『風の魔女がステップをふめば、世界は笑う。』追放令嬢のスローライフ、復讐は、計画的に

夢窓(ゆめまど)

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婚約破棄で、森に飛ばされました。

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──ジュエル・アンナ。
「婚約は、破棄させてもらう。」

その一言で、世界が軋む音がした。

絢爛な王宮の大広間。
百の燭台に灯る光が、まるで私だけを照らしているかのように眩しかった。
けれど、誰も私を見てはいなかった。

壇上の玉座には王と王妃。
その隣に、私の婚約者――王子エルヴァン。
そして彼のすぐそばには、白い衣をまとった少女が立っている。

新しい聖女として神託により選ばれたという、ダーナ。
琥珀色の髪を揺らし、儚げに微笑む姿は、まるで絵画のようだった。

「新たな聖女としての資質、そして彼女との絆こそが、これからの王国にふさわしい」
そう宣告した王子の声は、冷たく透きとおっていた。

臣下たちは沈黙し、
侍女たちは息をひそめ、
遠くで誰かの扇子が落ちる音がした。

嘘よ。
ダーナは祈ることも癒すこともできない。
けれど彼女は美しく、涙を浮かべて王子を見上げた。
「民のために、彼のそばにいたいのです」と。

その言葉に、エルヴァンは穏やかに微笑んだ。
あの笑みを、私は何百回も見てきたのに――
今日ほど遠く感じたことはない。

私は王子の隣に立つはずだった。
国と民のために祈り、支え、尽くしてきた。
それが、聖女としての役目だった。

けれど今、私の名を呼ぶ声は誰一人いない。
ただ、神殿の外で吹く風だけが、私の頬を撫でていた

そして今日、私は公の場で――
正式に“婚約破棄”を突きつけられた。

それだけでも、息が詰まるほどの屈辱だった。
けれど、地獄はそれで終わらなかった。

「わたし……やっぱり、やる……」

壇上で、白い衣の少女――ダーナが小さく呟いた。
ふわふわと笑いながら、王子エルヴァンの袖を掴み、
その指先から淡い光が滲み出す。

「この場で……皆に、神の奇跡を見せるの……!」

王妃が立ち上がり、侍従が慌てて駆け寄る。
だが、もう遅かった。

空気が変わった。
重く、湿った風が流れ込み、
燭台の火が一斉にしゅうっと音を立てて縮む。

魔力が逆流している――!?

聖女として長く神殿で祈ってきた私は、
その“嫌な気配”を誰よりも早く察した。
祈りの力を媒介せずに神力を解放すれば、
それは“神の奇跡”ではなく、
**ただの暴走魔力(カオス)**になる。

「ダーナ、やめて! その光、制御できてない!」

私の声が響いた。
だが、彼女は止まらなかった。

「だいじょうぶ……神がわたしを――」

言い終わる前に、
眩い光が弾けた。

爆ぜるような轟音。
王座の幕が風で裂け、
大理石の床に亀裂が走る。
熱と冷気が入り混じり、空間そのものがねじれた。

「ちょ、え? え、待って待って!?!?」

次の瞬間、足元が消えた。
視界が回転し、重力の方向が分からなくなる。

王子の声が遠くで響いた気がした。
でも、もう届かない。

床がなく、空もなく、ただ光の渦の中――
私の身体は、風と一緒に引きずり込まれていった。

身体がふわりと浮いた。
視界がぐるりと回り、世界が裏返る。

床がない。
空もない。
ただ、光と風の渦だけがあった。

悲鳴が遠ざかり、音が消えていく。
落ちているのか、浮かんでいるのかさえ分からない。

最後に見えたのは、
王子が誰かの名を呼ぶ口の動き――
でも、その声は、もう私には届かなかった。


──ドサッ。

「……ッいたぁ……」

葉っぱの匂い。湿った空気。鳥の声。

私は、森の中にいた。
木々が風に揺れて、どこかで水音がする。

王宮の玉座の間は? 王子は? ダーナは?
なにより、私、どうして森の真ん中にいるの!?

魔力の暴走。
しかも、他人の暴走で吹っ飛ばされたの、私!?

しかも靴、片方ない。

「ふざけんなダーナ!!」

叫んでも返事はない。
婚約破棄と無実の転移。ぶっ飛ばし!
これはもう――笑ってる場合じゃない。
 

──とりあえず、靴はない。足は痛い。けど、死んではいない。

そんなことをぼんやり考えていたら、いつの間にか、目の前に人影が立っていた。
ローブをまとった、長い銀髪の女性。杖を片手に、じいっと私を見つめている。

「あなたが……ダーナの代わり、なのかしら?」

え? 誰? っていうかその言い方、なにかの後任ですか私?

