『白い結婚のはずでしたが、夫の“愛”が黒い。 限界突破はお手柔らかに!』

夢窓(ゆめまど)

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白い結婚契約書作成、最終項

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◆侯爵家・応接室

重厚な机の上に、一枚の羊皮紙。
執事が静かにインク壺を置く。

執事
「では……白い結婚契約書の内容をご確認ください、タイロン様、ジュディ様」

ジュディは硬い表情で座っている。
隣に乳母サリーが抱いているカレンを見つめる視線は、獣のように鋭い。

ルデルはソファに座って軽く笑った。

ルデル
「まあ、こうするのが一番丸く収まる。
 ジュディ嬢も悪い話ではないだろう?」

ジュディ
「……丸く収まるのは、あなた方だけでしょうね」

タイロン(心の声)
(……この女、態度が強い……。噂通りとは違う……?
 いや、関わる必要はない。白い結婚だ)

執事が契約内容を読み上げる。



◆契約書案

●第一条:

ジュディ・ランフォードは、侯爵家次男タイロン・シーランと白い結婚を結ぶ。
両名は互いに干渉せず、情的・肉体的関係を持たない。

●第二条:

カレン・シーラン(ランディの娘)の育成はジュディが主に担当し、
6歳でパブリックスクールに入学するまでの“日常生活・教育・養護”において、
侯爵家で、育てる。

ジュディ(強い口調)
「ここは絶対に変更しません。
 カレンを奪われるくらいなら、結婚しません」

タイロン(驚き)
(……え?
 この女……誤解していたのと違わないか……?
 いや、まだ騙されるな……人前では猫をかぶることもある)

●第三条:

侯爵家はカレンの生活費、教育費、身の安全の全てを保障する。

●第四条:

タイロンはカレンの後見人として名を連ね、
必要な支援を行う。

タイロン
「……兄上の頼みだから仕方ない。
 ここまでは……了承する」

●第五条(重要):

ジュディの実家は、侯爵家の名を利用し商売をしてはならない。

執事がこの条文を読み上げた瞬間、
ジュディの父の顔がピクリと動いた。

ジュディ(小声)
「……勝手に“利用”するつもりだったんですね、お父様」

タイロン(心の声)
(……彼女は本当に……誤解してるのか……?
 いや、まだだ……まだ信じるな……)

ルデルは笑っている。

ルデル
「まあまあ、皆で助け合えばいいんだよ」

ジュディ
「“助け合い”とは、あなたが責任を弟に押し付けることを指すんですか?」

タイロン(内心)
(!!!)

執事(冷や汗)
「……では、両名、署名を」

タイロンとジュディは同時にため息をつき、
ペンを手に取る。

こうして、“とばっちり白い結婚”は成立する。

二人の誤解は深まるばかり。
でも――まだ、互いの本質に気づいていない。


同居初日

◆夕暮れ。

広い侯爵家の応接食堂に、
ジュディが静かに現れた。

化粧なし。
髪はゆるくまとめただけ。
ワンピースは“機能性全振り”の簡素なもの。

豪華でも華やかでもなく、
どこにでもある、動きやすい普段着。

タイロン(観察しながら)
(……は?
 普通……すぎないか?
 あの夜会で見た“社交界の蝶”はどこへ……?
 いや、俺は若いから、眼中にないってことか……?)

タイロン、勝手に落ち込む。

ジュディは席に座り、丁寧にスープを口に運ぶ。

ジュディ
「いただきます」

タイロン
「……普通すぎるな」

ジュディ
「え?」

タイロン
「いや、その……もっと着飾るのかと思ったが」

ジュディ
「白い結婚なんですし、
 夕飯ですから、ふつうでよくないですか?」

タイロン
(……ですよね……?
 若いからアウトオブ眼中……?
 いや、本当に眼中にない……?)
勝手にダメージを受ける夫タイロン。

そこへ――

コンコン。

執事
「タイロン様、ジュディ様。
 外務大臣閣下より招待状です」

タイロン
「外務大臣……? 嫌な予感しかしないが」

執事が封書をジュディに差し出す。
ジュディはさらりと開く。

ジュディ
「――来週の、パーティーの同伴依頼?」

タイロン(ビンッ)
(同伴!?
 誰とだ!?また男か!?)

ジュディは淡々としている。

ジュディ
「王宮のパーティーね、確認しないと。
 確か、公爵様にも、
 “次の大きな会には顔を出せ”と言われていたわ」

タイロン
「公爵様にも……?(って、誰?)」

そこへカレンが小走りでやって来る。

カレン
「ジュディー!いっしょにねよー!」

ジュディ
「はいはい、あとでね」

タイロン(脳内)
(子供には優しい……
 ということは……
 男の前で猫をかぶってる……!?
 なんて恐ろしい女なんだ……!)

ジュディ
「すみません、そろそろカレンを寝かしつけるので。
 夕飯、ごちそうさまでした」

タイロン
「ま、待て、ジュディ!」

ジュディ
「はい?」

タイロン
「……あの……外務大臣の件……ど、どうするんだ……?」

ジュディ
「行きますよ、仕事ですので」

タイロン
(仕事……仕事……って本当に仕事なのか……??
 いや、しかし“同伴”……いやいやいや……)

目がさらに黒くなる。


タイロンは椅子に崩れ落ちる。

タイロン
「なんで俺だけ何も知らんのだ……
 なんなんだこの嫁……謎多い。
 白い結婚のはずなのに……
 なんで心がこんなにザワつく……?」


ジュディ
「同伴……どうしましょうね。
 カレンが小さいし、夜はあまり外に出たくないんだけど……」

タイロン
(いや断れよ!?
 “男の同伴”だぞ!?
 そんな簡単に行くなよ!?)

しかし顔に出ない。


タイロン
「ま、待てジュディ!
 その……同伴は……誰が……?」

ジュディ
「外務大臣閣下ですけど?」

タイロン
(は……?
 は????
 なんでそんなさらっと言う!?
 もっと危機感持てよ!?
 政治家だぞ!?
 “若い男の俺”より重鎮政治家のほうがいいのか!?
 なんでだ!?
 白い結婚だからか!?
 俺が“安全な男”すぎるせいか!?
 いや、なんだ!?)

ジュディ
「白い結婚なんですから、外で仕事や付き合いがあって当然でしょう?
 ではお先に」

タイロン
「仕事!?
 今仕事って言ったか!?
 え、仕事!?!」

ジュディ
「え?……あ、いえ。
 “付き合い”ですね。
 同伴と、そういう……色々」

タイロン
(仕事じゃないのか!?
 色々って……なにぃぃぃい!?
 誤解加速!!)

ジュディは気にしない。

タイロンは食卓で崩れ落ちる。

タイロン
「なんなんだ……
 俺の嫁……
 なんで俺だけ何も知らない……
 いや、もしかして……
 本当に“商売女”なんじゃ……?」

執事(静かに)
「……旦那様。この家では、知らぬほうが幸せなこともございます」

タイロン
「俺は知りたい!!
 ただし知りたくない!!
 いややっぱり知りたい……!!
 どっちだ俺ァ!!!!」

完・全・に地獄。

タイロン
(……兄上と違って、公爵レベルの男まで……
 なんなんだこの女……
 俺だけ知らなすぎ……
 なんで俺はこんなに落ち着かない……?
 白い結婚のはずなのに……
 なんで胸がざわついてる……?)

完全に崩壊。


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