『離婚したので、もう私のターンです ──介護も夫の浮気も置いてきました。』

夢窓(ゆめまど)

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離婚に向けて

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芽衣は弁護士を訪ねる。
仕事柄、福祉関係のネットワークが広く、
信頼できる弁護士もすぐ見つかった。

「よくあるパターンですね。
 離婚に向けて証拠を集めましょう」

弁護士は淡々と手順を示した。
夫の行動の“癖”を見抜き、
日時を絞って探偵を入れる。
すると、短期間で決定的な証拠がそろった。

──夫が女性とマンションへ入り、
 キスをし、同じ部屋で過ごし、
 また別の日にも会っていた。

その頃から、
芽衣はひそかに新しいマンションを借り、
荷物を“少しずつ”運び始める。

介護の半分は姉が投げてくるが、
芽衣は静かに身を引いた。

「すみません、今、仕事が忙しくて私は、もう無理です。
 施設を検討されたほうがいいと思います」

夫の家は、芽衣が抜けた分、目に見えて荒れていく。
洗濯物が溜まり、買い物もできず、
姉と夫の口論が増える。

そして運命の日。
三人で話し合いを、という姉の呼び出しに応じた芽衣。

そこで彼女はただ一言、

「私は抜けますので」

と言って、弁護士の名刺と、浮気の証拠ファイルをテーブルへ置いた。

夫の姉・美和の顔色が変わる。

「純一?これ……どういうこと?」

「ち、違うよ……!」

二人の言い合いが始まった瞬間、
芽衣は静かに立ち上がった。

その背中を、誰も追えない。



芽衣の“解放”の日々

携帯は夫と義姉をすべてブロック。
美容院で久しぶりに髪を整え、
レストランでひとり食事を楽しみ、
夜は自分のマンションでゆっくり眠った。

職場は建物が多く、セキュリティも厳しい。
芽衣は昼休憩も外へ出ないお弁当派のため、
夫が昼休み探しに来ても、絶対に見つからない。
 夫達は芽衣の所属先も知らないから、どこにいるか探せないだろう。
福祉系の仕事で役所にいるとしか言ってない。役所は、広いし、芽衣は、本館にいない。
いつも待ち合わせは、駅の近くだから。



弁護士からの連絡(純一)

「離婚の方向で進みます。
 慰謝料についても話しましょう」

純一は最後の抵抗のように言った。

「……私は離婚しません」

弁護士は冷静だった。
「あら、これだけ証拠があるのに?」

証拠には、
• ホテルへ入る直前のキス
• ホテルに入る様子
• 滞在時間
• 別の日も同様の行動
• 相手女性の身元
がすべて記録されていた。

弁護士は淡々と告げた。

「裁判にしても、あなたは確実に負けます。
 慰謝料も、相手方の女性も対象になります」

純一は言い訳のように呟いた。

「……でも、親の介護が……」


──離婚調停前の弁護士事務所。

純一は、
机の上に置かれた写真を見た瞬間、
息を飲んだ。

フレンチレストランの前で手をつなぐ姿。
白いコートの女。
ホテルに入る直前の写真——。

弁護士は淡々とページをめくる。

弁護士

「ご本人は否定されるかもしれませんが、
これは裁判でも完全に“浮気”と認定されます」

純一
「……っ、ちが……これは……」

目が泳ぐ。
唇が震える。

弁護士は静かに言葉を重ねた。

弁護士

「離婚は避けられません。
芽衣さんはすでに家を出て、
生活基盤を整えています。
あとは、離婚届に印鑑を押すだけです」

純一
「ちょ、ちょっと待ってください……
話し合いが……!」

弁護士

「話し合いの必要はありません。
結論は決まっています」

淡々と、冷静に。
純一の顔色はどんどん青くなる。

その時──純一のスマホが鳴った。


姉・美和からの着信

純一は弁護士の前で出るしかなかった。

美和(電話越し、怒鳴るように)

「ちょっとあんた!
お母さん、またやったんだわ!」

純一
「え、何……?」

美和

「タンスの中よ!!!
昨日のオムツ!!
くっさくて倒れそうになったわ!!
しかも夜中にトイレ失敗して、床びっちゃびちゃ!!」

弁護士は無言で手を止め、
純一の様子を静かに見ている。

純一
「……ごめん。
自分で……やってくれない……?」

すると姉の声が爆発した。

姉、美和 完全逆ギレ

美和

「はあ!?
同居してるからって、
全部私がやれって言うの!?
イベント用の作品仕上げなきゃいけないのに!!
こんなんやってられるか!!」

純一
「……いや、でも……芽衣は今……」

姉の声が低くなった。

美和

「……あんた、
芽衣さんに全部やらせてたでしょ」

純一
「そ、それは……」

美和

「私、もう無理。
やめる。介護なんて知らない!
お母さんは、施設に入れて!」

純一
「ムッ……無理だよ!?
親を施設に……」

美和

「じゃあ あんたがやれよ!!!!!
私は仕事もあるし、
こんな汚いの、できるかっての!!」

電話は突然切れた。

純一は震える手でスマホを置いた。


◆ 静かに刺す弁護士の一言

弁護士

「……ご家族の混乱も重大ですが、
今のお話で分かる通り、
“介護を奥様に丸投げしていた”という実態が明らかです。

これは法的にも
奥様の離婚理由として強く評価されます」

純一
「……俺……
どうしたら……」

弁護士は書類を閉じ、
淡々と告げた。

弁護士

「離婚届に押印してください。
これ以上、状況が好転することはありません」

純一は、
まるで世界が崩れ落ちるような表情でうつむいた。

そして、その夜——純一の実家は地獄に変わる

玄関を開けた純一の鼻を、
強烈な臭いが突き刺した。

玄関の脇には、
姉の手書きメモ。

《もう無理。

あとは自分でやって。
お母さん、部屋にこもってるから。
私は数日友達の家にいます》

純一
「……美和……うそだろ……?」

リビングに入ると、
床のシミ。
寝具の散乱。
タンスを開けると……
オムツ。
くしゃくしゃのまま。

芽衣がいた頃には気づきもしなかった
“現実”が、
一気に押し寄せた。

純一はその場に崩れ落ちた。
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