『この命、めぐりて、きみに還る』―“俺の子じゃない”と捨てたくせに―

夢窓(ゆめまど)

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ひとりぼっちの出産、そして転生

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夜。
湿った風が吹いていた。

山猫の宿の部屋で、ルシンダは急な痛みに膝をついた。

「……あ……」

腰が砕けそうな痛み。
お腹が、ぎゅう、と強く締めつけられる。

「まだ……早いのに……」

誰かに助けを呼ぼうとした声は、喉の奥でちぎれた。
足元がふらつき、そのまま、よろよろと戸口を開けて……外へ。

街灯の明かりがぼやけて見える。
そして、視界が、暗くなっていった。



「おい……女将っ! 誰か倒れてるぞ!」

ジェイクが声をあげたのは、ちょうど大漁亭の裏手。
女将が台所から飛び出し、地面に横たわるルシンダの姿を見て、息を呑んだ。

「ルシンダ……!?」

「生まれるのか……!」

「産気づいてる……! ジェイク! 早馬呼んできて! すぐ、医者に!」

「お、おうっ!」

女将は、濡れた地面に膝をつき、震えるルシンダの手をとった。

「――大丈夫、大丈夫。あんた、よう頑張ったね……!」



病院に運ばれたその夜。
ルシンダは、長い時間をかけて、ひとりで、命を産み落とした。

静かだった。
叫びも、涙も、もう出なかった。

「……赤ちゃん、泣いてる?」

ルシンダの問いに、助産師は微かに頷く。

「……男の子よ。元気に産まれた」

――良かった。
それだけで、もう、十分だった。

ああ、これで……この子は、生きられる。

「……ありがとう……」

その声を最後に、ルシンダのまぶたが、ゆっくりと、閉じられた。



その瞬間。

どこかで、誰かが泣いていた。
目の前に、まばゆい光が広がる。

「……私……死んだの?」

何もない空間で、ぽつりと呟く。

静寂の中に、赤ん坊の泣き声が響いた。

「……生きたい」

そう思った。

この子を守りたい。
もう一度……やり直せるのなら。

次の瞬間、真っ暗な部屋の天井が見えた。
体が、小さい。
隣には、布団にくるまれた赤ん坊。

――泣いてる。さっきの子だ。

「……生きてる……?」

彼女は思った。

違う。
私は、ルシンダではない。

けれど、ルシンダの痛みも、記憶も、全部、胸に残っている。

「私……“晴海(はるみ)”だ……」

日本で、普通の主婦だった。
出産で亡くなって、気がついたら、ここにいた。

泣く赤ん坊を抱きしめながら、彼女は震える声で囁いた。

「生きて……生きて、生きて……」

それは、自分自身に向けた言葉でもあった。

こうして、ルシンダの魂は死に――
晴海は、母として、もう一度生きることを選んだ。
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