5 / 33
第5話:ルート外れの亡命先、そして“白でも黒でもないバラ”
しおりを挟む
侯爵家からの書簡は、予想より一枚上手だった。
「追放」
──ただの“王子の元婚約者”を切り捨てるなら、それで十分だったはず。
だが彼らは、“神に選ばれし聖女に盾突いた不敬者”として、家名からの除籍を選んだ。
(なるほどね。ミキの“聖女ルート”を公式にするためには、前任者を完全に消す必要があったってわけ)
手切れ金として渡されたのは、馬車一台ぶんの荷と、
貴族用の名刺から私の名前が雑に削られたもの。
「……徹底してるわね」
さすがに少しだけ、胸が詰まった。
けれど、顔に出すつもりはなかった。
だからその日、私が立ち寄ったのは、
王都郊外の――第二王子の別宅だった。
⸻
「おおっと、ようこそ。元・聖女候補で元・王子の婚約者で、元・侯爵令嬢様」
扉を開けたアルフォンスは、サンダルに紅茶缶という出で立ちで出迎えた。
相変わらず緊張感がゼロだ。
「まさか本当に来るとは思わなかったよ。
“親からも追い出されました”って、もうバラチカ外伝編の主人公じゃん」
「失礼ね。私はメインヒロインしかやらない主義なの」
「その意気や良し。部屋、二階の奥空いてるよ。
風呂は夜までに湧くから、晩飯までに片付けとく。
あ、それから猫に餌やる当番、明日からよろしく」
「……猫?」
「いるんだよ。転生前から飼ってた名前つけ損ねた黒猫そっくりなやつが」
言葉の端々に**バラチカ世界に“なかったもの”**が出てくる。
それは、私が記憶しているあのゲームのルートにも、攻略本にも載っていない。
(やっぱり……この世界、少しずつ変わってる)
そして。
その夜。
王都で正式に発表された。
“聖女ミキは唯一無二の神の代弁者”
“彼女に反する者は、異端と見なされる”
まさに、公式ルートの乗っ取りが始まった瞬間だった。
アルフォンスは新聞を丸めて、ポイと火鉢に放る。
「ふーん。ついに来たか、“完全ルートロック”。
このままだと、NPCたちも“彼女が正史”って刷り込まれてくぞ。
マリー嬢、どうする?」
私は紅茶を啜りながら、言ってやった。
「バラチカに“第3王子グレイルルート”って存在してた?
白でも黒でもない、第三の選択肢。
……あなたが、王になる気ないならそこを目指すしかないんじゃない?」
沈黙。
そして、アルフォンスがにやりと笑った。
「マリー嬢。
ボク、本気出すとき、めっちゃ性格悪いよ?」
「構わないわ。私、もう何も守るものないから」
「追放」
──ただの“王子の元婚約者”を切り捨てるなら、それで十分だったはず。
だが彼らは、“神に選ばれし聖女に盾突いた不敬者”として、家名からの除籍を選んだ。
(なるほどね。ミキの“聖女ルート”を公式にするためには、前任者を完全に消す必要があったってわけ)
手切れ金として渡されたのは、馬車一台ぶんの荷と、
貴族用の名刺から私の名前が雑に削られたもの。
「……徹底してるわね」
さすがに少しだけ、胸が詰まった。
けれど、顔に出すつもりはなかった。
だからその日、私が立ち寄ったのは、
王都郊外の――第二王子の別宅だった。
⸻
「おおっと、ようこそ。元・聖女候補で元・王子の婚約者で、元・侯爵令嬢様」
扉を開けたアルフォンスは、サンダルに紅茶缶という出で立ちで出迎えた。
相変わらず緊張感がゼロだ。
「まさか本当に来るとは思わなかったよ。
“親からも追い出されました”って、もうバラチカ外伝編の主人公じゃん」
「失礼ね。私はメインヒロインしかやらない主義なの」
「その意気や良し。部屋、二階の奥空いてるよ。
風呂は夜までに湧くから、晩飯までに片付けとく。
あ、それから猫に餌やる当番、明日からよろしく」
「……猫?」
「いるんだよ。転生前から飼ってた名前つけ損ねた黒猫そっくりなやつが」
言葉の端々に**バラチカ世界に“なかったもの”**が出てくる。
それは、私が記憶しているあのゲームのルートにも、攻略本にも載っていない。
(やっぱり……この世界、少しずつ変わってる)
そして。
その夜。
王都で正式に発表された。
“聖女ミキは唯一無二の神の代弁者”
“彼女に反する者は、異端と見なされる”
まさに、公式ルートの乗っ取りが始まった瞬間だった。
アルフォンスは新聞を丸めて、ポイと火鉢に放る。
「ふーん。ついに来たか、“完全ルートロック”。
このままだと、NPCたちも“彼女が正史”って刷り込まれてくぞ。
マリー嬢、どうする?」
私は紅茶を啜りながら、言ってやった。
「バラチカに“第3王子グレイルルート”って存在してた?
