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妖精姫は皇帝国の王女です。
「購買部にて、爆モテする男と、横で見てる婿殿」
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帝国宮廷の購買部――
政務官用の調度品や贈答品がずらりと並ぶ、知る人ぞ知る“男たちの戦場”。
その扉が開き、現れたのはギデオンとハリスだった。
「いらっしゃいませ、ギデオン様。今日は……まあ! 上司と一緒ですのね」
店員たちがぱっと顔を輝かせる。
「新作、入ってますわ。どうぞ、ごゆっくり」
「……俺、なんか場違いな気がしてきた」
「慣れですよ」
ギデオンはいつも通り、微動だにしない。
「今まで贈り物ってどうしてたんだ?」
ハリスの問いに、ギデオンは簡潔に答える。
「出入りの商会に“彼女の好きなものを買うように”とだけ伝えていました」
「……それ、よくないと思ったから今日来たんだけどな……」
◆
「ギデオン様、少しご相談よろしいでしょうか!」
声をかけてきたのは、まだ若い文官。
手に小箱を持って、やや緊張した様子。
「婚約者に、贈り物を……」
「この前はリボンでしたね。では、今回は香水を」
ギデオンは手慣れた様子で棚から1本取り上げる。
「ラベンダー系です。清楚で落ち着いた印象。婚約者様は紫の瞳でしたね? よく合いますよ」
「……ありがとうございます! それにします!」
◆
そこから、事態は雪崩のように――加速する。
「ギデオン様! 僕も!」
「彼女の髪、琥珀色なんですが……」
「彼、最近忙しくて冷たいって言われて……」
「……この髪飾りはどうでしょう? 日光に当たると輝く細工です」
「でしたら“温かみのある紅茶セット”を贈っては。心が和みます」
「彼女の名前に“風”の字が入ってましたね。こちらの扇は?」
――なぜ、彼女たちの髪の色、目の色、性格、贈り物の傾向まで完璧に記憶しているのか。
横にいたハリスがつぶやく。
「なんで、みんなの婚約者の情報まで把握してるんだ……?」
「……慣れですよ」
ギデオンは、あくまでさらりと答える。
◆
「ハリス様、あちらの棚のオルゴールなどいかがです?」
「……オルゴール?」
ギデオンが指差したのは、手のひらサイズの美しい細工箱。
「“トロイメライ”。穏やかで夢のような旋律。リリベッタ様に似合います。花と一緒に添えるとよいかと」
「……それでいこう。ありがとう」
ハリスがそれを手に取り、包装をお願いしている間にも――
「ギデオン様、アドバイスを……!」
「順番にお願いします」
「俺の彼女、今年の流行に敏感で……!」
「こちらのレターセットがよろしいかと。印刷の花模様が今年の流行です」
どんだけ有能なのだ……。
もはや**“動くプレゼントカタログ”**である。
◆
帰り道。
「なあギデオン、お前……どこまで本気でやってるんだ?」
「贈り物は戦略です。思いやりと観察、そして記憶。政務と変わりません」
「……でも、お前の彼女には?」
ギデオンは静かに、しかし少しだけ、声を和らげて言った。
「彼女には……“全部”を知ってほしいんです。
だから、選ぶ時も、渡す時も、全部が私の言葉です」
ハリスは、無言で頷いた。
“有能”ってのは、こういう人間のことを言うんだな――
横で見ていて、少しだけ身が引き締まる思いがした。
帝国政庁、地下の人事記録室。
ハリスがふと開いた異動候補者リストに、違和感があった。
「……こいつ、実績はあるのに、なんで外されたんだ?」
「何かご不明な点が?」
突然背後から現れる黒髪の男。
振り返れば――ギデオン。
「……いや、お前、この間購買部で“彼女に何も贈らない”って男にアドバイスしてなかったか?」
「ええ、しましたよ。“まず気持ちを伝えましょう”と」
「で、今日、異動候補から外されてるよな」
「はい。そうなると思ってました」
「……思ってた?」
ギデオンは静かに手帳を取り出す。
「私は、贈り物相談を受けながら部下の私生活を軽く調査しています。
