築されてる”。
それも、私たちが知ってる“バラチカ”とはまったく違う方向に」
その瞬間だった。
廊下の奥、重厚な扉が勢いよく開き、ひとりの騎士が駆け込んできた。
「マリー様! 申し訳ありません!」
彼の顔には焦燥が滲んでいた。
儀礼も何もかまわず、真っ直ぐ私の前まで駆けてくる。
「神殿が――ミキ様を“唯一の聖女”として正式に認定する法令を発表しました!」
私はわずかに目を伏せ、ふぅっと息を吐いた。
「……はあ、ほんっと、急ぐのね。
強引なルート改変ってやつは」
横にいたアルフォンスも、乾いた笑みを浮かべた。
「こりゃあ、本格的に“バッドエンド世界”へようこそってやつだね」
私たちは、目を合わせた。
冗談めかしたやり取りの奥に、たしかに共通の理解があった。
“この世界を守るには、動かなきゃいけない”。
けれど、それはもう“ゲームの続き”じゃない。
これは、“物語”じゃない。
これは――生き残るための、本当の戦いだ。
そして私は知っている。
この“黒バラ”悪役令嬢が、誰にも手折られず咲き続けるためには、
“根”を張る場所と、“共犯者”が必要だ。
横にいる、少しひねくれた王子。
きっと彼は、最悪の未来すら笑い飛ばすだろう。
私はゆっくりと、笑ってみせた。
「ねえ、アルフォンス。
あなた、バラチカの続き……書く気はある?」
彼は片目を閉じて、にやりと返す。
「うん、悪くないね。“攻略対象”と“悪役令嬢”が手を組んで、正史をぶち壊す――
……きっと、今までにない最高のルートになる」
18
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
婚約破棄された悪役令嬢ですが、英雄にも聖女にもなりません
鷹 綾
恋愛
王太子からの婚約破棄。
悪役令嬢として断罪され、処刑エンド確定――
その瞬間、エレナは前世の記憶を思い出した。
ここは乙女ゲームの世界。
そして自分は、必ず破滅する“悪役令嬢”。
だが彼女は、復讐も、英雄になることも選ばなかった。
正義を掲げれば、いずれ誰かに利用され、切り捨てられると知っていたから。
エレナが選んだのは、
「正しさ」を振りかざさず、
「責任」を一人で背負わず、
明日も続く日常を作ること。
聖女にも、英雄にもならない。
それでも確かに、世界は静かに変わっていく。
派手なざまぁはない。
けれど、最後に残るのは――
誰も処刑されず、誰か一人が犠牲にならない結末。
これは、
名前の残らない勝利を選んだ悪役令嬢の物語。
《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃
ぜらちん黒糖
恋愛
「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」
甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。
旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。
「それは本当に私の子供なのか?」
婚約破棄された公爵令嬢ですが、王太子を破滅させたあと静かに幸せになります
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エレナは、
誕生日の舞踏会で突然、婚約破棄を宣言される。
「地味で役に立たない」と嘲笑され、
平民の少女を新たな婚約者に選ぶ王太子。
家族にも見放され、エレナは王都を追われることに――。
しかし彼女は、ただの“癒しの令嬢”ではなかった。
静かに力を蓄え、事実と証拠だけで王太子の虚飾を暴き、
自らの手で破滅へと導いていく。
復讐の果てに選んだのは、
誰かに与えられる地位でも、名誉でもない。
自分で選び取る、穏やかな幸せ。
これは、
婚約破棄された公爵令嬢が
王太子を終わらせたあと、
本当の人生を歩き出す物語。
-
攻略対象者の婚約者を持つ姉の代わりに、エンディングを見てきました
犬野きらり
恋愛
攻略対象者の婚約者を持つ姉の代わりに、エンディングを見てきました…
というタイトルそのままの話です。
妹視点では、乙女ゲームも異世界転生も関係ありません。
特に私(主人公)は出しゃ張たりしません。
私をアピールするわけでもありません。
ジャンルは恋愛ですが、主人公は恋愛していません、ご注意下さい
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~
朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。
婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」
静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。
夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。
「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」
彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。
【完結】王位に拘る元婚約者様へ
凛 伊緒
恋愛
公爵令嬢ラリエット・ゼンキースア、18歳。
青みがかった銀の髪に、金の瞳を持っている。ラリエットは誰が見ても美しいと思える美貌の持ち主だが、『闇魔法使い』が故に酷い扱いを受けていた。
虐げられ、食事もろくに与えられない。
それらの行為の理由は、闇魔法に対する恐怖からか、或いは彼女に対する嫉妬か……。
ラリエットには、5歳の頃に婚約した婚約者がいた。
名はジルファー・アンドレイズ。このアンドレイズ王国の王太子だった。
しかし8歳の時、ラリエットの魔法適正が《闇》だということが発覚する。これが、全ての始まりだった──
婚約破棄された公爵令嬢ラリエットが名前を変え、とある事情から再び王城に戻り、王太子にざまぁするまでの物語──
※ご感想・ご指摘 等につきましては、近況ボードをご確認くださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる