王太子に婚約破棄されたけど、私は皇女。幸せになるのは私です。

夢窓(ゆめまど)

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妖精姫は皇帝国の王女です。

サプライズの主導権、今日はわたしが主役

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「リリベッタちゃん、相談があるの……」

その日の放課後、マルガリータがこっそり声をひそめてやってきた。

「わたし、ギデオンに“なにか”してあげたいの。でも、いつも彼が全部やっちゃうから……わたし、何も返せてない気がして」

リリベッタはにっこりと微笑んだ。

「じゃあ、逆サプライズを仕掛けましょう。
ギデオン様って、計算と予測の塊みたいな人だから、“予定外”が一番効くのよ」

「よ、予定外……っ!」

「それにね……時々は“飴とムチ”、うまく使うの、おススメよ?」

「……飴とムチ……!」

マルガリータの目に、何かが宿った。



◆ 翌朝、ギデオンの部屋の前

いつものように、5時55分。
マルガリータを起こすために部屋に向かったギデオンは、扉の前で違和感を覚えた。

(……静かだ)

ノックしようと手を伸ばした、その瞬間――
がちゃ、と扉が開く。
「……おはよう、ギデオン」

マルガリータが、起きてる。すでに服を着て、完璧な髪型、ふわっと香るラベンダーの香り。

「……起きて……おられたんですか?」
「ふふ、今日はね、わたしが用意したの」

彼女は笑いながら、ギデオンの手を取る。
「こっち、ついてきて」

彼が誘導されるまま、食堂へ入ると――

「朝ごはん、作ったの。……うまくできてるといいけど」

用意されていたのは、温かいスープとトースト、季節の果物のコンポート。
テーブルの中央には、シンプルな手編みのコースターが二枚。

「……マルガリータ様」

「今日はね、あなたに“いってらっしゃい”って言いたかったの。……わたしの言葉で」

頬に、そっとキス。

「……いってらっしゃい、ギデオン」

ギデオンの時間が、一瞬止まった。

「……予想外です」
「でしょ?」

「……可愛すぎます」
「でしょ!」

ギデオンは顔を覆いながら、静かに呟いた。

「……この幸福値……午後まで保つ自信がありません……」

「ふふっ、じゃあ今夜は、もっと甘いお帰りなさい、してあげるね」



そして政庁で。

「ギデオンさん、今日なんか……機嫌いいですね?」

「……いつも通りですよ」

「いや、資料の角が揃いすぎててちょっと怖いです……」



帰り際、リリベッタがマルガリータに耳打ちする。

「……で? 飴とムチ、どっちだった?」

「えっと……飴? でも……あれ、次にムチ来るの?」

「お楽しみにね♡」


◆ギデオンの嘆き

ギデオンは悩んでいた。
いつも自信いっぱいなのに、
マルガリータのことでは、いつも間違ってしまう。


明日は自分が結婚して、
明後日は主人のハリスが結婚して、
それからはマルガリータと一緒に
ハリス氏の新婚旅行についていく——

マルガリータを、ないがしろにしてしまわないか?

俺は夫として、
従者として、
その両方の役目を果たせるのか。

◆マルガリータに、プロポーズもしていない。
花を贈る暇すら、なかった。

体が四つくらい欲しい!!
マルガリータァァァ!!!


強くて不器用な男が、
愛の前でだけ、迷子になる。
それが、ギデオンという男だった。

◆ギデオンの気づき

マルガリータがしてくれたように、
サプライズで愛情を示す——
そんな時間が、ギデオンにはなかった。

愛情とは、たっぷりの時間と、
心の余裕。
そんな当たり前のことを、
剣と任務に生きてきたギデオンは、
知らなかった。

いや、正確には——頭でわかっていても、

心で知ってはいたが、本当には、わかっていなかった。

マルガリータはいつも、
ギデオンが気づかないうちに、
小さな愛を積み重ねてくれていた。

それなのに俺は、
追いかけることしかできない。
守ることしかできない。
本当の愛し方を、まだ知らない。


強さとは剣の腕ではなく、
誰かのために時間をつくれること——
そう知ったギデオンは、
少しだけ、静かになった。

そんなものが要ると、知ったギデオンであった。

◆花婿の朝

日付けが変わった。
ついに、今日になってしまった。

朝から、すべてが動き出す。
着替え、
身支度、
人が来て、
声が飛んで、
時間が、矢のように過ぎていく。

剣を握れば落ち着くのに、
戦場では冷静なのに、
今日のギデオンは、違った。

手が、少し震えている。
心が、妙に騒がしい。
いつもの自信は——
どこへ行った?

そして、夜には花婿になる。

うわあーーー!!!
こんなに焦ったことは、ない!!!

百の敵より、
一人の花嫁が、
ギデオンを追い詰めた。
それでも彼は、

マルガリータ、待っていてくれ——

◆祭壇に立つ男

美しく飾られた教会。
でも、ギデオンの目には、
何も入らなかった。

頭の中が、
真っ白だ。

祭壇のそばに立つ。
横には、ハリス氏。花婿の付き添い
頼もしい立会人が、静かに並ぶ。

音楽が、鳴り始めた。

扉が、開く。

マルガリータが——
父親に寄り添い、にこにこしながら、
リリベッタや友達を連れて、
こちらへ、歩いてくる。

うわあああああ!!!

なんて、かわいいんだ。
なんて、美しいんだ。
マルガリータが、
世界で一番、輝いている。

剣も、
任務も、
自信も、
全部どこかへ飛んでいった。

ギデオンの胸に残ったのは、
ただ一つ——
この人を、幸せにしたい。

百戦錬磨の騎士が、
花嫁一人に、完全敗北した。
これが、
人生最大のピンチ——
いや、

幸せである。

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