『離婚したので、もう私のターンです ──介護も夫の浮気も置いてきました。』

夢窓(ゆめまど)

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誰もが、現実をみない

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牧野芽衣(まきの・めい)は、どこにでもいそうな40代後半の主婦。子供はいない。
仕事は福祉関係の公務員で、日々淡々と働いている。

ある日、夫の母・佳代が転倒し、骨折で入院したという知らせが入る。

「これから、介護どうするの?」

夫の姉・美和は、あっさりと言った。
「施設なんてかわいそう。家族で支えましょうよ。
 お嫁さん(=芽衣)も、手伝ってくれるでしょ?」

勝手に“家族介護プラン”が決まり、
芽衣には相談すらない。

夫もその場では美和に同調し、
「最初だけだから」「頼むよ」と芽衣に任せる。

しかし――
会社から、家に戻った途端、現実は芽衣ひとりにのしかかる。

義母は認知症の初期でもあり、夜中に何度も起き、
食事の介助、入浴の段取り、薬の管理、通院。
芽衣は仕事の合間を縫って、夜すべてひとりで回すようになる。ヘルパーさんには、いい顔をする美和
介護は、全く関わらないで、芽衣に、夜来てという。

夫は最初こそ“手伝うふり”をしたが、
数日で疲れ果て、だんだん家に寄りつかなくなる。

残業だと言って帰ってこない。
姉は「仕事終わったら来て」と芽衣に丸投げ。
夫は「美和が言うなら……」と逃げる。

芽衣の生活は、静かに崩れ始める。

そんなある夜、
介護用品を買って帰る途中で、
芽衣は偶然その光景を見てしまう。

──夫が、知らない女性と並んで歩いていた。
肩が触れ合うほど近く、見たことのない柔らかい表情で。

「残業って……そういう意味?」

芽衣の手から、買い物袋が落ちた。

その瞬間――
芽衣の中で、何かが静かに切れた。

介護は夜にこそ大変だ。
ヘルパーは夜には来ない。
義母は夜中に何度も起きる。
芽衣は仕事をしながら、そのすべてを一人で抱える。

だからこそ芽衣は「施設」を提案した。
しかし、夫の姉・美和は頑なだった。

「母さんを家において何が悪いの。
 施設なんて、かわいそうよ」

──でも、“介護をするのは同居の美和ではない”。

それを芽衣はもう分かっていた。

夫は家のことにますます関わらなくなり、
服に見覚えのない香りや、明るい色の髪の毛がついている日が増えた。

ある夜、夫が風呂に入っている時、
携帯にワン切りが一度だけ。
(非通知+ワンギリは、浮気相手の“合図”でよくあるパターン)

画面ロックが外れっぱなしになっていたため、
芽衣は自然に手に取った。
そこに表示されたLINEには、見たくなかった現実が並んでいた。

──二人で会っていた日。
──残業と言いながら送った写真。
──他人のように優しい夫の言葉。

芽衣は、感情より先に理解した。

「ああ、この人は、
 私の介護の大変さなんて、一度も見ていなかったんだ」

涙は出なかった。

その次の日
芽衣は自分名義で新しい携帯契約をひとつ増やした。
浮気相手がもし警戒しても、証拠は確実に残るように。

そこから芽衣の“静かな作業”が始まる。
• 夫のLINEと通話履歴のスクショ
• 浮気の日付
• 介護の記録
• 夫が「帰らない」と言った日
• すべて、淡々とファイルにまとめる

誰にも言わず、
怒りも悲しみも見せず、
芽衣はただ“準備”をしていた。

もう決めたのだ。

──この家を出る。
──介護も浮気も、全部終わらせる。

夫は気づいていない。
姉も気づいていない。
義母だけが、芽衣の手を握って言った。

「芽衣さん、最近、すこし痩せたね」

その言葉だけが、芽衣の最後の決意になった。

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