白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)

文字の大きさ
16 / 22

侍女たちの聞き取り、実家調査

しおりを挟む
◆侍女たちの聞き取り

テオドールは、静かな怒気をまとっていた。
騎士団の執務室に呼び出された侍女たちは、全員が青ざめて震えている。

「確認したいことがある。……正直に答えろ」

沈んだ声が響いた瞬間、ひとりが泣き崩れた。

「奥様の……いえ、マルグリット様のお食事を床に置いたのは、本当か?」

「そ、それは……っ、あの、当時は、そういう指示が――!」

「誰の指示だ」

「……っっ!」

侍女たちは互いの袖を掴み、しどろもどろに言い訳を重ねるが、
テオドールの表情は一切緩まなかった。

「では、支給金の件だ」

彼は書類を机に叩きつけた。

「マルグリットに渡るはずだった毎月の生活費。
 マルグリットが受け取ったのはごく一部。残りは……“どこへ流れた”?」

沈黙。
うつむく侍女たち。
ひとりが震える声を絞り出した。

「……申し訳、ございません……」

その言葉を聞いた瞬間、テオドールの怒りは表面には出ず、
むしろ静かに、空気が冷えた。

「お前たちは――侯爵夫人に、どんな扱いをしたと思っている」

噛み締めるように低く言う。

「夫人は、食事も寝具も、自分で整えさせられていた。
 声をかけても返されず、存在すら無視されていた。
 それを“仕える者”の仕事だと、本気で思っていたのか?」

返事がない。
誰も顔を上げられない。

「……みっともなく取り乱す前に、罪を認めろ」

侍女たちはようやく泣きながら膝をつき、口々に謝罪を叫んだ。
しかしテオドールは首を振るだけだった。

「謝罪で済むと思うな。
 これは“侯爵夫人への暴挙”だ。見過ごすつもりはない」

彼の視線は冷たく、
三年間の空白と、彼自身の無自覚を悔いる影がわずかに滲んでいた。

「……お前たちは、それ相応の処分を受けてもらう」

扉が閉まる音だけが響いた。
侍女たちは誰一人として立ち上がれなかった。

◾️侍女たちの聞き取りと、テオドールの静かな怒り

騎士団•執務室。

深夜に近い刻限だというのに、部屋には重い空気が張りつめていた。

侍女たちは全員、壁際に並ばされている。
泣きそうな者、震えている者、開き直っている者──その顔ぶれは様々だ。

テオドールは一人ひとりの前に書類を置き、低く告げた。

「……では、聞かせてもらおう。
 お前たちは 侯爵夫人にどのような扱いをしたのか」

書類には、叔父マシュウの調査団がまとめた“疑惑”がすでに記されている。

最初に口を開いたのは侍女長だった。
しかし──

「わ、私は、その……夫人が何もおっしゃらない方で……その、どう扱えば……」

言い訳を並べ立てる侍女長を、テオドールのまなざしが冷たく切った。

「質問に答えろ。
 妻の食事を床に置いたのか?」

「……っ、はい……。でも、でも、
 夫人は“要りません”と……!」

「“床に置かれた食事など食べられるか”と、
 誰一人考えなかったのか?」

侍女たちは一斉に俯いた。

さらに調べが進む。

◆マルグリットに支給されていたはずの毎月の金
→ 実際にマルグリットに、渡されていたのは1割だけ

◆衣服・化粧品の費用
→ 侍女長が横領し、質の悪い安物を与えていた

◆マルグリット義母との癒着
→ “夫人は気の弱い田舎娘だから大丈夫”と侮っていた。給付金山分けで、話はついた。

証拠を突きつけるたび、侍女たちは取り乱し、泣き叫んだ。

だがテオドールは一度も表情を崩さなかった。

むしろ、ゆっくりと、声を押し殺すように怒りを積み上げていく。

「……これが、
 侯爵夫人に対してお前たちがしていた仕打ちか」

沈黙が落ちる。

その沈黙が、怒号よりもずっと重かった。

テオドールは椅子から立ち上がると、侍女長の前に歩み寄った。

侍女長は、椅子に押し込まれるように座らされると、震える手でスカートの裾を握った。

「ち……違うんです、旦那様。わ、私たちはただ……!」

テオドールは、ゆっくりと書類を置いた。
