22 / 22
最終章 ふたりで選ぶ、これからの未来
最終話 "いってらっしゃい、お姉さま、大好き”――セリアの見送り
しおりを挟む朝の陽ざしが、出立の準備に追われる別邸をやさしく照らしていた。
旅鞄を馬車に積む音。楽譜の確認。ノアの荷物を気にするリゼル。
そんな光景を、玄関先でそっと見つめる少女がひとり。
セリアだった。
胸の前で手を組み、黙っていたが、その表情はどこか晴れやかだった。
以前のような嫉妬や不満の色は、もうそこにはない。
リゼルが荷物を終えて、ふとその視線に気づく。
「……セリア?」
セリアは一歩、二歩と近づき、リゼルの前に立った。
少しだけ唇をかみしめて、それから。
「お姉さま、旅……楽しんできてくださいね」
リゼルの目がやわらかくなる。
けれど、セリアの目には少しだけ涙が光っていた。
「……昔は、ずっと羨ましかったの。美しくて、みんなに愛されて、ピアノが弾けて……。
でも、今は違う。私は――お姉さまの妹で、よかったって思ってる」
「セリア……」
「私ね、最近、孤児院の子たちに勉強を教え始めたの。
私にも、できることがあるかもって思って」
少し照れくさそうに笑うその顔に、確かに少女ではなく、「ひとりの若き令嬢」がいた。
「だから、お姉さまも。……音楽で、幸せになってください」
そして、最後に。
「私、お姉さまのこと――大好きです」
リゼルは一瞬、言葉を失った。
だが、すぐにふわりと彼女を抱きしめる。
「ありがとう、セリア。あなたが、私の妹で本当に良かった」
後ろから近づいたノアが、そっとセリアの頭をなでた。
「いい姉妹だな。安心してくれ。俺がリゼルを守る」
セリアは一度だけ、深く息を吸い。
「……はい、お願いします」
そして、馬車がゆっくりと動き出した。
セリアは、手を振った。
「いってらっしゃい、お姉さま――!」
その声は、朝の空へとまっすぐに響き、
旅立つリゼルの胸に、やさしく残った。
20
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
蔑ろにされていた令嬢が粗野な言葉遣いの男性に溺愛される
rifa
恋愛
幼い頃から家で一番立場が低かったミレーが、下町でグランと名乗る青年に出会ったことで、自分を大切にしてもらえる愛と、自分を大切にする愛を知っていく話。
【完結】白馬の王子はお呼びじゃない!
白雨 音
恋愛
令嬢たちの人気を集めるのは、いつだって《白馬の王子様》だが、
伯爵令嬢オリーヴの理想は、断然!《黒騎士》だった。
そもそも、オリーヴは華奢で可憐な姫ではない、飛び抜けて背が高く、意志も強い。
理想の逞しい男性を探し、パーティに出向くも、未だ出会えていない。
そんなある日、オリーヴに縁談の打診が来た。
お相手は、フェリクス=フォーレ伯爵子息、彼は巷でも有名な、キラキラ令息!《白馬の王子様》だ!
見目麗しく、物腰も柔らかい、それに細身!全然、好みじゃないわ!
オリーヴは当然、断ろうとしたが、父の泣き落としに、元来姉御肌な彼女は屈してしまう。
どうしたら破談に出来るか…頭を悩ませるオリーヴだが、フェリクスの母に嫌われている事に気付き…??
異世界恋愛:短めの長編(全22話) ※魔法要素はありません。
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
オネェ系公爵子息はたからものを見つけた
有川カナデ
恋愛
レオンツィオ・アルバーニは可愛いものと美しいものを愛する公爵子息である。ある日仲の良い令嬢たちから、第三王子とその婚約者の話を聞く。瓶底眼鏡にぎちぎちに固く結ばれた三編み、めいっぱい地味な公爵令嬢ニナ・ミネルヴィーノ。分厚い眼鏡の奥を見たレオンツィオは、全力のお節介を開始する。
いつも通りのご都合主義。ゆるゆる楽しんでいただければと思います。
【完結】オネェ伯爵令息に狙われています
ふじの
恋愛
うまくいかない。
なんでこんなにうまくいかないのだろうか。
セレスティアは考えた。
ルノアール子爵家の第一子である私、御歳21歳。
自分で言うのもなんだけど、金色の柔らかな髪に黒色のつぶらな目。結構可愛いはずなのに、残念ながら行き遅れ。
せっかく婚約にこぎつけそうな恋人を妹に奪われ、幼馴染でオネェ口調のフランにやけ酒と愚痴に付き合わせていたら、目が覚めたのは、なぜか彼の部屋。
しかも彼は昔から私を想い続けていたらしく、あれよあれよという間に…!?
うまくいかないはずの人生が、彼と一緒ならもしかして変わるのかもしれない―
【全四話完結】
好きじゃない人と結婚した「愛がなくても幸せになれると知った」プロポーズは「君は家にいるだけで何もしなくてもいい」
ぱんだ
恋愛
好きじゃない人と結婚した。子爵令嬢アイラは公爵家の令息ロバートと結婚した。そんなに好きじゃないけど両親に言われて会って見合いして結婚した。
「結婚してほしい。君は家にいるだけで何もしなくてもいいから」と言われてアイラは結婚を決めた。義母と義父も優しく満たされていた。アイラの生活の日常。
公爵家に嫁いだアイラに、親友の男爵令嬢クレアは羨ましがった。
そんな平穏な日常が、一変するような出来事が起こった。ロバートの幼馴染のレイラという伯爵令嬢が、家族を連れて公爵家に怒鳴り込んできたのだ。
地味令嬢、婚約者(偽)をレンタルする
志熊みゅう
恋愛
伯爵令嬢ルチアには、最悪な婚約者がいる。親同士の都合で決められたその相手は、幼なじみのファウスト。子どもの頃は仲良しだったのに、今では顔を合わせれば喧嘩ばかり。しかも初顔合わせで「学園では話しかけるな」と言い放たれる始末。
貴族令嬢として意地とプライドを守るため、ルチアは“婚約者”をレンタルすることに。白羽の矢を立てたのは、真面目で優秀なはとこのバルド。すると喧嘩ばっかりだったファウストの様子がおかしい!?
すれ違いから始まる逆転ラブコメ。
「悪女」だそうなので、婚約破棄されましたが、ありがとう!第二の人生をはじめたいと思います!
ワイちゃん
恋愛
なんでも、わがままな伯爵令息の婚約者に合わせて過ごしていた男爵令嬢、ティア。ある日、学園で公衆の面前で、した覚えのない悪行を糾弾されて、婚約破棄を叫ばれる。しかし、なんでも、婚約者に合わせていたティアはこれからは、好きにしたい!と、思うが、両親から言われたことは、ただ、次の婚約を取り付けるということだけだった。
学校では、醜聞が広まり、ひとけのないところにいたティアの前に現れた、この国の第一王子は、なぜか自分のことを知っていて……?
婚約破棄から始まるシンデレラストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる