八百屋王女、なんの冗談ですか?ーー行方不明のパパが国王でした!?

夢窓(ゆめまど)

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ビック、初めての正式ドレスに苦しむ

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王宮の控え室。

ビックは鏡の前で固まっていた。

着せられたのは、薄い桃色の豪奢なドレス。
腰はきゅうっと締め付けられ、スカートは広がり、
靴は小さすぎて痛い。

侍女
「ビクトリア様、姿勢を正してください。
背筋を伸ばして……はい、顎を上げて」

ビック
「むりっ……!! 息できない! 背中がつる!!」

侍女
「王女はこのように立つものです」

ビック
「いやいやいや、八百屋でこんな立ち方したら
腰いわすって!!」

それでも侍女たちは容赦なかった。

「歩き方の練習です。
足は揃えて、内側を意識して――」

ビックが一歩踏み出そうとした瞬間、

ばさっ!!

スカートの重さに負けて前に倒れた。

ビック
「これ絶対戦闘用じゃない!!」

侍女たちは青ざめるが、誰も笑わない。
王宮は“失敗してはいけない場所”だ。

ビックの胸が、ぎゅっと苦しくなる。

(……こんな格好、似合わない。
あたしは八百屋で、いつも母ちゃんと笑ってたのに……)

喉がつまる。
呼吸がうまくできない。

その時。

扉が静かに開いた。 



カールが、静かに部屋へ入ってきた。

侍女たちが頭を下げる。

「退室してくれ。
……妹と話したい」

侍女たちが去ると、
カールはビックに手を差し出した。

「来て。息がしづらいだろ」

ビック
「兄ちゃん……ごめん……こんなの、着られない……」

カールは何も言わず、スカートのすそを持ち、
ビックが歩きやすいように支えながら連れ出した。

向かったのは、王宮の奥にある
ほとんど誰も来ない古い温室。

ガラス越しに静かな陽が差し、
空気は温かい。

カール
「ここは……俺と父上が、牢屋に入れられる前に
よく来ていた場所だ。
声が響かなくて、落ち着く」

ビックは椅子に座り込み、ドレスを握りしめながら言った。

「……あたし、王女とか無理だよ……
動けないし、息できないし、似合わない。
笑ってもダメ、走ってもダメ、
八百屋のままじゃいけないの?」

カールはビックの横にしゃがみ、
そっと彼女の手を取った。

「ビック」

「……なに」

「俺は――」

そこで一度息を飲む。
言葉を選ぶために。

そして、ゆっくりと。


「お前は、自由でいい。このままでいてくれ。
 俺が庇う」

ビックの目が揺れる。

カールは続ける。

「俺は子どもの頃から、
暗い牢屋の中で、“王族としての正しさ”だけを
無理やり押しつけられて生きてきた。
笑うな、騒ぐな、自由になるな、と」

ビック
「……兄ちゃん……」

「だから、ビック。
君が自由で、明るくて、よく笑うことが……
俺には救いなんだ」

温室の静けさの中で、
ビックの目からぽろぽろ涙が落ちる。

カールはそっと頭を撫でた。

「王女にならなくていい。
八百屋でも、王女でも、どっちでもいい。
……君は、君のままで生きてくれればいい」

ビック
「でも……迷惑じゃない?」

カール
「むしろ好都合だ。俺が守る理由ができる」

ビック
「ずるい……そんな言い方……
泣いちゃうじゃん……!!」

カールは微笑んだ。

「泣いていい。
ここは、泣いても怒っても、誰にも聞こえない。
……俺たちの秘密の場所にしよう」

ビック
「……うん!」





父王、ビックへ優しい一面を見せる回】

その日もドレスは破れ、侍女たちはおろおろ。
ビックはしょんぼり。

その時、
タン、と重い靴音が響く。

父王が姿を現した。

侍女たちは床にひれ伏す。

ビック
「ご、ごめんなさい……!」

父王は破れたドレスを見て、
周囲が息を飲む中――

くくっ、と笑った。

「似合わんな。それはお前の戦闘服ではない」

ビック
「せ、戦闘服じゃないよ!? ドレスだよ!?」

父王
「戦える娘には、娘の戦闘服がある。
……我が母もそうだった」

ビック
「おばあちゃん……?」

父王は静かに続ける。

「母は、どのドレスよりも、
市場で動きやすい平服を好んだ。
“自分が一番息がしやすい服を着ろ”
それが母の口癖だった」

ビック
「へ……へぇ……」

「だから――」

そして父王は侍女に向かって告げた。