怒鳴り声はない。
だが──その沈黙の方が、侍女長の膝を震わせた。

「『侯爵夫人への月々の支給金』の行き先を説明しろ。」

「そ、それは……っ、あの……!」

侍女長は慌てて顔をあげるが、目が泳いでいる。

「だって、奥さまは何もおっしゃらなくて……!
 “必要ない”と、そう受け取れる態度で……!」

「必要ない?」
テオドールの声は、静かすぎて冷たい。

「みんなに無視されてたのにか?」

侍女長の顔から血の気が引いた。

「ち、違います! あれは、その……!
 奥さまが、私たちに近づけるなとお命じになったからで……!」

「命じていない。」
テオドールはずいと身を乗り出した。

「マルグリットはそんなことを言う女ではない。
 お前が勝手に“そういう女だ”と決めつけただけだ。」

「ち、違……!」

侍女長の声が震えて潰れる。

「マルグリット様の継母様から……っ、奥さまは“気難しい子だから強めに扱え”と……
 そう言われたんです! だから、わ、私たちは……!」

「強め?」
テオドールはゆっくりと視線を落とす。

「飢えさせ、無視し、金を奪い、形見まで隠したのが“強め”なのか?」

侍女長の呼吸が止まり、次の瞬間、椅子から転げ落ちるように床へ膝をついた。

「ち、違うんです! 違うんです旦那様!
 悪気があったわけじゃ……っ!」

「悪気がなければ許されると思っているのか。」

その声に、部屋の空気が凍りつく。

侍女長
「あなた様は戦争で……生きて戻られないかもしれないと……
 だから、その……屋敷は、いずれ、あの奥様が継ぐものだと……!」

テオドールの眉がわずかに動いた。

「つまり、マルグリットが“夫のいない未亡人も同然”になると踏んで、
 見下したわけだな。」

侍女長は肩を震わせ、床に手をつき、泣き喚いた。

「違うんです! 違うんです、お願いです、どうか──!」

「聞き飽きた。」

テオドールは立ち上がる。

「侍女長、髪を切り、労役三十五年。
 お前の“判断”の代償は、自分の人生で払ってもらう。」

侍女長が崩れ落ちた瞬間、
すすり泣きは悲鳴へと変わった。

「いやあああああっ!!」

護衛が彼女を抱え上げる。

テオドールは、冷たい目でその背を見送った。

「これが……こいつらが妻にしてきた仕打ちだ。
 私は、一人残らず裁く。」


「夫人への虐待を考えれば、まだ軽い。
 労働収容所に三十五年。
 そこで生き直せ」

悲鳴が上がった。

続いて他の侍女たちへも判決が下る。

横領額に応じて十五年、十年、五年──。
罪状が「無礼・虐待・放置」の者も、全員が労働就労を命じられた。

テオドールは最後に言い放つ。

「……夫人を“見下せる相手”だと思ったのだろう。
 だが覚えておけ。
 私は、あの人の夫で、彼女は、誰よりも尊い存在だと思っている。」

その背は震えていた。
怒りか、悔しさか、それとも後悔か。

侍女たちは一語も返せなかった。

そして、マルグリットの実家も、
調べねばならない。

「できるだけ、取られたものは取り戻す。」

彼女が軽んじられたのは、夫である
私への屈辱である。」

◾️再び、侍女長の取り調べ ― 言い訳と崩壊

「そ……それは……あの、奥方が、気難しくて……」

「気難しい?」
テオドールの声が低く落ちる。

「“侯爵夫人が気難しいから床に置いた”と、
 お前は、本気でそう言うつもりか?」

「ち、違います、あの……! 義母様が……その、
 “嫁など甘やかすな”と……!」

侍女長は両手を震わせながら、縋るように言葉を吐き出した。

「わ、私は逆らえませんでした!
 屋敷を仕切るのは、あの継母様で……!」

「だからといって、
 侯爵夫人に餌のように食事を置くのが正当化されると?」

「ち、違います! 違います!
 私は……悪くありません……! 義母様が……!」

テオドールの沈黙に耐えられず、侍女長は膝から崩れ落ちた。

「ご、ご容赦を……!
 あの方が怖かったのです……! あの、鬼のような女が……!」

彼女の涙が床に落ちても、テオドールの瞳は氷のままだった。

「……恐怖を理由に、罪を重ねたわけか。