婚約者がいるのに他の女性と頻繁に出歩く者。
贈り物ひとつせず、“気持ちは伝わってると思う”で済ませる者。
浮気相手が複数いる者――すべて、“王太子案件”で学びましたので」
ハリス、絶句。
「……つまり、贈り物相談は情報収集の場?」
「ええ、非常に正直な本音が出るんです。“何を贈ればいいですか?”より、“贈る必要あるんですか?”という男は、信用に値しません」
「お前、さらっと怖いこと言うな」
◆
ギデオンは書類をめくりながら言う。
「……ちなみに、このポストに推されていた人物――伯爵家の次男ですが」
「……ああ、いたな。実力派で話題の」
「現在、妻のほかに愛人が二人、恋人が一人おります。情報源は各所の購買部と……当人からの相談内容」
「自爆してるじゃないか……!」
「それに対し、こちらの候補。
若干地味ですが、“妻一筋・五年連続同じ香水を贈り続けている記録”あり。
職務中の集中力、対応の丁寧さ、問題なし。――信頼に値します」
「そんなところまで!?」
「政は人。人を見るには、“誰を、どう思っているか”が最も正確な判断材料です。
愛に不誠実な者は、国にも不誠実になる」
ハリスは、しばらく黙ってギデオンを見た。
「……そういえば、リリィのために選んだオルゴール。
あのときお前が“それがよい”って勧めてくれたの、試されてた?」
「ええ。“本気で選ぶか”どうか」
「お前って、ほんっと……!」
「ありがとうございます。誠実な男の評価は高いですよ」
「……いや、褒めてんのかそれ……?」
◆
ハリスが戻ると、リリベッタが笑いながら言った。
「ギデオンって、“国を動かす指先が、恋も査察してる”って感じよね」
「……お前の親友と婚約してるのに、なんで俺よりモテてるんだろうな……」
「それは、“察知能力と記憶力”というギデオンワールドの副産物だからよ」
「俺も……リリィにちゃんと贈り物しようかな」
「ふふ、じゃあ“今度のお茶会”に向けて、期待してもいい?」
「……はい、全力で参ります」
リリベッタの笑顔が咲き、ギデオンの帳簿のページに
「ハリス・エヴァレット=評価A+」の記録が静かに追加された。
政務官用の調度品や贈答品がずらりと並ぶ、知る人ぞ知る“男たちの戦場”。
その扉が開き、現れたのはギデオンとハリスだった。
「いらっしゃいませ、ギデオン様。今日は……まあ! 上司と一緒ですのね」
店員たちがぱっと顔を輝かせる。
「新作、入ってますわ。どうぞ、ごゆっくり」
「……俺、なんか場違いな気がしてきた」
「慣れですよ」
ギデオンはいつも通り、微動だにしない。
「今まで贈り物ってどうしてたんだ?」
ハリスの問いに、ギデオンは簡潔に答える。
「出入りの商会に“彼女の好きなものを買うように”とだけ伝えていました」
「……それ、よくないと思ったから今日来たんだけどな……」
◆
「ギデオン様、少しご相談よろしいでしょうか!」
声をかけてきたのは、まだ若い文官。
手に小箱を持って、やや緊張した様子。
「婚約者に、贈り物を……」
「この前はリボンでしたね。では、今回は香水を」
ギデオンは手慣れた様子で棚から1本取り上げる。
「ラベンダー系です。清楚で落ち着いた印象。婚約者様は紫の瞳でしたね? よく合いますよ」
「……ありがとうございます! それにします!」
◆
そこから、事態は雪崩のように――加速する。
「ギデオン様! 僕も!」
「彼女の髪、琥珀色なんですが……」
「彼、最近忙しくて冷たいって言われて……」
「……この髪飾りはどうでしょう? 日光に当たると輝く細工です」
「でしたら“温かみのある紅茶セット”を贈っては。心が和みます」
「彼女の名前に“風”の字が入ってましたね。こちらの扇は?」
――なぜ、彼女たちの髪の色、目の色、性格、贈り物の傾向まで完璧に記憶しているのか。
横にいたハリスがつぶやく。
「なんで、みんなの婚約者の情報まで把握してるんだ……?」
「……慣れですよ」
ギデオンは、あくまでさらりと答える。
◆
「ハリス様、あちらの棚のオルゴールなどいかがです?」
