『定年聖女ジェシカの第二の人生 〜冒険者はじめました〜』

夢窓(ゆめまど)

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牢獄の救出ーー騎士団が繋がれている!

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騎士団奪還計画

「地下牢に、まだ団長が囚われている」
ヨシュアの報告に、胸が熱くなる。
弱った彼らを見捨てたら、国の未来は立たない。

レンが地図に指を走らせる。

「牢の見張りは外人傭兵だ。昼間から酒に溺れ、夜はほとんど役立たずらしい」

「好都合ね」私は静かに答えた。

「眠らせて、静かに奪還する。無駄な血は流さないわ」

エリオが小さく手を挙げた。

「ぼ、僕の眠りの魔法……使えます」
「ええ、私が補助するから大丈夫」



地下牢の見張り

夜。
牢の前で傭兵たちが酒を回し飲みし、ぐったりと座り込んでいた。

私とエリオが同時に詠唱を重ねる。
淡い光が揺らめき、傭兵たちの瞼が重く落ちる。

「ん……ぐぅ……」

その場に崩れ落ち、あっけなく眠り込んだ。

グラントが鼻で笑いながら、一人をつま先で転がす。

「なんだよ、楽勝じゃねぇか」

「油断しないの。まだ中にいるわ」私は釘を刺す。


牢獄の奥、鎖につながれた騎士団たちは、見る影もなかった。
骨と皮ばかりに痩せ、目の光は消えかけている。
「……これが、国を守ってきた人たちなの?」
エリオが唇を震わせた。

私は静かに頷き、両手をかざす。
「聖なる光よ……この人たちに力を戻して」

柔らかな光が牢を満たし、乾ききった喉が潤い、浅い呼吸が深くなっていく。
けれど――
「……歩けない……」
立ち上がろうとした騎士がすぐに倒れ込んだ。

「長すぎた枷と飢えで、筋肉が衰えている。
一度に治すのは無理だわ」
私は息を整えて言った。
「時間をかけて少しずつ回復させないと」

鉄格子の最奥――そこにも痩せこけた男たちがいた。
かつて勇猛を誇った騎士団の仲間たち。
その中心に、セルバン団長の姿があった。

衰えてはいるものの、背筋は伸び、目の光は失われていない。

「……お前たちは……?」

ヨシュアが駆け寄り、声を震わせる。

「団長! 僕です、ヨシュアです!」

その瞬間、牢の奥にざわめきが走った。



解放

私は格子に手をかざし、聖なる光で錠を砕いた。
鉄の扉が鈍い音を立てて開く。

倒れていた者たちを抱き起こし、一人ずつ光を注いでいく。
弱った体でも、目に力が戻っていく。

セルバン団長が私の手を握りしめた。

「……殿下……聖女殿……感謝する……
もう剣を振るえぬかもしれんが……我らの心はまだ折れていない」

「大丈夫。焦らないで。ゆっくり回復すればいいんです」

牢から解き放たれた騎士たちの瞳に、再び炎が灯った。



役割分担

グラントが腕を組む。
「なら俺たちは何すりゃいい?」

「調査と、回復手伝いよ、」
私は仲間たちを見回す。
「敵の動きや、街の様子を探ってきて。騎士団が立ち上がれるまでに情報を集めておかないと」

ヨシュアはすぐに頷いた。
「わかった。僕は街の人に聞き込みをしてくる」

エリオは不安げに目を伏せたが、レンが肩を叩く。
「君は私と共にここに、魔術を張り巡らせよう。情報収集にも魔法は使える」
「……はい!」

ハリスはにやり。
「じゃあ俺は“敵の武器庫”を調べてくるか」
「爆破禁止だからね!」
「……ぐぬぬ」

グラントは斧を担ぎながら笑った。
「じゃ、俺は兵士の動きを追うさ。街の裏路地なら得意だ」



聖女の独り言

騎士団たちの傍らで光を注ぎながら、私はぽつりと呟いた。
「……ああ、昔の聖女ならこういう時、仲間を集めて一気に奇跡を起こしてたのよね。
最近の若い子たちは……雑な治癒で済ませちゃって……」

