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第7話:深夜の密談と、母の味つき交渉術
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ヨナは、最初から全身に“壁”を張っていた。
背筋を伸ばし、言葉を選ぶようにゆっくりと話す――まるで、少しでも気を抜けば「異端者」として切り捨てられる場面に逆戻りするのだとでも言うように。
でも私は知っている。
こういう子には、理屈よりまず――あたたかい飯だ。
「とりあえず、座って。ほら、ちゃぶ台囲んで。緊張すると、箸も味もしなくなるわよ」
ヨナは一瞬、迷ったようだったが、やがてこくりと小さく頷いた。
「……一杯だけなら、酒も……いただきます」
「よろしい。じゃ、まずは枝豆。塩ふってるから、そのままね。お通しの基本よ」
ちゃぶ台の上には、シンプルだけど心をほどく料理が並ぶ。
• 湯気が立つカツ丼。卵は半熟、とろとろ仕上げ。
• ニンニク控えめ、でも旨味たっぷりのもやし炒め。
• 塩ゆでの枝豆、鮮やかな緑が目にやさしい。
• そして、ちろりでほんのり温めた淡い麦焼酎。
「……うまい」
ヨナが箸を止めたのは、一口、二口、と食べてからだった。
不意に、表情の端が、ほころんでいた。
「だろうね。高校男子三人抱えて、夜中に補習付き合いながら、何度も作ったメニューだもの。
前世で、食卓が戦場だった母親の執念、侮るなかれよ」
「……母親、だったって……本当だったんですね」
「子どもたちが勉強しながら“おなかすいた”って呟く時間帯が、一番勝負だったの。
だから、栄養バランスとスピード重視で、毎日鍛えられたわ」
ヨナの指が、湯気のたつもやしをつまんだまま止まる。
少しの間、目を伏せたあとで、静かに口を開いた。
「──“第三の聖女”に関する記録は、神殿の最深部にある。
“刻書の間”……そこにしか、残っていません」
アルフォンスの箸が止まる。
「神殿の、最深部?」
「通常の神官は入れない。まして、今の時代では完全に封鎖されている。
でも、かつて“火の聖女”が在位していた時代に、僕は短期間だけ清掃係としてそこに入ったことがある」
「記録は、どんな内容?」
ヨナは、あぐらをかいたまま、小さく首を横に振った。
「“神の声が届かなくなる空間”……という記述だけです。
本来、聖女はそこを通過してこそ、真の試練を受けたと見なされる。
けれど今の“聖女ミキ”は――その過程を、飛ばしている」
「つまり」
アルフォンスが、やや低い声で言った。
「ミキは、“神の声”を、本当の意味では受けていない……?」
「もしくは、“別の何か”の声を、神と誤認してる可能性があります」
食卓の湯気がふわりと揺れ、静けさが落ちた。
私は、おちょこを置き、唇を拭いながらゆっくりと立ち上がった。
「なら、行くしかないわね。“刻書の間”に」
「……マリー嬢、それはさすがに危険すぎる」
アルフォンスの表情がこわばる。
「今の神殿は、完全にミキ一色だ。“異端”扱いされれば、下手すれば君も──」
「でも、私はもう“当事者”よ。逃げられる立場じゃない」
一瞬、私の目が真っすぐヨナに向けられた。
「あなたがここへ来た時点で、もう私は“選ばされた”の。
……だったら、やるだけやるわ」
そして私は、アルフォンスのほうへふっと目を向け、口角を上げた。
「──王子、ひさびさに“王族の肩書き”、使ってみない?」
「うへぇ……言うと思ったよ、マリー嬢。
てか、君、酒入ってるでしょ?」
「ちょびっとだけよ。理性の残った酔いは、案外、決断をくれるの」
「胃袋と酒で革命か……ボクがどれだけ振り回されてるか、本人わかってる?」
「ええ、よーくわかってる。だからほら、もう一杯」
アルフォンスが苦笑し、ヨナがぽかんとそれを見ていた。
今夜、ひとつの覚悟が、食卓のうえで整った。
