『定年聖女ジェシカの第二の人生 〜冒険者はじめました〜』

夢窓(ゆめまど)

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依頼ーー荷運び依頼

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荷運び依頼

ギルドで、私たちは新しい依頼を受けていた。

「街から街へ、荷物を届けるお仕事です。護衛も兼ねてます」
受付嬢が差し出した依頼書には、馬車での移動と、報酬の銀貨が記されていた。

(……つまり宅配便ね。定年聖女、転職後は運送業ですか)

馬車の御者台に座る老人が手を振った。
「頼んだぞ、冒険者たち」

「任せとけ!」と、グラント(ならず者戦士)が威勢よく応える。

エリオ(落ちこぼれ魔術師)は荷台の片隅で本を広げ、早くも酔いそうな顔をしている。

ヨシュア(美少年)は楽しげに箱を覗き込んでいた。
「わぁ……すごくきれいな布だ。高そう」

「おい、勝手に触るな。盗んだと思われたらどうする」
グラントが眉をひそめる。

そのとき、御者が何気なくつぶやいた。
「……坊ちゃんに似てるなぁ」
「えっ?」
ヨシュアがびくりと肩を揺らし、慌てて視線を逸らす。

(……やっぱり。この子、ただの剣士じゃない)



道中のトラブル

馬車が森の中に差しかかった頃。
茂みから、ひょろ長い盗賊たちが現れた。
「おいおい、いい荷だな。置いてけ!」

(あー、来た来た。護衛依頼のお約束)

「ジェシカ、下がれ!」
ヨシュアが真っ先に飛び出した。
剣を抜き、盗賊の一人を鮮やかに弾き飛ばす。

「っ……!?」
盗賊の目が一瞬ぎらりと光った。
「おい……あの顔……どっかで……!」

ヨシュアは一瞬、剣先を震わせた。
けれど次の瞬間、グラントが盗賊を拳でぶちのめす。
「てめぇら、荷運びの邪魔すんじゃねぇ!」

その隙にエリオが慌てて呪文を唱える。
「ファ、ファイア……スパーク!」
盗賊の衣がちょっと焦げただけだった。
「……しょぼっ」
「う、うるさい!」

結局、盗賊たちは退散し、馬車は無事に進み出した。



不穏な伏線

「……今の人、ヨシュアのこと知ってた?」
私が問うと、彼は苦笑いを浮かべた。
「えっと……人違いじゃないかな」

無邪気な笑みの裏に、どこか怯えが見える。
(やっぱり、この子には“訳”がある)

けれど今はまだ、深く聞かないでおいた。
荷物を無事に届けること。それが、今の私たちの役目だから。


荷運び依頼の帰り、私たちは小さな宿に泊まることになった。
湯気の立つスープを啜りながら、ふと隣のエリオに目をやる。

(……ん? なんか、くさい)

「ねぇエリオ。あんた、いつ服洗った?」
「……へ? な、なんで急に」
「いや、こげ臭いだけじゃなくて……なんか、酸っぱいにおいがするのよ」

エリオの顔が一瞬で真っ赤になる。
「そ、そんなこと……! ちゃんと……あ、三週間前に洗った!」
「アウトじゃん!」

グラントが爆笑し、ヨシュアまでお腹を抱えて転げ回っていた。

私はさらに追撃した。
「それと、魔法回路ズレてる気がするから、見てもいい?」
「ま、魔法回路!? そんな、恥ずかしいことを……!」
「何よ恥ずかしいって。回路の流れ方で、魔力のクセがわかるのよ。……ああ、あと髪も切ろうか」
「か、髪!?」
「前髪が鬱陶しさ満載。目にかかって暗い印象よ。伸びすぎて、もう“ボサボサ陰キャ魔術師”って肩書きがつきそう」

「なっ……!?」
エリオが慌てて前髪を手で押さえる。
ヨシュアは「お父さん、髪切った方がいい!」と元気に追撃。

(お母さんじゃない!)と心で叫びながら、私はにやりと笑った。
「じゃ、明日、散髪ね」
「……し、仕方ないな……」
エリオは耳まで真っ赤にして俯いた。

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