『白い結婚のはずでしたが、夫の“愛”が黒い。 限界突破はお手柔らかに!』

夢窓(ゆめまど)

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愛の結婚式。永遠の誓い。

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すべてが決まり、
奥様たちが満足そうに並ぶ中——

アレグラ夫人が、タイロンを見て、にっこり笑った。

アレグラ夫人
「これで——タイロン閣下も、黒い結婚ね」

タイロン
「……黒い、ですか?」

アレグラ夫人
「ええ。
白い結婚じゃありません。
“覚悟を決めた結婚”のことですわ」

奥様たちが、口々に言う。

「私たち、みんな黒いのよ」
「夫と覚悟して結んだ縁だから」
「逃げ場がないから、強いの」

アレグラ夫人が、手を広げる。

アレグラ夫人
「——ようこそ。
こちら側へ」
ジュディは、立ったまま動けない。

タイロンは、静かに息を吸い、
はっきりと言った。

タイロン
「……ありがとうございます」

“白い結婚”は、
この瞬間、完全に終わった。

結婚式当日
清い結婚:本当に愛する人との結婚

――すべてを受けて、愛する人と暮らす結婚

黒い結婚とは、
祝福だけを受け取る結婚ではない。

責任も、重さも、
逃げ場のなさも、
未来の困難も――
すべてを引き受ける覚悟の結婚。

それでも、この人と生きると決めること。

タイロンの覚悟

タイロンは、もう迷っていなかった。

兄の代わりでもない。
侯爵家の都合でもない。
外務大臣や奥様方に押された結果でもない。

彼自身の意思だった。

愛する人は、ジュディ。
守るべき子は、カレン。
背負う名は、侯爵家。

逃げない。
投げない。
譲らない。

この家を守る。
この妻と生きる。
この子を、娘として育てる。

——それが、彼の選んだ道だった。

タイロンは、祭壇の前で、ただ静かに立っていた。
赤い髪に、黒を基調とした礼装。
その姿は、もう「弟」でも「代役」でもない。

侯爵であり、夫になる男だった。


ジュディの決意

ジュディは、白いドレスを纏っていた。

逃げるための白ではない。
何も知らないふりをする白でもない。

すべてを知った上で、
それでも進むと決めた人の白。

彼女は、タイロンの姿を見て、初めて理解した。

(……この人、本気だ)

自分を守る覚悟。
カレンを守る覚悟。
侯爵家を背負う覚悟。

そして——
私と生きる覚悟。

ジュディは、胸に手を当て、静かに息を整えた。

(私は……
この人に、寄り添いたい)