神殿の奥、真実の眠る“刻書の間”へ。
この世界のシナリオを“書き換えるため”に。
背筋を伸ばし、言葉を選ぶようにゆっくりと話す――まるで、少しでも気を抜けば「異端者」として切り捨てられる場面に逆戻りするのだとでも言うように。
でも私は知っている。
こういう子には、理屈よりまず――あたたかい飯だ。
「とりあえず、座って。ほら、ちゃぶ台囲んで。緊張すると、箸も味もしなくなるわよ」
ヨナは一瞬、迷ったようだったが、やがてこくりと小さく頷いた。
「……一杯だけなら、酒も……いただきます」
「よろしい。じゃ、まずは枝豆。塩ふってるから、そのままね。お通しの基本よ」
ちゃぶ台の上には、シンプルだけど心をほどく料理が並ぶ。
• 湯気が立つカツ丼。卵は半熟、とろとろ仕上げ。
• ニンニク控えめ、でも旨味たっぷりのもやし炒め。
• 塩ゆでの枝豆、鮮やかな緑が目にやさしい。
• そして、ちろりでほんのり温めた淡い麦焼酎。
「……うまい」
ヨナが箸を止めたのは、一口、二口、と食べてからだった。
不意に、表情の端が、ほころんでいた。
「だろうね。高校男子三人抱えて、夜中に補習付き合いながら、何度も作ったメニューだもの。
前世で、食卓が戦場だった母親の執念、侮るなかれよ」
「……母親、だったって……本当だったんですね」
「子どもたちが勉強しながら“おなかすいた”って呟く時間帯が、一番勝負だったの。
だから、栄養バランスとスピード重視で、毎日鍛えられたわ」
ヨナの指が、湯気のたつもやしをつまんだまま止まる。
少しの間、目を伏せたあとで、静かに口を開いた。
「──“第三の聖女”に関する記録は、神殿の最深部にある。
“刻書の間”……そこにしか、残っていません」
アルフォンスの箸が止まる。
「神殿の、最深部?」
「通常の神官は入れない。まして、今の時代では完全に封鎖されている。
でも、かつて“火の聖女”が在位していた時代に、僕は短期間だけ清掃係としてそこに入ったことがある」
「記録は、どんな内容?」
ヨナは、あぐらをかいたまま、小さく首を横に振った。
「“神の声が届かなくなる空間”……という記述だけです。
本来、聖女はそこを通過してこそ、真の試練を受けたと見なされる。
けれど今の“聖女ミキ”は――その過程を、飛ばしている」
「つまり」
アルフォンスが、やや低い声で言った。
「ミキは、“神の声”を、本当の意味では受けていない……?」
「もしくは、“別の何か”の声を、神と誤認してる可能性があります」
食卓の湯気がふわりと揺れ、静けさが落ちた。
私は、おちょこを置き、唇を拭いながらゆっくりと立ち上がった。
「なら、行くしかないわね。“刻書の間”に」
「……マリー嬢、それはさすがに危険すぎる」
アルフォンスの表情がこわばる。
「今の神殿は、完全にミキ一色だ。“異端”扱いされれば、下手すれば君も──」
「でも、私はもう“当事者”よ。逃げられる立場じゃない」
一瞬、私の目が真っすぐヨナに向けられた。
「あなたがここへ来た時点で、もう私は“選ばされた”の。
……だったら、やるだけやるわ」
そして私は、アルフォンスのほうへふっと目を向け、口角を上げた。
「──王子、ひさびさに“王族の肩書き”、使ってみない?」
「うへぇ……言うと思ったよ、マリー嬢。
てか、君、酒入ってるでしょ?」
「ちょびっとだけよ。理性の残った酔いは、案外、決断をくれるの」
「胃袋と酒で革命か……ボクがどれだけ振り回されてるか、本人わかってる?」
「ええ、よーくわかってる。だからほら、もう一杯」
アルフォンスが苦笑し、ヨナがぽかんとそれを見ていた。
今夜、ひとつの覚悟が、食卓のうえで整った。
神殿の奥、真実の眠る“刻書の間”へ。
この世界のシナリオを“書き換えるため”に。
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