『定年聖女ジェシカの第二の人生 〜冒険者はじめました〜』

夢窓(ゆめまど)

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正妃奪還

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奪還した宿舎の奥。
粗末な灯りの下、私たちは古びた羊皮紙の地図を囲んでいた。
叔父の影であり、麗しの魔法使いレンが指先で線をなぞる。

「離宮は王宮の外れにある。正面から入れば、必ず検問に引っかかる。
だが――古い水路がまだ残っているはずだ」

グラントがにやりと口角を上げる。

「なるほどな。つまり、下水から忍び込むってわけか」

「汚いけど、目立たない方法ね」
私は苦笑した。

地図の向こうで、回復したばかりの騎士団長セルバンが、重々しく頷いた。

「外では我らが陽動にあたろう。精鋭を率いて兵を引きつける。
お前たちが離宮に入る隙は、必ず作ってみせる」

若い騎士団リュシアンが顔を上げ、力強く言った。

「僕も行きます! 殿下のお側で戦わせてください!」

ヨシュアは真剣な眼差しを向け、静かに答える。

「……母上を必ず救い出す。僕が前に立つ」

私は思わずその前に手を伸ばす。

「無茶はダメよ。あなたは“旗”なんだから。
倒れたら、誰もついていけなくなる」

それでも、ヨシュアの眼差しに宿った決意は揺るがなかった。

地図を照らす灯火が、皆の顔に陰影を刻む。
騎士団の精鋭、そして私たち――全員の覚悟が一つに重なる瞬間だった。



影との連携

潜入の日。
夜の帳に紛れ、私たちは下水路へと降りた。
濁った水の匂いに、グラントが顔をしかめる。

「うぇっ……俺、この臭い苦手なんだ……」
「戦場よりマシでしょ」

私が返すと、仲間たちが小さく笑った。

やがて闇の中から黒装束の影たちが現れる。
叔父の密偵――王家の影。

「我らが道を拓く。巡回兵はすでに遠ざけた」

「助かる」
レンが短く答え、指先で闇を操る。
淡い光が掻き消され、私たちはより深い夜に溶けていった。

騎士団の精鋭も後方に控え、密やかに頷き合う。
彼らの視線は鋭く、かつての誇りを取り戻していた。



離宮の内部

地下の格子を抜け、私たちは離宮の一室に身を潜めた。
中は不自然なほど静かで、警備も最小限。

グラントが低く唸る。

「妙だな……罠の匂いがする」

私は胸の奥で同意した。
だが、進まなければならない。

その奥――。
薄暗い部屋の中、痩せ細った一人の女性が囚われていた。
青ざめた顔に、しかし揺るぎない澄んだ瞳。

「……ヨシュア?」

震える声に、ヨシュアは駆け寄った。

「母上!」



再会

二人は抱き合い、涙を流した。

「生きていてくださった……!」
「よく……よく来てくれましたね……」

私は彼女の肩に手を置き、聖なる光を流す。
衰えた体に少しずつ温もりが戻り、足が震えながらも支えを取り戻していく。

「大丈夫。歩けるようになります」

その時――外から怒声が響いた。

「侵入者だ! 離宮を封鎖しろ!」





「やはり罠だったか!」
グラントが斧を構える。
ハリスは怪しい瓶を握り、エリオは慌てて魔法陣を展開する。

レンの低い声が響いた。

「……我ら影は外を抑える。殿下と正妃様を連れて突破せよ」

同時に、騎士団の精鋭が前に進み出る。
セルバン団長の声が低く響いた。

「ここからは我らが壁となる。
お前たちは、必ず王妃様を連れ出せ!」

鋼の鎧が一斉に鳴り、騎士たちが剣を抜く。
その光景に、胸が熱くなる。



――この戦いは、もう“私たちだけのもの”じゃない。
国の誇りを取り戻す戦いなのだ。


作戦続行

母を守りながら走るヨシュア。
私たちはその背を囲み、迫る敵兵を薙ぎ払う。

「ジェシカ! こっちだ!」
影の一人が隠し通路を指さす。

(……叔父の影、本当に頼りになる!)

こうして私たちは――ついに正妃を救い出したのだった。


一息つく

離宮から抜け出した後、私たちは叔父の館の一室に正妃を休ませた。
彼女は痩せていたが、気品を失ってはいない。
「……ヨシュア、あなたは大きくなりましたね」
ヨシュアは膝をつき、母の手を握った。
「母上……ご無事で……」
涙声に、母は微笑んで応えた。



王家の裏事情

「ヨシュア……この国を覆う影を話さねばなりません」
正妃は静かに口を開いた。

「王が薬に囚われ、政を執れぬ間に、側妃の一族が権力を握りました。
彼らは兄を立て、傭兵を雇い、民を恐怖で縛っているのです」

「……やっぱり、全部あの一族の仕業だったんだな」
グラントが低く呟き、
「武器庫も、街の爆破計画も……」
ハリスが眉をひそめる。

正妃は目を閉じ、言葉を続けた。
「本来ならば騎士団が王を守り、国を支えるはずでした。
ですが彼らは牢に閉じ込められ……。
あなたが騎士団を救ったと聞き、心から安堵しております」



騎士団の反撃

その頃、街では。
解放された騎士団が次々と動き出していた。

「この国の治安を取り戻せ!」
号令一下、剣が抜かれる。
訓練を積んだ騎士たちの連携は、烏合の衆の傭兵とは比べものにならない。

一人、二人と傭兵が地に伏し、あっという間に捕縛されていく。
「こ、こんなはずじゃ……!」
傭兵たちの顔から血の気が引く。

牢の中に逆に押し込まれていく傭兵たちを見て、街の人々は小さく歓声を上げた。
「騎士様だ! 本物の騎士様が戻ってきた!」



正妃の願い

騎士団の声が遠くから聞こえる中、正妃はヨシュアの頬に手を添えた。
「……あなたが旗を掲げるなら、国は立ち直ります。
けれど、側妃の一族は必ず牙をむきましょう。覚悟をお持ちなさい」

ヨシュアは大きく頷いた。
「……僕は逃げません。母上と、仲間と、国を守ります」

その決意に、私もまた頷いた。
「ええ。聖女の定年なんて言ってる場合じゃないわね」
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