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最終章 ふたりで選ぶ、これからの未来
第15話 【ノア・サイド】その音は、まだ上手く届かなくて
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小さな音楽室に、ぎぎ、と不穏な音が響いた。
「……また、鳴いたな」
ノアはバイオリンの弓を止めて、眉を寄せた。
音が潰れている。弓の角度が甘かったのか、力の入れ方を間違えたのか。
隣の譜面台には、リゼルがよく弾いていた楽譜。
彼女が母の形見のオルゴールから起こした、あのやさしい旋律。
ノアはもう一度、構え直した。
不器用でも、下手でもいい。リゼルのピアノと――一緒に奏でたい、それだけだった。
きぃ、とまた妙な音が出た。
「……ッ、違う、そこじゃない」
騎士団の剣術試合で優勝しても、この細い弓はうまく扱えない。
剣なら何千回も振ってきた。だがこの弓は、たったひとつの「想い」に届きたいだけなのに、何度振っても正しい音にならない。
額に汗がにじむ。昼間の稽古の疲れが残っている中での練習。
それでもやめようとは思わなかった。
「音で……伝えたいんだ。言葉じゃ、届かないから……」
静かな夜の中、バイオリンの音だけがぽつり、ぽつりと鳴る。
部屋の片隅には、リゼルがこっそり置いていったカモミールのハーブティーの缶。
あたたかな香りが、そっと彼の焦りを癒すように漂っていた。
「ピアノとバイオリン……ちゃんと合わせたいんだ、俺だって」
誰にも聞かれていないとわかっていても、口に出してしまう。
その瞳の奥には、ほんの少し、涙がにじんでいた。
指先が震えても、耳が痛くても、
彼はバイオリンを手放さなかった。
――彼女のピアノが悲しみを弾いていたのなら、
――自分の音で、愛を添えたい。
届かなくても、きっと届くまで。
その心は、音よりも、まっすぐだった。
「……また、鳴いたな」
ノアはバイオリンの弓を止めて、眉を寄せた。
音が潰れている。弓の角度が甘かったのか、力の入れ方を間違えたのか。
隣の譜面台には、リゼルがよく弾いていた楽譜。
彼女が母の形見のオルゴールから起こした、あのやさしい旋律。
ノアはもう一度、構え直した。
不器用でも、下手でもいい。リゼルのピアノと――一緒に奏でたい、それだけだった。
きぃ、とまた妙な音が出た。
「……ッ、違う、そこじゃない」
騎士団の剣術試合で優勝しても、この細い弓はうまく扱えない。
剣なら何千回も振ってきた。だがこの弓は、たったひとつの「想い」に届きたいだけなのに、何度振っても正しい音にならない。
額に汗がにじむ。昼間の稽古の疲れが残っている中での練習。
それでもやめようとは思わなかった。
「音で……伝えたいんだ。言葉じゃ、届かないから……」
静かな夜の中、バイオリンの音だけがぽつり、ぽつりと鳴る。
部屋の片隅には、リゼルがこっそり置いていったカモミールのハーブティーの缶。
あたたかな香りが、そっと彼の焦りを癒すように漂っていた。
「ピアノとバイオリン……ちゃんと合わせたいんだ、俺だって」
誰にも聞かれていないとわかっていても、口に出してしまう。
その瞳の奥には、ほんの少し、涙がにじんでいた。
指先が震えても、耳が痛くても、
彼はバイオリンを手放さなかった。
――彼女のピアノが悲しみを弾いていたのなら、
――自分の音で、愛を添えたい。
届かなくても、きっと届くまで。
その心は、音よりも、まっすぐだった。
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