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休憩室の話
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休憩室でお弁当を広げながら、
いつものように同僚たちが介護の悩みを語る。
「うちは義母がね、また徘徊でさ~…」
「私なんて、夫の親と自分の親がダブルで来てるよ」
「子どもの受験と重なると最悪だよね」
「でも、仕事あるだけ助かるよね。家にいたら潰れてた」
芽衣は静かに頷くだけ。
一人がふと聞く。
「芽衣さんとこは、どう?」
芽衣は一瞬、言葉に詰まる。
(わたしの場合は……少し、違う)
だけど重すぎて言えない。
場の空気を壊さないように微笑んで、
「ぼちぼちですよ」とだけ答える。
芽衣は、最初は“手伝うだけ”のつもりだった
・義母の怪我や認知症の進行を見て、
自分にできる範囲で支えようと思っただけ。
・「家族みんなでやろうね」という言葉を信じていた。
・職場も安定しているし、
介護も経験者が多いから“できる気がした”。
でも――
気づけば、
夕方に、仕事帰りに寄って
雑用が芽衣の仕事になっていた。
「いつの間にか、介護の中心に立たされていた」
芽衣は、休憩室でいつも介護の話をする仲間たちに、
初めて少しだけ弱音をこぼした。
「最近、夜がつらくて…。義母さん、何度も起きるから」
すると同僚が言った。
「芽衣さん、ちょっと休んだほうがいいよ。
今度のナイトシネマ、一緒に行かない?」
芽衣は迷ったけれど、
同僚に背中を押されるように誘いに乗った。
久しぶりの映画館。
暗い会場。
誰にも呼ばれない静かな時間。
映画が終わる頃、
芽衣はふっと肩の力が抜けた。
(こんなに楽だったんだ……)
そのあと、同僚たちと夜のレストランで軽く食事をした。
そこで自然と話が介護に戻る。
「芽衣さんって、全部一人でやってるよね」
「夫さん、全然手伝わないの?」
「義母さんの介護、実質芽衣さんだけじゃない?」
一人がぽつりと言った。
「……なんか、“家の奴隷”みたいになってない?」
その言葉に、芽衣は笑おうとした。
でも笑えなかった。
(ああ……本当だ。
私、夫の家のただの“人手”として扱われてるんだ)
その瞬間、
心の奥で“なにか”が静かに切れた。
夫への愛情も、義母への義務感も、
全部いったん冷めていくのを感じた。
(こんな働き方、こんな生活、
こんな扱われ方……もう無理だ)
芽衣の中で、
離婚へ向かう静かな決意が固まり始めた。
「やっぱり“実子”が動くよね。嫁は手伝いはしても“主担当”じゃないし」
その言葉に、芽衣は胸がざわついた。
(私……義母さんの介護、ほとんど一人でやってる)
姉の美和は
「嫁なんだからお願いね」
「お母さんを施設なんて可哀想」と言い切る。
夫は
「美和が言ってるから…頼むよ」
と言うだけ。
毎晩の排泄介助、夜中の徘徊の対応。
デイサービスの送り出し、食事の準備。
(でも、本来これは“実子”がするべきことじゃないの?)
芽衣がその疑問を言えないまま溜め込んでいると、
いつもの同僚が声をかけた。
「芽衣さん、最近やつれてない?