「ビクトリアには、動きやすい衣装を用意せよ」

侍女
「し、しかし王女としては――!」

「よい。
王家は、娘の首を絞めるような服を着せはしない。
あの子は……自由な方が美しい」

ビックは目を丸くした。

「王女だからではない。
……私の娘だから、良いのだ」

ビックの胸がじんわり温かくなる。

カールも隣で静かに微笑む。

父王はドレスの裾に触れ、
破れた部分を見て、もう一度小さく笑った。

「これも……お前が生きている証だな。
好きに破ればよい。
衣装など、いくらでも用意できる」

ビック
「父ちゃん……優しい……!」

父王
「言うな。私は厳格な王だ」

ビック
「うそうそ、すっごく優しい!!」

父王
「……ビック」

「なに?」

父王は、たまらなく愛しげな声でこう言った。

「お前は、この家に“風”を連れてきた。
ありがとう」

ビックは顔を真っ赤にして泣き笑い。

カールがそっと肩に手を置く。

「……ビック。
俺たち、やっと家族になったんだな」


【ビック vs 王宮の貴族女子:全面衝突】

王宮の回廊。
午後のお茶会――という名の、品定めの場。

絹のドレスに身を包んだ貴族令嬢たちが、
破れたドレスの代わりに動きやすい簡素な服を着たビックを見て、
くすりと笑った。

「まあ……あれが“王女”ですって?」

「ずいぶん……庶民的ですのね」

「教育が追いついていないのでは?」

ビックは、手にしていた菓子を一口かじり、
首をかしげた。

「ねえ、それってさ」

令嬢たちが一斉にこちらを見る。

「王女は“高そう”じゃなきゃダメってこと?」

沈黙。

令嬢のひとりが、薄く笑う。

「王家の品位、というものがありますのよ。
殿下のような振る舞いは――」

ビクトリア
「品位って、お腹すいてる人に
“空気吸えば?”って言えること?」

空気が凍る。

「……何を」

「身分っていえば、王女だよ、私。
王女の品位をどうたら、こうたら、
身分で言えば、そっちがこっちに合わせるのが、普通じゃない?
人とおり合ったかどうかで決まるんじゃないの?」
「側近は、お断りでいいかな?あなた方は?」





【それを見ていたカール】

回廊の奥。
柱の影で、カールはすべてを見ていた。

(……同じだ)

胸の奥が、ひりつく。



【カールの闇:静かな独白】

牢にいる時、
誰も、私と父を見なかった。

革命の混乱の中、
王太子だった父と私は幽閉された。

貴族たちは、
「新しい王」にだけ忠誠を誓い、
牢の中の“敗者”には目も向けなかった。

また、再び王になった途端、
彼らは媚びへつらってくる。

「殿下、我が娘との縁談を――」
「王家の血筋を――」

自分の地位さえ守れれば、
父と私が牢でどう生きたかも、
私がどんな子どもだったかも、
忘れたような顔をして。

わずらわしい。
心の底から。


だが――ビックは違う。

彼女は、
王女という立場に興味がない。

父を「王」としてではなく、
「父ちゃん」になりかけている人として見る。

自分を、
王子ではなく
**「兄ちゃん」**として呼ぶ。

腹違いでも、
血が違っても、
それでも“家族”なんだと、
思わせてくれる。

それが、
どれほど救いだったか。



【カール、妹に依存し始める瞬間】

その夜。
温室。

ビックは、昼間のことを気にもしていない様子で、
植木鉢を眺めていた。

「ねえ兄ちゃん。
あの人たち、なんで怒ってたの?」

カールは、少し間を置いて答えた。

「……自分たちが、
守られてきた“立場”を
君が否定したからだよ」

「ふーん。
でも、守られてたのは王家でしょ?」

その無邪気な一言に、
胸が詰まる。

カールは、思わず言ってしまった。

「……ビック。
できれば……ずっと、ここにいてくれ」

「え?」

「君がここにいると、
この城が……ちゃんと“生きてる”感じがする」

ビックは首をかしげて、笑った。

「変なの。
でも、兄ちゃんがそう言うなら、いるよ」

その瞬間、
カールははっきり自覚する。

――ああ。
俺は、この子に依存し始めている。

自由で、
無欲で、
家族を家族として見るこの妹に。

だが同時に、
決意も生まれた。



【カールの誓い】

この子を、
王宮の“都合”から守る。

父の娘として。
俺の妹として。

――家族として。
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