自分で言ってから苦笑する。
「……やだ、またお局くさいこと言ってる」

ナカのお世話

騎士団の治癒に力を注ぎ続ける私のもとへ、小さな影がちょこんと座り込んだ。
「ジェシカお姉さん、これ……」
手に持ってきたのは、湯気の立つスープと果物の盛り合わせ。

「ナカ……」
貧民街で出会った、あの少女だ。

「お姉さん、力を使ったらお腹空くんでしょ? これ食べて」
無邪気な声に思わず笑ってしまう。
「ありがとう……本当に気が利くわね」

さらにナカは、聖力の補助食まで取り出した。
「これ、レンさんが教えてくれたの。魔力が減ったら甘いものがいいんだって」
「……ふふ。優秀な助手を得ちゃったかも」

騎士団の枕元で光を流し込みながら、私はナカにスープを食べさせてもらう。
(……こうして庶民の子が自然に手伝ってくれるのは、この子たちが国を“家族”だと思ってるからなのよね)



森での療養

奪還した兵士と森に戻ると、すぐに食事と水を用意した。
ナカがせっせとスープを温め、干し肉を柔らかく煮る。
飢えで骨ばった騎士たちに椀を手渡すと、彼らは震える手でそれを口に運んだ。

「……ああ……温かい……」

その声に、私の胸がじんと熱くなる。



治療

私は次々に聖なる力を注ぐ。
だが、一気に全快させるのではなく――。

「無理に治すのは逆効果よ。
あなたたちの自然治癒力に、ほんの少し背中を押すだけ。
焦らず、食べて、眠って、体を取り戻して」

光を浴びた騎士の顔に血色が戻り、乾いた唇から小さな笑みが漏れた。



団長の言葉

セルバン団長もまた椀を手にしていた。
一口食べてから、深く息を吐き、私たちを見渡す。

「……殿下、そして聖女殿。
我らは生き恥をさらしてきたが……
今一度、剣を取ることをお許しいただきたい」

ヨシュアは真っ直ぐに答えた。

「許すも何も、僕たちはあなた方を必要としています。
一緒に、この国を取り戻してください」

その言葉に、牢で折れかけていた騎士たちの瞳が一斉に光を取り戻した。



ヨシュアの聞き込み

 ヨシュアは街を歩いていた。
少年の姿のまま、身分を隠しながら人々に声をかける。

「ねえ、おじさん。最近、騎士団を見かけないけど……」
「ああ、牢に入れられちまったって噂だ。逆らったんだとよ」

別の老婆が口を開く。
「王宮はすっかり“側妃派”のものさ。
正妃様は離宮に閉じ込められて……かわいそうに」

子供たちが口をそろえて言う。
「新しい兵隊さん、怖いんだ。知らない言葉で怒鳴るんだよ!」
「夜に人を連れていっちゃうんだ」

ヨシュアは胸を押さえ、苦しい表情を浮かべた。
(……母さん……。国は、こんなにも壊されてる……)



王宮の噂

夜、聞き込みを終えたヨシュアは戻ってきた。
「……やっぱり母上は離宮に囚われてる。
それに、父上は……薬で操られてるかもしれない」

私は光を流し続けながら顔を上げた。
「……そう」

「でも、民は諦めていない。みんな“旗が立てばついていく”って……そう言ってた」

ヨシュアの目は揺れていたが、その奥には確かな決意があった。



小さな誓い

ナカがヨシュアにパンを差し出した。
「お兄ちゃん、がんばって。みんな待ってるよ」

ヨシュアは一瞬驚いて、それから笑顔でパンを受け取った。
「……うん。必ず母上を助けて、国を取り戻す」
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