『悪役令嬢に仕立て上げられたけど、猫カフェを開いたら辺境伯が通ってきます』

夢窓(ゆめまど)

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青い空と、花束と、花冠の君

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『黒猫と指輪を――アランのプロポーズ』

その日、マリーナは少し早めに帰宅した。
辺境伯邸の仮住まいから正式な別荘へ引っ越し、ようやく生活が落ち着いてきた頃だった。

扉を開けると、そこには――
黒猫のキティがちょこんと座っていた。

「……キティ? アラン様は……?」

 

キティはニャ、とひと声鳴き、
後ろを振り返るようにして、マリーナを庭へ誘う。

まるで、招かれているような気がして、マリーナはそっと靴を履き替え、あとを追った。

 

そして庭に出た瞬間――
淡いランタンの灯りの下に、アランが立っていた。

軍服ではなく、きちんと整えられた礼服姿。
手には、小さなベルベットの箱が握られていた。

 

「……マリーナ」

「……はい」

 

アランは、普段のように言葉を飾らず、まっすぐに言った。

「俺と、結婚してください」

マリーナの目が、大きく見開かれる。

「……っ、え?」

「もう、ずっと前から決めてた。
でも、俺は不器用で、ちゃんと順番も、言葉も間違えそうで……
それでも今日は、ちゃんと伝えたかった」

 

彼は、指輪の箱を開ける。
キティが足元に座り、静かに見守っている。

「あなたに、教会で白いウエディングドレスを着てほしい。
あなたのご両親も呼んで、堂々と誓いたい。
誰に見せても恥ずかしくない、俺の人生の一番大切な人として」

 

マリーナの目に、涙が浮かぶ。
口元を押さえ、少し震える声で、でも確かに答える。

「はい……はいっ、喜んで……!」

 

アランは笑った。
戦場でも、妹の婚約破棄でも見せなかった、少年のような笑顔。

彼はそっと、マリーナの左手をとり、指輪を薬指に通す。

 

「キティが証人だな」

「えへへ……うん」

 

キティはふにゃ、と気の抜けた声を上げ、
ふたりの足元をくるりと一周して、すとんとマリーナの膝に乗った。

その光景を見ながら、アランは小さく呟いた。

「幸せにするよ。……絶対に」

 

夜空には星がまたたき、
黒猫とランタンの灯りが、ふたりの新しい人生を照らしていた。



──それは、彼が見たかった“ひとつの夢”のかたち。





『家族だけの時間──アランの挨拶』

式の始まる前、教会の一室にて。
参列者が入る前の静かな控え室に、家族だけが集まっていた。

マリーナの両親、アランの兄ロイド、そして妹ソフィア、
今、この空間にはアランとマリーナの両親も、そしてマリーナも、

 

アランは、正装姿のまま深く礼をして言った。

「本日は、私たちの結婚式にお越しいただき、ありがとうございます」

少しだけ息を吸って、静かに続ける。

「……ご挨拶が遅くなりました。
グレイウッド公爵家の次男、アランと申します。
マリーナさんと、今日という日を迎えられたことを、本当に嬉しく思っております」

 

マリーナの母が小さく頷く。
父はまだ表情を崩さない。

アランは、緊張を隠さず、しかし誠実に言葉を続けた。

 

「これまで、マリーナさんがご家族のもとで、大切に育てられてきたこと。
そして彼女が、強く、優しく、働き者で、芯の通った女性であること……
私は、出会ってからの毎日で、ひしひしと感じております」

 

「……だからこそ、どうかお許しいただけるなら、
これからは、私が彼女のそばにいて、支え、守り、一緒に歩んでいきたいのです」

 

アランは、少しだけ頭を下げてから、最後にまっすぐ目を見て言った。

「未熟なところも多いと思います。
でも……人生をかけて、マリーナさんを幸せにいたします。
どうか……娘さんを、私に、ください」

 

静かな沈黙が流れる。

マリーナの母は、目元を押さえて小さく嗚咽した。
父は長く黙ったあと、ゆっくりと、しかしはっきりと口を開いた。

 

「……娘を泣かせないでくださいよ」

それは、短くて――
この上なく信頼のこもった“承諾”だった。

 