ちょっと気晴らしに食事でも行かない?」
たった数時間。
誰からも呼ばれず、誰の世話もしなくていい時間。
レストランを出た瞬間、芽衣は涙が出そうだった。
(……自由って、こんなに静かだったっけ)
食事の席で、同僚が言った。
「芽衣さん、義母さんの介護、
夫さんたち“実子”がほとんどやってないよね?」
「……うん」
「それ、普通じゃないよ。
嫁が一番背負うのは、おかしい」
芽衣はその言葉に、心が痛むのと同時に、
救われるような気もした。
(私……おかしくなかったんだ)
もう一人が続ける。
「介護で潰れるのは、いつも“優しい人”なんだよ。
本来は、実子の責任なのに」
その瞬間、芽衣は気づく。
(私は、夫の家族の“家政婦”じゃない)
同時に、夫の態度・女性の影・ワン切り電話が線で繋がる。
(――あ、もう、終わってたんだ。この家族と、夫との関係)
静かに湧き上がる決意。
芽衣は、
「実子がするべき介護を嫁に押しつけ、挙げ句に浮気もする夫」
から離れる準備を、淡々と始めた。
いつものように同僚たちが介護の悩みを語る。
「うちは義母がね、また徘徊でさ~…」
「私なんて、夫の親と自分の親がダブルで来てるよ」
「子どもの受験と重なると最悪だよね」
「でも、仕事あるだけ助かるよね。家にいたら潰れてた」
芽衣は静かに頷くだけ。
一人がふと聞く。
「芽衣さんとこは、どう?」
芽衣は一瞬、言葉に詰まる。
(わたしの場合は……少し、違う)
だけど重すぎて言えない。
場の空気を壊さないように微笑んで、
「ぼちぼちですよ」とだけ答える。
芽衣は、最初は“手伝うだけ”のつもりだった
・義母の怪我や認知症の進行を見て、
自分にできる範囲で支えようと思っただけ。
・「家族みんなでやろうね」という言葉を信じていた。
・職場も安定しているし、
介護も経験者が多いから“できる気がした”。
でも――
気づけば、
夕方に、仕事帰りに寄って
雑用が芽衣の仕事になっていた。
「いつの間にか、介護の中心に立たされていた」
芽衣は、休憩室でいつも介護の話をする仲間たちに、
初めて少しだけ弱音をこぼした。
「最近、夜がつらくて…。義母さん、何度も起きるから」
すると同僚が言った。
「芽衣さん、ちょっと休んだほうがいいよ。
今度のナイトシネマ、一緒に行かない?」
芽衣は迷ったけれど、
同僚に背中を押されるように誘いに乗った。
久しぶりの映画館。
暗い会場。
誰にも呼ばれない静かな時間。
映画が終わる頃、
芽衣はふっと肩の力が抜けた。
(こんなに楽だったんだ……)
そのあと、同僚たちと夜のレストランで軽く食事をした。
そこで自然と話が介護に戻る。
「芽衣さんって、全部一人でやってるよね」
「夫さん、全然手伝わないの?」
「義母さんの介護、実質芽衣さんだけじゃない?」
一人がぽつりと言った。
「……なんか、“家の奴隷”みたいになってない?」
その言葉に、芽衣は笑おうとした。
でも笑えなかった。
(ああ……本当だ。
私、夫の家のただの“人手”として扱われてるんだ)
その瞬間、
心の奥で“なにか”が静かに切れた。
夫への愛情も、義母への義務感も、
全部いったん冷めていくのを感じた。
(こんな働き方、こんな生活、
こんな扱われ方……もう無理だ)
芽衣の中で、
離婚へ向かう静かな決意が固まり始めた。
「やっぱり“実子”が動くよね。嫁は手伝いはしても“主担当”じゃないし」
その言葉に、芽衣は胸がざわついた。
(私……義母さんの介護、ほとんど一人でやってる)
姉の美和は
「嫁なんだからお願いね」
「お母さんを施設なんて可哀想」と言い切る。
夫は
「美和が言ってるから…頼むよ」
と言うだけ。
毎晩の排泄介助、夜中の徘徊の対応。
デイサービスの送り出し、食事の準備。
(でも、本来これは“実子”がするべきことじゃないの?)
芽衣がその疑問を言えないまま溜め込んでいると、
いつもの同僚が声をかけた。
「芽衣さん、最近やつれてない?
ちょっと気晴らしに食事でも行かない?」
たった数時間。
誰からも呼ばれず、誰の世話もしなくていい時間。
レストランを出た瞬間、芽衣は涙が出そうだった。
(……自由って、こんなに静かだったっけ)
食事の席で、同僚が言った。
「芽衣さん、義母さんの介護、
夫さんたち“実子”がほとんどやってないよね?」
「……うん」
「それ、普通じゃないよ。
嫁が一番背負うのは、おかしい」
芽衣はその言葉に、心が痛むのと同時に、
救われるような気もした。
(私……おかしくなかったんだ)
もう一人が続ける。
「介護で潰れるのは、いつも“優しい人”なんだよ。
本来は、実子の責任なのに」
その瞬間、芽衣は気づく。
(私は、夫の家族の“家政婦”じゃない)
同時に、夫の態度・女性の影・ワン切り電話が線で繋がる。
(――あ、もう、終わってたんだ。この家族と、夫との関係)
静かに湧き上がる決意。
芽衣は、
「実子がするべき介護を嫁に押しつけ、挙げ句に浮気もする夫」
から離れる準備を、淡々と始めた。
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