王太子に婚約破棄されたけど、私は皇女。幸せになるのは私です。

夢窓(ゆめまど)

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妖精姫は皇帝国の王女です。

「購買部にて、爆モテする男と、横で見てる婿殿」

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帝国宮廷の購買部――
政務官用の調度品や贈答品がずらりと並ぶ、知る人ぞ知る“男たちの戦場”。

その扉が開き、現れたのはギデオンとハリスだった。

「いらっしゃいませ、ギデオン様。今日は……まあ! 上司と一緒ですのね」

店員たちがぱっと顔を輝かせる。

「新作、入ってますわ。どうぞ、ごゆっくり」

「……俺、なんか場違いな気がしてきた」

「慣れですよ」

ギデオンはいつも通り、微動だにしない。

「今まで贈り物ってどうしてたんだ?」

ハリスの問いに、ギデオンは簡潔に答える。

「出入りの商会に“彼女の好きなものを買うように”とだけ伝えていました」

「……それ、よくないと思ったから今日来たんだけどな……」



「ギデオン様、少しご相談よろしいでしょうか!」

声をかけてきたのは、まだ若い文官。
手に小箱を持って、やや緊張した様子。

「婚約者に、贈り物を……」

「この前はリボンでしたね。では、今回は香水を」

ギデオンは手慣れた様子で棚から1本取り上げる。

「ラベンダー系です。清楚で落ち着いた印象。婚約者様は紫の瞳でしたね? よく合いますよ」

「……ありがとうございます! それにします!」



そこから、事態は雪崩のように――加速する。

「ギデオン様! 僕も!」
「彼女の髪、琥珀色なんですが……」
「彼、最近忙しくて冷たいって言われて……」

「……この髪飾りはどうでしょう? 日光に当たると輝く細工です」
「でしたら“温かみのある紅茶セット”を贈っては。心が和みます」
「彼女の名前に“風”の字が入ってましたね。こちらの扇は?」

――なぜ、彼女たちの髪の色、目の色、性格、贈り物の傾向まで完璧に記憶しているのか。

横にいたハリスがつぶやく。

「なんで、みんなの婚約者の情報まで把握してるんだ……?」

「……慣れですよ」

ギデオンは、あくまでさらりと答える。



「ハリス様、あちらの棚のオルゴールなどいかがです?」

「……オルゴール?」

ギデオンが指差したのは、手のひらサイズの美しい細工箱。

「“トロイメライ”。穏やかで夢のような旋律。リリベッタ様に似合います。花と一緒に添えるとよいかと」

「……それでいこう。ありがとう」

ハリスがそれを手に取り、包装をお願いしている間にも――

「ギデオン様、アドバイスを……!」
「順番にお願いします」
「俺の彼女、今年の流行に敏感で……!」
「こちらのレターセットがよろしいかと。印刷の花模様が今年の流行です」

どんだけ有能なのだ……。

もはや**“動くプレゼントカタログ”**である。



帰り道。

「なあギデオン、お前……どこまで本気でやってるんだ?」

「贈り物は戦略です。思いやりと観察、そして記憶。政務と変わりません」

「……でも、お前の彼女には?」

ギデオンは静かに、しかし少しだけ、声を和らげて言った。

「彼女には……“全部”を知ってほしいんです。
だから、選ぶ時も、渡す時も、全部が私の言葉です」

ハリスは、無言で頷いた。

“有能”ってのは、こういう人間のことを言うんだな――
横で見ていて、少しだけ身が引き締まる思いがした。

帝国政庁、地下の人事記録室。
ハリスがふと開いた異動候補者リストに、違和感があった。

「……こいつ、実績はあるのに、なんで外されたんだ?」

「何かご不明な点が?」

突然背後から現れる黒髪の男。
振り返れば――ギデオン。

「……いや、お前、この間購買部で“彼女に何も贈らない”って男にアドバイスしてなかったか?」

「ええ、しましたよ。“まず気持ちを伝えましょう”と」

「で、今日、異動候補から外されてるよな」

「はい。そうなると思ってました」

「……思ってた?」

ギデオンは静かに手帳を取り出す。

「私は、贈り物相談を受けながら部下の私生活を軽く調査しています。
婚約者がいるのに他の女性と頻繁に出歩く者。
贈り物ひとつせず、“気持ちは伝わってると思う”で済ませる者。
浮気相手が複数いる者――すべて、“王太子案件”で学びましたので」

ハリス、絶句。

「……つまり、贈り物相談は情報収集の場?」

「ええ、非常に正直な本音が出るんです。“何を贈ればいいですか?”より、“贈る必要あるんですか?”という男は、信用に値しません」

「お前、さらっと怖いこと言うな」



ギデオンは書類をめくりながら言う。

「……ちなみに、このポストに推されていた人物――伯爵家の次男ですが」

「……ああ、いたな。実力派で話題の」

「現在、妻のほかに愛人が二人、恋人が一人おります。情報源は各所の購買部と……当人からの相談内容」

「自爆してるじゃないか……!」

「それに対し、こちらの候補。
若干地味ですが、“妻一筋・五年連続同じ香水を贈り続けている記録”あり。
職務中の集中力、対応の丁寧さ、問題なし。――信頼に値します」

「そんなところまで!?」

「政は人。人を見るには、“誰を、どう思っているか”が最も正確な判断材料です。
愛に不誠実な者は、国にも不誠実になる」

ハリスは、しばらく黙ってギデオンを見た。

「……そういえば、リリィのために選んだオルゴール。
あのときお前が“それがよい”って勧めてくれたの、試されてた?」

「ええ。“本気で選ぶか”どうか」

「お前って、ほんっと……!」

「ありがとうございます。誠実な男の評価は高いですよ」

「……いや、褒めてんのかそれ……?」



ハリスが戻ると、リリベッタが笑いながら言った。

「ギデオンって、“国を動かす指先が、恋も査察してる”って感じよね」

「……お前の親友と婚約してるのに、なんで俺よりモテてるんだろうな……」

「それは、“察知能力と記憶力”というギデオンワールドの副産物だからよ」

「俺も……リリィにちゃんと贈り物しようかな」

「ふふ、じゃあ“今度のお茶会”に向けて、期待してもいい?」

「……はい、全力で参ります」

リリベッタの笑顔が咲き、ギデオンの帳簿のページに
「ハリス・エヴァレット=評価A+」の記録が静かに追加された。


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