契約だからではない。
条件だからでもない。

この人の隣に立つことを、
自分で選びたい。

愛の結婚式

森の誓いの庭。
妖精の祝福が、光の粒となって降り注ぐ。

カレンは、白いドレスに小さな花を抱え、
誇らしげにブライスメードとして歩いていた。

「じゅでぃ、きれい」
「たいろん、かっこいい」

その言葉に、二人は微笑む。

誓いの言葉は、簡潔だった。

愛を誓う。
守ると誓う。
共に生きると誓う。

——逃げないことを、誓う。

タイロンは、はっきりと言った。

「私は、ジュディを妻とし、
この家を守り、
この子を娘として育てる」

ジュディも、同じ目で彼を見て答えた。

「私は、あなたと生きます。
寄り添い、支え、
共にこの家を歩きます」

指輪が交換され、
妖精の祝福が静かに満ちる。

これは白い結婚ではない。

愛のある結婚。
すべてを受けて、
それでも一緒に生きると決めた結婚。

そして

ジュディは、一歩近づき、
そっとタイロンの腕に手を置いた。

逃げない。
隠れない。
ひとりで戦わない。

この人と、並んで生きる。

タイロンは、その手を確かに受け止める。

彼は、本気だった。
そして、ジュディも——本気だった。

終章
これからも、ずっと

夜は、深く、静かだった。

侯爵家
昼の喧噪も、人の視線も、すべて遠ざかり、
ただ二人のためだけに残された時間が、
ゆっくりと流れている。

窓の外では、月明かりが庭を淡く照らし、
風が葉を揺らす音だけが、かすかに響いていた。

ジュディは、窓辺に立っていた。
背中に、夜の冷気を感じながら。

その背後で、扉が閉まる音がする。

振り返らなくても、わかる。
足音。
呼吸の間。
言葉を探す、ほんの一瞬の沈黙。

タイロンだった。

彼は、数歩離れた場所で立ち止まり、
まるで逃げ場を断つように、静かにジュディの名を呼ぶ。

「ジュディ」

その声は低く、落ち着いていて、
しかし、確かに熱を含んでいた。

彼は歩み寄り、
そのまま、迷いなく膝をつく。

ジュディの前に。

ジュディ
「……そんなふうに跪かれると、
 何を言われるか、わかってしまうわ」

冗談めかした声だったが、
指先は、わずかに震えていた。

タイロンは、微かに笑う。

タイロン
「最初は、契約だった」

彼は、ゆっくりと言葉を選ぶ。

タイロン
「期限付きで、
 触れない約束で、
 互いの人生に深入りしない——
 そう決めていた」

一拍。

タイロン
「だが、気づいたんだ」

彼は、ジュディを見上げた。
視線は逸れない。

タイロン
「朝、君の気配で目が覚めることに、
 夜、君がそこにいることに、
 安らぎを覚えている自分に」

低く、確かな声で。

タイロン
「それを失う未来が、
 考えられなくなった」

彼は、小さな箱を取り出す。
開かれた中にある指輪は、華美ではない。
だが、どこまでも誠実な輝きを放っていた。

タイロン
「俺は、侯爵としての責任を引き受けた」
「だが、それ以上に——」

言葉を切り、
ほんの一瞬、息を整える。

タイロン
「男として、君を選ぶ、
この指輪は、愛の誓いだ」

静かに、だが、逃げ場のない宣言だった。


タイロン
「俺の妻として、
 俺の隣にいてほしい」

沈黙。

月明かりの中で、
ジュディは、しばらく彼を見つめていた。

そして、ゆっくりと息を吐く。

ジュディ
「……ずるいわね、あなた」

膝を折り、
彼と同じ目線に下りる。

ジュディ
「そんな目で言われたら、
 逃げられるはずがないでしょう」

彼女は、指輪に触れる。

ジュディ
「私も、もう“戻れる場所”なんて、
 考えていないわ」

指輪が、彼女の指に嵌まる。

ジュディ
「ええ。
 あなたとなら——
 未来ごと、引き受ける」

タイロンは、立ち上がり、
今度は迷わず、彼女を抱き寄せた。

腕は強く、だが乱暴ではない。
離すつもりがないという、静かな意思。

額に、唇が触れる。

ゆっくりと、
確かめるように。

唇へ。

深くはない。
だが、約束の口づけ。

ジュディは、彼の胸に額を預け、
小さく囁いた。

ジュディ
「……これからは、白でも黒でもないわね」

タイロン
「俺たちの色だ」

夜は、まだ続く。

だが、もう迷いはない。

二人は、選び合った。

これから先の人生を、
同じ速度で、同じ場所で、生きていくことを。

抱き寄せられたまま、
ジュディはしばらく動けなかった。

腕の中は、思ったよりも温かく、
思ったよりも静かだった。

心臓の音が、近い。
互いの呼吸が、自然に重なっていく。
タイロンは、彼女の背に回した手を緩めない。
力は強くない。けれど、離す意思がないことだけは、はっきり伝わってくる。

「……かまわないか?」

低く、確かめるような声。

ジュディは、彼の胸元に指先を置いた。
衣越しに感じる鼓動が、正直すぎて、思わず笑ってしまう。

「怖いのは……“今さら戻れない”って気づいたことくらい」

彼は、短く息を吐いた。
それは、安堵に近い音だった。

唇に、もう一度、唇が触れる。
先ほどより、少しだけ長く。
確かめるように。

ジュディは、逃げなかった。

代わりに、彼の肩に手を回す。
それだけで、答えは十分だった。

二人は、ゆっくりと歩き出す。
寝室へ向かう足取りは、
この時間を、きちんと味わうために。

扉が閉まる。

外の月明かりは、カーテン越しに柔らかくなり、
部屋の輪郭を曖昧に溶かしていく。

「……今夜は、何も急がない」タイロン

ジュディは、わずかに首を傾ける。
「ええ。
 だって……私たち、もう“時間を借りている”関係じゃないもの」

彼の指が、彼女の手を取る。
互いの距離が、自然に近づく。

言葉は、もう必要なかった。

触れる温度、
静かな夜に溶ける、確かな存在感。

それらすべてが、
選び合った大人同士の答えだった。

共に生きる。
共に過ごす。
これからも、ずっと。

夜は、その誓いを、静かに包み込んでいた。

おしまい。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

このおはなしは、ここまでです。
お付き合いありがとうございました。

現在、
『八百屋王女、なんの冗談ですか?――行方不明のパパが国王でした!?』
を連載中です。
こちらも、軽やかで楽しい作品になっています。

そして新連載は、

『離婚したので、すべて置いて辺境にきました──夫の浮気も介護も、さよならで!』

となります。

よろしければ、引き続きお付き合いいただけるとうれしいです。
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