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『神託なき聖女、愛なき王国に立つ』
「役目を果たさなくなった聖女の末路」
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神殿の祭壇前、荘厳な鐘の音が響く。
春の陽光がステンドグラスを透かし、神の間に七色の光を落としていた。
今日は“春の繁栄祈願祭”。
王族と貴族たちが集い、聖女ティアの神託を受ける大祭だ。
壇上には、純白の祭服に身を包んだティアが立っていた。
金糸のヴェールが風に揺れ、祈りの言葉が始まるはずだった。
――例年通りなら、祝福と繁栄を約束する“神の声”が朗々と語られたはず。
けれど、今日は違った。
「……神は、○○家に……」
ティアの喉が詰まる。
口が、動かない。
頭の中で、クラリスの声が木霊する。
「気づいたら、そのままではいられないわよ」
ティアは知ってしまった。
この祈願の背後には、ある農村を潰す計画があったことを。
その地を収奪するため、“神託”という名の印籠が必要だったのだ。
そしてそれを語るのは――彼女。
祭壇に捧げられた金貨。
贈られた宝石、そしてその代償として望まれる“祝福”。
全部、自分の口で肯定してきた。
嘘の祈りで、誰かの涙を見て見ぬふりをしてきた。
「……私は……」
その声は、震えていた。
「私は……神の声を、聞いていない……」
一瞬、場が凍りついた。
沈黙。聖堂全体を包む、異様な静けさ。
マイク越しに響いたその告白は、鐘の音よりもはっきりと、全員の耳に届いた。
「やはり、そうだったか」
最前列に座っていたひとりの貴族が、ゆっくりと立ち上がる。
「偽りの聖女に、神の祝福など届くはずがない!」
「この数年の神託は、すべてねじ曲げられていたのだ!」
次々と立ち上がる貴族たち。
ティアが“神の声を持たない聖女”だと暴くように、怒声が飛び交う。
――ティアは、嵌められた。
神託が聞こえなくなったことに、彼女はようやく気づき、
正直に告白した。
それが、彼らの攻撃材料になった。
「……そういうことか」
王太子ライゼルが、椅子に座ったまま冷たく呟いた。
「君がもう“役に立たない”なら、仕方ないね」
その言葉は、刃よりも鋭くティアを貫いた。
誓いを交わしたはずの人。
微笑んでくれたはずの人。
「君の笑顔があればいい」と言ったその人は――
今、見下すように彼女を切り捨てた。
ティアは、崩れるように膝をついた。
祭服が床に触れ、マイクが転がり落ちる。
“聖女の崩壊”の瞬間だった。
ティアは神の声を聞かなかった。
けれど、誰よりも“罪の重さ”を知っていた。
それがどれだけの人を苦しめ、騙し、支配してきたか。
その重みが、彼女の口を閉ざしたのだ。
声を失った聖女。
祝福の裏に、真実を見てしまった者の末路。
けれど、その瞬間――
ティアは、初めて“祈り”の意味を知った気がした。
春の陽光がステンドグラスを透かし、神の間に七色の光を落としていた。
今日は“春の繁栄祈願祭”。
王族と貴族たちが集い、聖女ティアの神託を受ける大祭だ。
壇上には、純白の祭服に身を包んだティアが立っていた。
金糸のヴェールが風に揺れ、祈りの言葉が始まるはずだった。
――例年通りなら、祝福と繁栄を約束する“神の声”が朗々と語られたはず。
けれど、今日は違った。
「……神は、○○家に……」
ティアの喉が詰まる。
口が、動かない。
頭の中で、クラリスの声が木霊する。
「気づいたら、そのままではいられないわよ」
ティアは知ってしまった。
この祈願の背後には、ある農村を潰す計画があったことを。
その地を収奪するため、“神託”という名の印籠が必要だったのだ。
そしてそれを語るのは――彼女。
祭壇に捧げられた金貨。
贈られた宝石、そしてその代償として望まれる“祝福”。
全部、自分の口で肯定してきた。
嘘の祈りで、誰かの涙を見て見ぬふりをしてきた。
「……私は……」
その声は、震えていた。
「私は……神の声を、聞いていない……」
一瞬、場が凍りついた。
沈黙。聖堂全体を包む、異様な静けさ。
マイク越しに響いたその告白は、鐘の音よりもはっきりと、全員の耳に届いた。
「やはり、そうだったか」
最前列に座っていたひとりの貴族が、ゆっくりと立ち上がる。
「偽りの聖女に、神の祝福など届くはずがない!」
「この数年の神託は、すべてねじ曲げられていたのだ!」
次々と立ち上がる貴族たち。
ティアが“神の声を持たない聖女”だと暴くように、怒声が飛び交う。
――ティアは、嵌められた。
神託が聞こえなくなったことに、彼女はようやく気づき、
正直に告白した。
それが、彼らの攻撃材料になった。
「……そういうことか」
王太子ライゼルが、椅子に座ったまま冷たく呟いた。
「君がもう“役に立たない”なら、仕方ないね」
その言葉は、刃よりも鋭くティアを貫いた。
誓いを交わしたはずの人。
微笑んでくれたはずの人。
「君の笑顔があればいい」と言ったその人は――
今、見下すように彼女を切り捨てた。
ティアは、崩れるように膝をついた。
祭服が床に触れ、マイクが転がり落ちる。
“聖女の崩壊”の瞬間だった。
ティアは神の声を聞かなかった。
けれど、誰よりも“罪の重さ”を知っていた。
それがどれだけの人を苦しめ、騙し、支配してきたか。
その重みが、彼女の口を閉ざしたのだ。
声を失った聖女。
祝福の裏に、真実を見てしまった者の末路。
けれど、その瞬間――
ティアは、初めて“祈り”の意味を知った気がした。
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