「いえ、違います! 私、公爵令嬢でして──聖女候補だったんですけど」

そこまで言って、思い出した。

「あ……ああ、そうだ。王宮で婚約破棄されたんでした、私」

そして。

「王子に『お前なんか、婚約者じゃないから出てけー!』って言われて、
そのあと、ポーイって魔法で飛ばされて、イマココなんです!!」

やけっぱちで両手を広げてみせると、魔法使いの女性は、目をぱちくりさせた。

「……なるほど。王子ね。やるじゃない、あの魔女。たぶらかしたのね」

「でしょ!? あれ、聖女語ったって洒落にならないですよ!!」

私は完全に被害者である。
王子が見事にダーナに騙されたことは、もはや疑いようがない。

魔法使いは、ため息をついた。

「この森の“魔女”がいないって、そういうことなのよ。
あーあ、また人手不足だわ……! あのおババめ……!」



「オババ? ダーナは少女でしたけど?」

そんな疑問を飲み込む前に、魔法使いは肩をすくめて言った。

「魔女ってのはね、魔法のひとつで、百年くらい生きてても簡単に化けるのよ」

え、百……!?

「若くみえるのは、魔法よ。もうとっくに百超えてるわ、ダーナ」

そのとき初めて、彼女の瞳が底知れない光を湛えていることに気づいた。
あ、やばい。これ、本物だ。

そして、私は思った。

──あれ? 私、まさかこれから森で“魔女の仕事”させられるパターンじゃないよね……?



新人魔女、仮採用される(※無断で)

「……仕方ないから、あんたに魔法を教えてあげるわ」
魔法使いの女性が、肩をすくめて言った。

「えっ?」

「この森、今ね、魔女が不在なのよ」
指でくるくる空を描きながら、彼女はあっけらかんと言う。

「ダーナが勝手にいなくなっちゃって、誰も管理してないの。
森の精霊たちも困ってるし――まあ、たまには人手を入れてもいいかなって」

そして、ため息とともに指を鳴らす。
空中にふわりと浮かんだのは、黒いローブと猫耳のついたとんがり帽子。

「食事と宿は提供する。
かわいい魔女コスプレと、黒猫もつける。
だからこの森の管理、お願いできる?」

「えっ、待遇よすぎません!? ていうかコスプレ!?」

帽子がふわっと降りてきて、私の頭にぴたりと収まった。かわいい魔女の制服。フリフリ

「にゃあ」

振り返ると、小さな黒猫が足元に座っている。
つやつやした毛並みに、金の瞳。ぴしっと座って、こっちを見上げていた。

「……ようこそ、森の新人魔女さん」

「いや、違うし!? まだ研修も受けてないし!?」

「毎日おいしいおやつつけるわよ?」

「ちょっとだけ頑張ってみようかなって気持ちになるので誘惑やめてください!?」


森の魔女、基礎は炊事と掃除(※ほんとに)

「魔法の基礎はね、掃除と料理と浄化よ」
森の魔法使い、リサンドラ――前任のダーナの師匠らしい人が、腰に手を当てて言った。

「……あの、魔法ってもっとこう、雷を落とすとか、空を飛ぶとかじゃ……?」

「現実を見なさい! 森を守るにはまず、掃除と炊事!
それができて一人前の魔女よ!」

正直、納得いかない。
でも、断れる空気でもないので、私は箒と鍋を手に取った。

けれど――

「……あれ? なんか……スルスル入ってくるんですけど、魔法」

「……は?」

指先に意識を向けた瞬間、小さな光がふわっと生まれた。
葉に積もっていた埃が、まるで意思を持ったかのように空中へ舞い上がり、浄化されていく。

鍋の中も、火加減も塩梅も何もしていないのに、いい香りが立ち上り、とろみまで自然についていた。

「……やっぱり。あんた、絶対、魔力量が桁違い。
聖女候補も伊達じゃないわね」

「へ……?」

「そうだ、あなたについてるこの魔法陣、取って!」

「え、取るってどうやって――」

カシーン!!大きな音がする。

「なに、今の音!?」

「大丈夫、大丈夫!」
リサンドラは、爽やかに親指を立ててニッコリした。

「これで魔力量と知識量、両方ちょっと増やしておいたわ。
もう立派にこの森を守れるから!」

「増やしておいた!? そんな簡単に!?」

「細かいことは気にしないの。大事なのは“働く意思”!」

「えええっ!? 魔女って、スカウトだったの!?!?」



封印されし聖女魔法(本人知らない)

「……ふぅ。やっぱりね」
リサンドラがため息をつく。

「え、なにか問題ありました?」

「聖女の魔法と、魔女の魔法って同時には使えないのよ。
神の加護と自然の力は相性最悪だからね。
だから――」

彼女は私の額にそっと手を当てた。

「聖女の魔法、封印しておいたわ」

「え、えええ!? そんな重要なことをさらっと!?」

「大丈夫、大丈夫。誰も気づかないわよ、たぶん」

「たぶん!?」

リサンドラは、肩をすくめながら言葉を続けた。

「どっちも持ってると、魔法の覚えが悪くなるの。
あなたが魔法をうまく使えなかったの、理由それだしね。
――それにしても王子、見る目ないわぁ」

「……は?」

「だって、あの“聖女”名乗ってた魔女、たしか百歳超えてたわよ?」

「百っ……!?!?」

「そうよ。顔が若作りだから誰も気づかないけど、
あれ、アンチエイジング系の高等魔法。
男ってほんと、光るエフェクトと涙に弱いわよね」

「そんなギラついた理由で婚約破棄された私、気の毒すぎません!?」


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