 だが言っておく。マルグリットにしたことは “虐待” だ」

侍女長の肩が跳ねた。

「三年……彼女は一人で食べ、一人で眠り、
 誰にも相手にされなかった。
 その孤独を作ったのは、お前たちだ。」

侍女長は泣き叫ぶように縋った。

「も、申し訳ございません……!
 どうか……どうか、強制労働だけは……!」

「処分は変わらない。
 お前は三十五年の就労刑だ。
 ……生半可な“罰”では償えない。」

侍女長は声にならない悲鳴をあげ、崩れたまま動けなかった。



◆ 継母の裏取り ― 取り調べ / 逮捕

侍女たちの証言は、すべて一つに収束した。

――元凶は、勝手にやってきた継母だった。

マルグリットの私物を隠し、
支給金を着服し、
侍女たちに“嫁を甘やかすな”と命じ、
屋敷を牛耳っていた。


そして取り調べ当日。

重厚な椅子に縛りつけられた継母は、
いつもの下品な笑みを浮かべていた。

「まあ、困ったわね。何か誤解があるのでは?」

テオドールは書類を机に叩きつけた。

「誤解なら、証拠は語らない。
 これは全部、お前の署名と印だ。」

継母の笑みが微かに揺らいだ。

「結婚支度金の着服、侍女への指示、
 マルグリットの形見の横領。
 どれも立派な罪だ。」

「……あの子が、告げ口したの?」

「侯爵夫人に責任を押しつけるな。」

継母は一瞬、表情を歪めた。

そして突然、声を荒らげた。

「だってあの子が全部持っていくじゃないの!
 財産も、名前も、屋敷も!
 私の娘が、本当なら侯爵夫人になるべきだったのよ!!」

テオドールの眼差しが鋭く細められる。

「……ようやく本音か。」

「当然でしょう!?
 あの子がいなければ、私の娘が――」

バンッ、と机を叩く音が響いた。

「もういい。」
テオドールの声は低く冷たい。

「この国で“嫉妬”は罪ではない。
 だが――“虐待”と“横領”は、立派な犯罪だ。」

継母は震えた。

「連れていけ。王家の判断で最も重い罪にしてもらう、つまり、死刑だ。」

護衛が継母の両腕を掴み引き立てる。

「離しなさい! 私は悪くない!
 私は……“ただの継母”でしょう!?
 親子の関係に口を出して何が悪いの!!」

叫び声は廊下に消えていった。

残されたテオドールは、
深く息を吐きながら呟いた。

「……マルグリット、
 お前はどれほどの孤独に耐えていたんだ。」

彼の拳は固く握られ、
怒りで白くなっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

【完結】「あなたは強いから大丈夫よね」、無自覚に人生を奪う姉

恋せよ恋
恋愛
「セリーヌは強いから、一人でも大丈夫よね?」 婚約破棄され「可哀想なヒロイン」となった姉カトリーヌ。 無自覚で優しい姉を気遣う両親と『私の』婚約者クロード。 私の世界は反転した。 十歳から五年間、努力で守ってきた「次期後継者」の座も。 自分に誂えた「ドレス」も……。「婚約者」さえも……。 両親は微笑んで言う。 「姉様が傷ついているの強いお前が譲ってあげなさい」と。 泣いて縋れば誰かが助けてくれると思っているお姉様。 あとはお一人で頑張ってくださいませ。 私は、私を必要としてくれる場所へ――。 家族と婚約者を見限った、妹・セリーヌの物語。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

おさななじみの次期公爵に「あなたを愛するつもりはない」と言われるままにしたら挙動不審です

ワイちゃん
恋愛
伯爵令嬢セリアは、侯爵に嫁いだ姉にマウントをとられる日々。会えなくなった幼馴染とのあたたかい日々を心に過ごしていた。ある日、婚活のための夜会に参加し、得意のピアノを披露すると、幼馴染と再会し、次の日には公爵の幼馴染に求婚されることに。しかし、幼馴染には「あなたを愛するつもりはない」と言われ、相手の提示するルーティーンをただただこなす日々が始まり……?

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

処理中です...