『原作者が消えた世界で婚約破棄されましたが、転生者は負ける気しません』

夢窓(ゆめまど)

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第6話:肉じゃがと禁書と、第三の来訪者

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「ただいまー……あ、うわ、なにこれ。めっちゃいい匂い」

夕焼けの差し込む別宅の玄関で、アルフォンスが鼻をくすぐられるように立ち止まる。
すぐに靴を脱ぎ捨て、リビングの方へ顔をのぞかせた。

「ねえこれ……まさか……!」

「肉じゃが。甘めにしてあるけど、なにか文句でも?」

キッチンに立つ私がそう答えると、アルフォンスは一瞬言葉を失い、そして感動したようにうなずいた。

「……ない。ていうか、最高。
前世、一人暮らしで何回失敗したかわかんないヤツだ。じゃがいもが……ホクホク……!」

もう箸が止まらないらしく、味噌汁をすすりながら白米を二杯、三杯と黙々と食べる姿は、まるで少年のようだった。

「……胃袋、完全に掴まれてるじゃない」

私が苦笑すると、アルフォンスは口いっぱいに頬張ったまま、笑顔で親指を立ててきた。

「当然だよ。前世、男子高校生三人の母親だったんでしょ? 居酒屋メニューと残り物料理に命賭けてたっていう」

「ええ、そりゃもう、冷蔵庫の奇跡を日々起こしてたわ」

「……うっかり結婚しそうなんだけど」

「それは冗談でも言わないで」

気恥ずかしさをごまかすように、私はお茶を淹れに背を向けた。
その瞬間――

「ピンポーン」

玄関のチャイムが鳴った。

「……こんな時間に?」

アルフォンスと顔を見合わせて、私はエプロンを外しながら玄関へ向かった。

ドアを開けると、そこには見知らぬ青年がひとり、薄汚れた外套のまま立っていた。

長めの髪をざっくりと束ね、旅人のような姿。
けれどその瞳は、妙に澄んでいて、まっすぐだった。

「……“神殿の禁書目録”を調べていると聞きました。
この家に、前任の聖女がいると」

私の目が細まる。

「あなたは?」

「ヨナと申します。かつて神官見習いとして神殿に仕えていました。
今は、“異端”の名で追われています」

彼は懐から、小さな革袋を取り出して差し出した。
中から現れたのは、羊皮紙に書かれた古い一節。

“白きバラが神を代弁する時、
黒き棘の花が現れる。
その花は、定められた運命に抗い、
世界に第三の光をもたらす。”

私は無意識に紙を握りしめていた。
その記述は、どこか既視感のある――“物語”の裏側を示すような響き。

「……白きバラ。あれは……ミキのことね」

「黒き棘の花、それがあなたではないかと、ある記録にありました」

ヨナの視線は一度も逸れることなく、真剣そのものだった。
彼の覚悟が、その目に焼きついている。

私は一拍置いて、ふっと息をつく。

「……まあ、ありがたいご指名だけど。
晩ごはん時に来るなんて、あなたもなかなかの強者ね」

「は?」

「肉じゃがが、ちょうど余ってるのよ。
とりあえず、おなか満たしてから話しましょ。
空腹じゃ、真面目な話も入ってこないものよ」

「え……いや、あの……」

困惑するヨナに、後ろからアルフォンスが顔を出した。

「胃袋を掴まれてからが、交渉の本番だってさ。君、運がいいよ。
この人の料理は、マジで世界救える」

「……そんな前振りされたら、断れないじゃないですか」

「そのつもりで言ったの」

にやりと笑って、私はもう一人分の皿を出す。

ようこそ、運命を揺らす第三の選択肢へ。
――胃袋から、世界は変わるのよ。
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