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「聖女って、黙って祈るだけの便利機械ですか?」
しおりを挟む玉座の間に響き渡ったのは、甘ったるい――いや、もはや虫歯がズキズキしそうな声だった。
「だってぇ、フィーネさまは“聖女”でいらっしゃいますからぁ♡
祈りの塔でお祈りしていただければ、それがいっちばん国のためですの~」
……誰、このヌルっとした舌触りのしゃべり方。
声の主、男爵令嬢ジニーは、王子の腕にベッタリしなだれかかって笑っている。
その態度は、まるで「私がこの国の太陽♡」と言わんばかりの自信満々っぷり。
そして王子は、そんな彼女を慈愛の目で見つめたまま、こちらへと向き直る。
「フィーネ。お前は聖女だ。国の柱だ。……側妃にしてやってもいい。
塔にいてくれればそれでいい。祈りと儀式だけしていろ。
……ああ、立太子の式典の日は、参列を許してやろう」
⸻
……は?
ちょっと待って。今、何か一つでもマトモなこと言った?
いや全部おかしい。100点満点で満場一致のおかしさ。
この王子、“聖女”を何だと思ってんの?
ありがたい肩書きの置物? 宗教的インテリア?
便利な祈りロボット? しかも充電(ご飯・睡眠)なし?
転生前、日本で普通に暮らしてた私からすれば、
「聖女」なんて幻想の象徴じゃなくて──ただの都合のいい祈り要員だ。
お前ら、聖女を万能バフ装置か何かと勘違いしてない?
しかもラブラブお花畑全開で、女の前で他の女を側妃扱い宣言とか……
おまけに「祈りと儀式だけ」とか……
どんなに好意的に見積もっても、未来が地獄の予感しかしない。
……とはいえ。
ここでキレたら、死亡エンドが見える。
婚約破棄? 国追放? 塔から突き落とされる? ぜんぶあり得る。
だから私は、営業スマイル全開で言った。
「……ありがたき幸せにございます」
(──嘘だけどな)
⸻
そして翌日。
命じられるまま“祈りの塔”にやって来た私が目にしたのは……荒涼たる現実だった。
「……いや、何これ?」
何も、ない。
本当に何も、ない。
人はいない。ご飯もない。水もない。
侍女も召使いもいない。
おしゃれなカーテンもないし、寝台すらない。
あるのは、色あせた灰色のアッパッパ一枚と、
背中に冷たさが沁みる石の床、
そして中央にぼんやり光ってる“祈りの台座”とかいう、謎オブジェ。
「……ちょ、ちょっと待って! ご飯は? 夕飯は!? 風呂は!? 着替えは!?」
返事は、ない。
塔はしん……と静まり返り、空気すらやる気ゼロ。
窓から差す光だけが、妙に現実感を強調する。
「──って、はァ!? これが、聖女待遇!?」
即身仏修行かな?
いや、せめて即身仏はお供え物あったよね!?
日本の田舎の神棚ですら、毎日お米と水と果物は供えてもらえるのに!
ご飯炊いたらまず神棚にお供え、
お水も果物も、ちゃんと神様に差し上げてからいただくのが信仰ってやつでしょ?
「……お供えもないくせに、“一日三食抜きで黙って祈れ”って……
バチ当たりなのはそっちだろーーーがァァァ!!」
塔の裏手から、風が吹いた。
どこかで鳥がびっくりして飛び立つ音がした。
……ああ、静かって、こういうときすごくムカつく。
⸻
夜。
塔の裏の泉で、服を脱いで、手桶で水をかけながら私は呻いた。
「……冷た……ッ!! せめてぬるま湯……いやボディソープ……あああああああぁぁぁぁ!!」
石鹸なし。タオルなし。着替えなし。
水面に映る自分の顔は、聖女というより、野良暮らしの人だった。
髪もバサバサ、足は土まみれ。
あの玉座の間で「神秘の聖女」だの言ってたバカどもに見せてやりたい。
森の虫たちが、くすくす笑ってる気がした。
⸻
……もし本当に神様がいるなら、
この国は近いうちに──間違いなくバチが当たる。
◆王子視点
(これで聖女の厄介な口出しも終わりだ)
塔に入れたら、もう簡単には出られない。
祈ることしかできない環境なら、そのうち心も折れるだろう。
……さあ、これで俺とジニーの物語が始まる。
⸻
◆ジニー視点
(ふふ、これでフィーネは詰み)
王子は私を選び、聖女は塔で孤独に耐える――
そうよ、あの人はいつも余裕そうにしてたけど、
本当は寂しがりなんだから。
……さあ、王妃への階段を上がらせてもらうわ。
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