「……オルゴール?」
ギデオンが指差したのは、手のひらサイズの美しい細工箱。
「“トロイメライ”。穏やかで夢のような旋律。リリベッタ様に似合います。花と一緒に添えるとよいかと」
「……それでいこう。ありがとう」
ハリスがそれを手に取り、包装をお願いしている間にも――
「ギデオン様、アドバイスを……!」
「順番にお願いします」
「俺の彼女、今年の流行に敏感で……!」
「こちらのレターセットがよろしいかと。印刷の花模様が今年の流行です」
どんだけ有能なのだ……。
もはや**“動くプレゼントカタログ”**である。
◆
帰り道。
「なあギデオン、お前……どこまで本気でやってるんだ?」
「贈り物は戦略です。思いやりと観察、そして記憶。政務と変わりません」
「……でも、お前の彼女には?」
ギデオンは静かに、しかし少しだけ、声を和らげて言った。
「彼女には……“全部”を知ってほしいんです。
だから、選ぶ時も、渡す時も、全部が私の言葉です」
ハリスは、無言で頷いた。
“有能”ってのは、こういう人間のことを言うんだな――
横で見ていて、少しだけ身が引き締まる思いがした。
帝国政庁、地下の人事記録室。
ハリスがふと開いた異動候補者リストに、違和感があった。
「……こいつ、実績はあるのに、なんで外されたんだ?」
「何かご不明な点が?」
突然背後から現れる黒髪の男。
振り返れば――ギデオン。
「……いや、お前、この間購買部で“彼女に何も贈らない”って男にアドバイスしてなかったか?」
「ええ、しましたよ。“まず気持ちを伝えましょう”と」
「で、今日、異動候補から外されてるよな」
「はい。そうなると思ってました」
「……思ってた?」
ギデオンは静かに手帳を取り出す。
「私は、贈り物相談を受けながら部下の私生活を軽く調査しています。
婚約者がいるのに他の女性と頻繁に出歩く者。
贈り物ひとつせず、“気持ちは伝わってると思う”で済ませる者。
浮気相手が複数いる者――すべて、“王太子案件”で学びましたので」
ハリス、絶句。
「……つまり、贈り物相談は情報収集の場?」
「ええ、非常に正直な本音が出るんです。“何を贈ればいいですか?”より、“贈る必要あるんですか?”という男は、信用に値しません」
「お前、さらっと怖いこと言うな」
◆
ギデオンは書類をめくりながら言う。
「……ちなみに、このポストに推されていた人物――伯爵家の次男ですが」
「……ああ、いたな。実力派で話題の」
「現在、妻のほかに愛人が二人、恋人が一人おります。情報源は各所の購買部と……当人からの相談内容」
「自爆してるじゃないか……!」
「それに対し、こちらの候補。
若干地味ですが、“妻一筋・五年連続同じ香水を贈り続けている記録”あり。
職務中の集中力、対応の丁寧さ、問題なし。――信頼に値します」
「そんなところまで!?」
「政は人。人を見るには、“誰を、どう思っているか”が最も正確な判断材料です。
愛に不誠実な者は、国にも不誠実になる」
ハリスは、しばらく黙ってギデオンを見た。
「……そういえば、リリィのために選んだオルゴール。
あのときお前が“それがよい”って勧めてくれたの、試されてた?」
「ええ。“本気で選ぶか”どうか」
「お前って、ほんっと……!」
「ありがとうございます。誠実な男の評価は高いですよ」
「……いや、褒めてんのかそれ……?」
◆
ハリスが戻ると、リリベッタが笑いながら言った。
「ギデオンって、“国を動かす指先が、恋も査察してる”って感じよね」
「……お前の親友と婚約してるのに、なんで俺よりモテてるんだろうな……」
「それは、“察知能力と記憶力”というギデオンワールドの副産物だからよ」
「俺も……リリィにちゃんと贈り物しようかな」
「ふふ、じゃあ“今度のお茶会”に向けて、期待してもいい?」
「……はい、全力で参ります」
リリベッタの笑顔が咲き、ギデオンの帳簿のページに
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