アランは、頭を深く下げる。

「はい。命に代えても、守ります」

その言葉に、マリーナの父がうなずき、
母がそっと娘の手を握る。

マリーナは目に涙を浮かべたまま、
「……私も、一緒に歩きます」と小さく囁いた。

家族だけの、小さな誓い。
鐘が鳴る前の、静かで確かな時間だった。





『娘を託す父の言葉』

家族だけの控え室。
アランが深く頭を下げ、静かに言葉を終えたあと。

短い沈黙ののち、マリーナの父がゆっくりと口を開いた。

 

「……恐れ多いことだと、今でも思っております」

低く、少しかすれた声。
だが、そこには誇りと愛情がにじんでいた。

 

「我が家のような、由緒も浅い男爵家の娘が、
公爵家という名門に嫁ぐなど……」

彼は一度マリーナの顔を見て、言葉を止める。

娘は涙をこらえて、まっすぐに父を見つめていた。

 

「……本来であれば、分をわきまえ、身を引くべきだと、そう考えておりました。
ですが……」

ゆっくりと、アランに視線を移す。

 

「あなたが、まっすぐに娘を想い、
娘が、まっすぐにあなたを信じていること……」

「それを見て、私は……親として、ただ一つ願うようになりました」

「――この子が、幸せになりますように、と」

 

静かな言葉だった。
だが、それはどんな祝辞よりも、胸に響いた。

 

「……どうか、お願いします。
どうか、あの子を、笑顔にしてやってください」

 

「……身分違いなど、いずれ風が流してくれましょう。
誠実さには、身分などないと、私は信じたい」

 

アランは、ぐっと唇を引き結び、もう一度深く頭を下げた。

「……はい。
心から、ありがとうございます。
必ず、マリーナさんを幸せにします」

 

マリーナの母がそっと目を拭い、
父は、最後にこうつぶやいた。

「……今日からは、あの子の“もう一人の家族”になってください」

 

それは、娘を想う父親の、精一杯の贈り物だった。




(アラン兄視点)



空は、雲ひとつない青だった。

晴れすぎているくらいの、青。

こんな日に、君は白いドレスを着て、
花冠をかぶって、ゆっくりと歩いてくる。

そして俺に、微笑む。



「……似合いすぎてる、だろ……」

喉が乾く。
言葉が出ない。
でも、言わなきゃならない。

これは、“儀式”なんかじゃない。
これは、俺が――



「マリーナ。
 君に、正式に“妻になってほしい”と伝えるための、
 俺の、人生の誓いだ」



君が持つ花束が、風に揺れる。
シャルルが草の上を歩いて、式の横で小さく「にゃあ」と鳴いた。

子どもたちが拍手をして、
ソフィアが泣いて、笑った。



俺の筋肉が、
剣じゃなくて、言葉を支える日が来た。

俺の心臓が、
闘いじゃなくて、愛で跳ねる日が来た。



『次は、あなたたちよね。』



式終盤、ブーケトスのあと──



式は滞りなく進み、
花冠のマリーナは、幸せに笑っていた。
青空のもと、風に揺れる純白のドレス。
アラン兄は何度も何度も「これは夢じゃない」と確かめていた。



そして、式の最後に。
花束を後ろ向きにして、
マリーナが高く放る。



シャルルが横でジャンプして取ろうとする(←かわいい)



でも、しっかりと受け取ったのは――

ソフィア。



静かなざわめき。
花を抱いたまま、ソフィアがにこりと笑う。

そしてその隣で、
アッシャーとして式を支えていたバルツアーが、
口元を引き結んだまま、少しだけ頬を染める。



マリーナが、
式を締めくくる言葉として、
ふたりに向かって――言った。



「次は……あなたたち、よね?」



ソフィア、笑顔のまま視線をそらす。
バルツアー様、肩をぴくりと動かす。

シャルル:「にゃあー」(訳:YES)

子どもたち:「おぉ~~~!?!?(わー!)」
ロイド兄:「ああ、ついにか」
父(紅茶をすする):「そろそろ覚悟を決めろ」



アラン兄:「(この言葉、俺も前に言われた……)」





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