『白い結婚のはずでしたが、夫の“愛”が黒い。 限界突破はお手柔らかに!』

夢窓(ゆめまど)

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ルデルとタイロンの計画<はじまり>

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夜の侯爵家。
執務室では、蝋燭だけが静かに揺れている。

タイロンが呼び出され、扉を叩いた。

タイロン「兄上、どうしたのです?
こんな夜更けに呼び出すなんて」

ルデルは机にもたれ、頭を抱えていた。

ルデル「……タイロン、助けてほしい。
困ったことになったんだ」

タイロンは眉を寄せ、椅子に腰を下ろす。

タイロン「何があったんです?」



■ルデルの告白

ルデルは深く息を吸い込んでから言った。

ルデル「……恋人だったランディが、二年前に子供を産んで死んだことは、覚えているだろう?」

タイロン「はい。あの……あまり触れてほしくない話だと……」

ルデルの顔が歪む。

ルデル「その子を、ランディの妹——ジュディが育てていた。
だが……最近になって、その子が誰の子なのか“完全にバレた”んだ」

タイロン「……姪っ子、ですか。
カレンという名前でしたよね?」

ルデルは震える声で言った。

ルデル「ああ。
侯爵家特有の“黒髪と青い瞳”なんだよ……
一目で、俺の子だと分かってしまう」

タイロンは頷く。

タイロン「……会ってみたいですね。
かわいい子でしょう?」

ルデルの顔が一気に曇る。

ルデル「その問題じゃない!
ランディの父親が怒り狂っているんだ……
『カレンを侯爵家の娘として認めろ』って、
詰め寄られてる!」



■公爵家の婚約が“邪魔”

タイロンは静かに言う。

タイロン「父上に頼めばいいでしょう。
正当な侯爵家の子ですし」

ルデルは首を振る。

ルデル「それが……できない。
今、私は“アルディ公爵家の娘”との婚約が進んでいるんだ。
この騒ぎが知られたら——破談になりかねない」

タイロン
「……時期が悪すぎますね」

ルデル
「悪いどころじゃない。
もし婚約が破談になったら、侯爵家が大きく揺らぐ……!」



■ルデル、ついに“爆弾”を落とす

ルデルはタイロンの手を掴んだ。

ルデル「タイロン、頼む!
ジュディと——“白い結婚”してくれ!」

タイロン
「…………は?」

ルデル
「カレンを守るためだ。
妹のジュディを“侯爵家の親族”にすれば、
ランディの父親も納得する!」

タイロン
「納得……しますかね?」

ルデル
「する!“侯爵家を妹の嫁ぎ先”にすればあっちは十分なんだ。
父上にも話はつけた。
お前なら、侯爵家に居続けるし、問題ないと言われた」

タイロン
「ちょ、ちょっと待ってください。
私、まだ事情がよく——」

ルデルが強く言う。

ルデル「頼むタイロン。
カレンを……この黒髪の女の子を守ってほしいんだ。
俺には……もう、どうにもできない」

タイロンは深い溜息をつき、天井を見上げた。

(兄上の無茶振り……いつものことだが……
今回は、命運がかかっている……)

タイロン「……ジュディ嬢の意思は?」

ルデル「白い結婚なら了承すると言った。
カレンを守れるなら……と」

タイロンは、ゆっくりと立ち上がった。

タイロン「……兄上が責任を放り投げた分、私が受け止めろと?」

ルデル「頼む、タイロン。
お前しかいないんだ……!」

タイロンは深く息をついて言った。

タイロン「……わかりました。
引き受けましょう」

夜の侯爵家に、
静かに“一つの運命の歯車”が回り始めた。

タイロンとジュディの初対面



侯爵家の離れ。
タイロンが扉をノックすると、
中から静かな声が返った。

ジュディ「どうぞ、入って」

部屋に入ると、長い黒髪をまとめた、美しい女性が立っていた。
態度は控えめだが、瞳に強い意思が宿っている。

ジュディは最初に、ぺこりと礼をした。

ジュディ「初めまして。
ルデル様から事情は伺っています。
……結論から申し上げますね」

タイロン
「どうぞ」

ジュディは少しも曇らず、まっすぐに言った。

ジュディ「——ルデルは、カレンを幸せにできません。
あの方には、親になる覚悟も能力もありません」

タイロン
(初手から切れ味が鋭い……)

ジュディは続ける。

ジュディ「だけど、カレンのために、侯爵家との“つながり”は必要です。
“白い結婚”で、三年間——それだけで十分」

タイロン
「三年でいいのか?」

ジュディ
「ええ。
六歳になれば、寄宿舎に入れますから。
寮に入れば、面会もできますし」

彼女の声に迷いはなかった。

(……全部、最初からカレン基準なんだな)
とタイロンは思う。

タイロン「随分、ハッキリした意見だな」

ジュディは、少しだけ肩をすくめた。

ジュディ「もちろんです。
私が守れるのは、姉の子であるカレンだけですから。
……それに——」

タイロン
「それに?」

ジュディ
「カレンが“侯爵家の娘”として扱われれば、身分上も何も困りません。
私が嫁ぐことで繋がるなら、安いものです」

タイロン
「安い、か……」

ジュディはようやく、ほんの少し呆れたように言った。

ジュディ「それに……ランディの父、うちの父はうるさくて仕方ありません。
あの人は、カレンを守りたいわけじゃないんです。
ただ——“自分が侯爵家の親戚になりたい”だけ」

タイロン
「……そんな理由で、あなたを巻き込んで?」

ジュディ
「そうです。
でも私は、カレンを失うくらいなら、白い結婚くらい……大したことじゃありません」

タイロンは言葉を失った。

彼女は、弱さではなく、
強さで白い結婚を選んでいる。

タイロン「……一つだけ聞いてもいいですか」

ジュディ
「なんでしょう?」

タイロン「あなたは……本当にそれでいいのか?」

ジュディは、一瞬だけ視線を落とし、
そしてはっきりと頷いた。

ジュディ「はい。
——愛より、現実です。
私にとって、カレンの未来がいちばん大事ですから」

タイロンの胸に、小さな石が落ちた。

(この人……俺が思っていたより、ずっと強い)

その夜、
タイロンは初めて、
“白い結婚”が——ただの契約ではないと知った。

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