八百屋王女、なんの冗談ですか?ーー行方不明のパパが国王でした!?

夢窓(ゆめまど)

文字の大きさ
5 / 37

王宮に来たカテイ&ビクトリア

しおりを挟む
廊下を歩く音が騒がしい。

ビクトリア(ビック)が叫ぶ。
「うわっ、床ツルッツル! すべるすべる!!」

カテイ
「ちょっとビック、走らない! ここ城だよ、城!」

侍女たちがざわつく中、
カールは静かにその様子を眺めていた。

(……面白い。というか、騒がしい。
こんなに音のする廊下、十年ぶりに見たな)

父王が、ぽそりと呟く。

「……あれが、カテイだ」

「ええ。おそらく人間ではなく、何かの“夢”だと思います」

父王
「ビクトリアは?」

「同じく、夢です」

父王が吹き出す。

カテイは王に深々と頭を下げようと――
勢い余って滑って前に倒れた。

ビック
「母ちゃん! ほら見てみ! 言わんこっちゃない!」

カテイ
「いやだもう!! この床、うちの八百屋と摩擦が違う!」

……王宮中の侍女たちが凍りついていた。

しかし。

カールだけが、静かに笑った。
とても、柔らかい笑みだった。

(……こんな明るい家族が、欲しかったな)

十年、静かすぎる場所で暮らしていた。

父上と僕が何を話しても、声は壁に吸い込まれ、
誰も笑わない生活だった。

……だから、ビックの声がうるさい。
カテイの失敗は見ていてハラハラする。

けれど――胸の奥がずっと温かい。

「この人たちを家族にしたい」

こんな気持ち、初めてだ。


父王との会話

父王
「……どうだ? 受け入れられそうか?」

カール
「はい。カテイさんもビックも……面白すぎて、飽きません」

父王
「そこか?」

カール
「家族は飽きない方がいいです。十年、静かすぎました」

父王
「……確かにな」

二人して遠くで転ぶビックを見て、深くうなずく。

カールの独白

「ビック、君が妹でよかった。
俺、子どもの頃からずっと牢屋にいたんだ。
自由な君が羨ましいんだ」



【王宮食堂・パンが小さい事件】

王宮の豪華な食堂。
ビックとカテイは、目の前に並んだ美しい料理に固まっていた。

ビック
「……母ちゃん、これ、前菜?」

カテイ
「いや、皿の余白多すぎない? 料理が迷子だよ……」

侍女(ヒソヒソ)
「(なんて野蛮……)」

ビックはパンを一口かじった。
小さくて、フワフワで、数十秒で消えた。

「……あれ? 食べ終わった。
ねぇ、これ“試食サイズ”とかじゃないの?」

カテイ
「ビック、黙んなさい……って言いたいけど、母ちゃんもそう思ったわ……」

貴族の少年
「田舎者は大変ですわね。食べ方も知らないとは」

ビック
「いや、普通に少ないだけでしょ!?
腹八分どころか、二分だよ!!」

食堂が凍りついた。

その時、カールが静かに立ち上がった。

「……ビックは間違ってないよ。
ここは……確かに“量”が少ない」

全員が息をのむ。

「父上、新しい家族を迎えるなら、
食堂のメニューも見直したほうがいいかもしれません」

父王
「……検討しよう」

(※王族の言葉ひとつで改革が始まる)

ビック
「兄ちゃん、優しい!」

カール
「……妹が困ってるのが嫌なだけだよ」

カールはほんの少し笑って、パンをビックに半分渡す。


【カールが初めて“兄”になる瞬間】

食後、カールはビックを中庭に連れ出す。

「怒ってる?」

「怒ってない。ただ……驚いただけ」

「何に?」

カールは少し俯いて告げた。

「……君が“普通に自由”だから。
俺は子どもの頃から、父上と一緒に牢屋だったんだ。
外に出たことも、友達も……家族も、ほとんど知らない」

ビック
「……兄ちゃん……」(涙)

「だから、君みたいに笑って、走って、文句言えるのが……羨ましい。
もし……妹が来るなら、自由な人がいいと思ってた」

ビック
「なんかその言い方、ずるい! 反則!」

「反則じゃないよ。
君が妹でよかったって、ただの事実」

ビックは照れくさく、
でも誇らしげに胸を張った。

「兄ちゃん……守るから! あたし強いし!」

「……妹に守られる兄って、聞いたことないけど……まぁ、いいか」

二人の距離が一気に縮まった瞬間。


【王女教育がムリすぎて逃亡事件発生】

翌日、王宮の家庭教師たちがビックに殺到する。

家庭教師A
「ビクトリア様、まずカトラリーの持ち方を――」

ビック
「フォークはこうでしょ!(八百屋カスタム握り)」
「てか皿が遠い! 距離感どうなってるのこの部屋!」

家庭教師B
「ビクトリア様、言葉遣いです。
“兄ちゃん”ではなく“カール殿下”を――」

ビック
「カールはカール!! 殿下とか言えるか!」

家庭教師C
「王宮の礼法50項の暗記を――」

ビック
「むりむりむり!! 八百屋にそんな文化なかった!」

三時間後――。

侍女
「あの……ビクトリア様がいません!!」

カテイ
「またかい!!(過去に何度も逃亡歴あり)」

王宮騒然。

カールはすぐに気づいた。

(……ああ、多分“外”だ)