白でも黒でもない、第三の選択肢。
……あなたが、王になる気ないならそこを目指すしかないんじゃない?」
沈黙。
そして、アルフォンスがにやりと笑った。
「マリー嬢。
ボク、本気出すとき、めっちゃ性格悪いよ?」
「構わないわ。私、もう何も守るものないから」
7
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
婚約破棄された悪役令嬢ですが、英雄にも聖女にもなりません
鷹 綾
恋愛
王太子からの婚約破棄。
悪役令嬢として断罪され、処刑エンド確定――
その瞬間、エレナは前世の記憶を思い出した。
ここは乙女ゲームの世界。
そして自分は、必ず破滅する“悪役令嬢”。
だが彼女は、復讐も、英雄になることも選ばなかった。
正義を掲げれば、いずれ誰かに利用され、切り捨てられると知っていたから。
エレナが選んだのは、
「正しさ」を振りかざさず、
「責任」を一人で背負わず、
明日も続く日常を作ること。
聖女にも、英雄にもならない。
それでも確かに、世界は静かに変わっていく。
派手なざまぁはない。
けれど、最後に残るのは――
誰も処刑されず、誰か一人が犠牲にならない結末。
これは、
名前の残らない勝利を選んだ悪役令嬢の物語。
《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃
ぜらちん黒糖
恋愛
「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」
甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。
旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。
「それは本当に私の子供なのか?」
婚約破棄された公爵令嬢ですが、王太子を破滅させたあと静かに幸せになります
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エレナは、
誕生日の舞踏会で突然、婚約破棄を宣言される。
「地味で役に立たない」と嘲笑され、
平民の少女を新たな婚約者に選ぶ王太子。
家族にも見放され、エレナは王都を追われることに――。
しかし彼女は、ただの“癒しの令嬢”ではなかった。
静かに力を蓄え、事実と証拠だけで王太子の虚飾を暴き、
自らの手で破滅へと導いていく。
復讐の果てに選んだのは、
誰かに与えられる地位でも、名誉でもない。
自分で選び取る、穏やかな幸せ。
これは、
婚約破棄された公爵令嬢が
王太子を終わらせたあと、
本当の人生を歩き出す物語。
-
攻略対象者の婚約者を持つ姉の代わりに、エンディングを見てきました
犬野きらり
恋愛
攻略対象者の婚約者を持つ姉の代わりに、エンディングを見てきました…
というタイトルそのままの話です。
妹視点では、乙女ゲームも異世界転生も関係ありません。
特に私(主人公)は出しゃ張たりしません。
私をアピールするわけでもありません。
ジャンルは恋愛ですが、主人公は恋愛していません、ご注意下さい
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
【完結】王位に拘る元婚約者様へ
凛 伊緒
恋愛
公爵令嬢ラリエット・ゼンキースア、18歳。
青みがかった銀の髪に、金の瞳を持っている。ラリエットは誰が見ても美しいと思える美貌の持ち主だが、『闇魔法使い』が故に酷い扱いを受けていた。
虐げられ、食事もろくに与えられない。
それらの行為の理由は、闇魔法に対する恐怖からか、或いは彼女に対する嫉妬か……。
ラリエットには、5歳の頃に婚約した婚約者がいた。
名はジルファー・アンドレイズ。このアンドレイズ王国の王太子だった。
しかし8歳の時、ラリエットの魔法適正が《闇》だということが発覚する。これが、全ての始まりだった──
婚約破棄された公爵令嬢ラリエットが名前を変え、とある事情から再び王城に戻り、王太子にざまぁするまでの物語──
※ご感想・ご指摘 等につきましては、近況ボードをご確認くださいませ。
【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~
朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。
婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」
静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。
夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。
「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」
彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる