義妹に婚約者を譲ったら、貧乏鉄面皮伯爵に溺愛されました。

夢窓(ゆめまど)

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新婚初夜ーー宴会は続く

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 鐘の音とともに結婚式は幕を閉じた。
 人々の祝福を浴びながら屋敷に戻った私とアドレは、ようやく二人きりになった。

「……はぁ。終わりましたね……」
 私は大きく息を吐き、椅子にどさりと腰を下ろす。

「……よくやった」
 隣に座るアドレが、無表情のまま私の手をそっと握った。

「……でも、式の間ずっと緊張で……お腹、空いちゃいました」
「……ふっ」
 小さく肩を震わせ、アドレは笑った。

「……じゃあ、作るか?」
「えっ、いいんですか!?」



 その夜の食卓は、まるでいつもの居酒屋のようだった。
 黄金色の唐揚げ、塩気のきいた枝豆、そして泡立つビール。

「新婚初夜に枝豆と唐揚げって……」
 アドレは呆れたように言いながらも、箸を伸ばす。

「……うまい」

「ふふっ! やっぱりそう言ってくれると嬉しいです!」

 グラスを合わせ、笑い合う。
 完璧な令嬢の顔を外した私と、鉄面皮の仮面を外したアドレ。

 そこにいたのはただの――幸せな夫婦だった。

(新婚初夜・乱入編)

 唐揚げと枝豆の香りに包まれた新婚初夜。
 グラスを合わせ、ふたりでしみじみ味わっていた――その時。

「おーい! 祝いの二次会だぞ!」
「メイベルちゃーん、唐揚げのおかわりまだある?」
「殿下だって来てるんだから、俺たちもいいだろ!」

 ドアがばんっ!と開き、仲間たちがずらりと雪崩れ込んできた。

「ちょっ……! な、なんで今!? 新婚初夜なんですけど!?」
 私は顔を真っ赤にして叫んだ。

 殿下も、フリードリヒも、影までもが当然のように席に着く。
「いいじゃないか、祝いだ祝い!」
「唐揚げ、悪魔級のやつな!」
「枝豆もな!」

 食卓はあっという間に大宴会に早変わりした。



 私はため息をつき、アドレを見上げる。
「……ほんと、この人たち遠慮がないんですけど」

 アドレはビールをひと口飲み、軽く頬を赤らめながら私の肩を抱いた。

「……俺たちには、時間がある。
 こういう夜も……悪くないさ、奥さん」

「……っ!」
 胸がじんわり熱くなり、思わず顔を埋めた。

 ――笑い声と唐揚げの匂いに包まれた、新婚初夜。
 騒がしくても、甘くて幸せな夜は続いていった。

(新婚初夜のもう一皿)

 わいわいと賑やかな新婚初夜。
 みんなが唐揚げや枝豆で盛り上がる中、私は小さく手を叩いた。

「はーい! 次は新作~。これが、だし巻き卵でーす!」

 侍女たちが運んできたのは、小さな木箱に丁寧に詰められた黄金色の卵焼き。
 ひとりひとりに一箱ずつ。
 15センチ×20センチのふっくらホカホカだし巻きに、塩むすびと味噌スープが添えられている。

「わぁ……!」
「いい匂い……!」

 影まで目を輝かせる中、私は得意げに胸を張った。
「今度、城下町の孤児院のバザーで売り出す予定なんです。
 これで、子どもたちに冬のコートを買ってあげたいなって」

 その言葉に、殿下が感動のあまり立ち上がった。

「……メイベル、よくぞここまで……!
 物資購入の資金は、私が寄付しよう!」

 拍手がわき起こり、皆が一斉にだし巻きを口にする。

「「「うま~っ!!」」」

 笑顔が広がり、殿下はしみじみと呟いた。
「公爵夫妻は……この国の宝だなぁ」



「公爵夫妻は、この国の宝だなぁ……」
殿下の感慨深い声に、会場中が拍手で包まれる。

私はというと――。

「え、えっと……ただの、だし巻き卵とおにぎりなんですけど……」

 きょとんと首をかしげながら、味噌スープをすする。

「……まあ、私としては。
 みんなで“うま~っ!”って笑ってくれたら、それでいいんですけどね」

 無邪気な笑顔に、アドレはまた肩を震わせて笑いをこらえた。

(……やっぱり、有能な妻に惚れたよ)

 そう思う彼の視線も知らず、私は「次は何作ろうかな~」とわくわくしていた。


冬の市の日。
 雪のちらつく城下町は、屋台と人々で大賑わいだった。

「はーい! だし巻き卵とおにぎりセット、温かい味噌スープ付きですよ~!」
 私の声に、長い列ができていた。

「わあ、ふっくらしてる!」
「これで銅貨三枚!? 安い!」
「孤児院の子らのためだ、買ってやろう!」

 居酒屋風の軽食は、庶民にも貴族にも大好評だった。



 列の後ろで、殿下が人々の様子を目を細めて見つめていた。
「……やはりメイベルは、この国に必要な存在だ」

 フリードリヒが横で笑った。
「殿下、あれは本人はただ“美味しいご飯を食べて欲しい”だけですよ」

 その横で、アドレは無表情のまま両手いっぱいに買い込んでいた。

「……うまいからな」



 夕暮れ。
 売上げで買った分厚いコートを、孤児院の子どもたちに羽織らせる。

「ありがとう、お姉ちゃん!」
「温かい~!」

 子どもたちの笑顔に囲まれ、私は照れながら笑った。

「えへへ……ただのだし巻き卵なんですけどね」

 その隣で、アドレがそっと囁く。

「……お前は、俺の――宝だ」

「っ……!」
 顔が真っ赤になり、私は雪の中で慌ててうつむいた。

夜空に雪が舞い落ちる。
 孤児院の子どもたちが新しいコートを羽織って走り回り、笑い声が響いていた。

 私は炊き出しの鍋を片づけながら、ふうと息をつく。
「……みんなが笑ってくれるなら、それでいいんです」

 隣でアドレが、枝豆をひとつ口に放り込み、静かに頷いた。
「……俺も同じだ。お前が隣で笑っているなら、それでいい」

 私の胸は、雪の夜なのに不思議と温かかった。



 こうして――。

 唐揚げと枝豆、そしてだし巻き卵で、この国は今日も回っていく。





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