外の空気が恋しくなる子だ。
だから――

カールは城壁の外、小さな市場まで行き、
果物の箱の上で寝転んでいるビックを見つけた。

ビック
「やっぱ外の空気が一番だよ……王宮むり……」

カール
「……ビック、逃げ足速いね」

ビック
「兄ちゃんこそ、なんで分かったの?」

「俺も……“自由”が好きだから。
牢屋に入れられていた頃、
ずっと空を見たかったんだ。
だから君が行きそうな場所、分かる」

ビック
「兄ちゃん……」

カールはビックの頭を軽く撫でた。

「戻ろう。逃げたっていい。
でも……俺の妹でいてほしい」

ビック
「……うん」


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

悪女の最後の手紙

新川 さとし
恋愛
王国を揺るがす地震が続く中、王子の隣に立っていたのは、婚約者ではなかった。 人々から「悪女」と呼ばれた、ひとりの少女。 彼女は笑い、奪い、好き勝手に振る舞っているように見えた。 婚約者である令嬢は、ただ黙って、その光景を見つめるしかなかった。 理由も知らされないまま、少しずつ立場を奪われ、周囲の視線と噂に耐えながら。 やがて地震は収まり、王国には安堵が訪れる。 ――その直後、一通の手紙が届く。 それは、世界の見え方を、静かに反転させる手紙だった。 悪女と呼ばれた少女が、誰にも知られぬまま選び取った「最後の選択」を描いた物語。 表紙の作成と、文章の校正にAIを利用しています。

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

精霊姫の追放

あんど もあ
ファンタジー
栄華を極める国の国王が亡くなり、国王が溺愛していた幼い少女の姿の精霊姫を離宮から追放する事に。だが、その精霊姫の正体は……。 「優しい世界」と「ざまあ」の2バージョン。

【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。

BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。 父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した! メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!

夫が私にそっくりな下の娘ばかりをかわいがるのですけど!

山科ひさき
恋愛
「子供達をお願い」 そう言い残して、私はこの世を去った。愛する夫が子供達に私の分も愛情を注いでくれると信じていたから、不安はなかった。けれど死後の世界から見ている夫は下の娘ばかりをかわいがり、上の娘をないがしろにしている。許せない。そんな時、私に不思議な声が呼びかけてきて……。

夫が大変和やかに俺の事嫌い?と聞いてきた件について〜成金一族の娘が公爵家に嫁いで愛される話

はくまいキャベツ
恋愛
父親の事業が成功し、一気に貴族の仲間入りとなったローズマリー。 父親は地位を更に確固たるものにするため、長女のローズマリーを歴史ある貴族と政略結婚させようとしていた。 成金一族と揶揄されながらも社交界に出向き、公爵家の次男、マイケルと出会ったが、本物の貴族の血というものを見せつけられ、ローズマリーは怯んでしまう。 しかも相手も値踏みする様な目で見てきて苦手意識を持ったが、ローズマリーの思いも虚しくその家に嫁ぐ事となった。 それでも妻としての役目は果たそうと無難な日々を過ごしていたある日、「君、もしかして俺の事嫌い?」と、まるで食べ物の好き嫌いを聞く様に夫に尋ねられた。 (……なぜ、分かったの) 格差婚に悩む、素直になれない妻と、何を考えているのか掴みにくい不思議な夫が育む恋愛ストーリー。

メリザンドの幸福

下菊みこと
恋愛
ドアマット系ヒロインが避難先で甘やかされるだけ。 メリザンドはとある公爵家に嫁入りする。そのメリザンドのあまりの様子に、悪女だとの噂を聞いて警戒していた使用人たちは大慌てでパン粥を作って食べさせる。なんか聞いてたのと違うと思っていたら、当主でありメリザンドの旦那である公爵から事の次第を聞いてちゃんと保護しないとと庇護欲剥き出しになる使用人たち。 メリザンドは公爵家で幸せになれるのか? 小説家になろう様でも投稿しています。 蛇足かもしれませんが追加シナリオ投稿しました。よろしければお付き合いください。

処理中です...