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条件付き結婚案
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──庭園のティーテーブル。
二杯目の紅茶が注がれる中、アベルは意を決したように口を開いた。
⸻
アベル
「キャスリン。……正式な婚姻を急ぐつもりはない」
キャスリン
「まあ。王太子殿下にしては珍しいお言葉ですわね」
⸻
アベルは真剣な表情で続けた。
アベル
「だが、国外からの縁談攻勢は激しさを増すばかりだ。
君が望んでいないのは承知しているが──“王太子妃候補”という立場にあれば、しばらくは他国のしつこい干渉を避けられる」
キャスリン
「つまり、“条件付きの結婚案”ということですのね?」
アベル
「そうだ。
当面は形式上、私の妃として王宮で暮らしてほしい。
だが、君の自由は奪わない。本も紅茶も、静かな時間も……すべて約束する」
⸻
キャスリンはカップを傾け、紅茶の香りを楽しみながら考え込む。
キャスリン
「……なるほど。他国から逃れるには、王太子妃という立場は確かに都合がいい。
けれども──王宮での暮らし、私の本棚やティーセットを持ち込めるのかしら?」
⸻
アベルは思わず苦笑し、すぐに答える。
アベル
「持ち込んでくれ。むしろ私の執務室の隣に書庫を作ろう。
……君が落ち着ける環境を整える。それが条件を受けてもらうための、最低限の務めだ」
⸻
キャスリンは扇子で口元を隠し、目を細めた。
キャスリン
「……殿下。
本当に“邪魔をしない”と誓えるのなら、考えてあげなくもありませんわ」
(王宮初日・サファイアとの出会い)
──王宮に入った初日。
キャスリンはまだ落ち着かぬ心を抱きながら、庭園の東屋で紅茶を味わっていた。
そこに、小さな足音が駆けてくる。
⸻
少女
「──あっ!」
ふわふわの金髪、澄んだ青い瞳。
二歳ほどの少女が、キャスリンのスカートにしがみつく。
少女
「おねえさま……お姫様みたい!」
⸻
キャスリンは思わず目を細め、しゃがみ込んだ。
キャスリン
「まあ、かわいい子ね。こんなところでどうしたの?」
少女
「お母さまが……ここで待っててって。だから待ってるの」
⸻
少女の名を問うと、無邪気に答えが返ってくる。
少女
「わたし、サファイアっていうの。青いおめめだから、お母さまがそう呼んだの」
その瞬間、キャスリンの胸に冷たい衝撃が走った。
王族の証──青い瞳。
⸻
キャスリン(心の声)
「この子……王族の血を引いている? 金髪に青い瞳……まさか……」
護衛の騎士が追いつき、息を切らせて説明する。
護衛
「お嬢様、その子は……カナタ殿下と、ルビー嬢の娘でございます」
⸻
キャスリンの手がカップの取っ手で止まる。
キャスリン(心の声)
「2歳……? 彼らが出会って、すぐの子?
……信じられない。
つまり、兄王子の廃嫡は必然。
ルビーは“最初からみんなを、裏切っていた”のね」
⸻
サファイアはにこにこと笑い、キャスリンの指を掴む。
サファイア
「おねえさま、ここにいてね。わたし、おねえさま好き!」
キャスリンは一瞬だけ表情を和らげ、少女の髪を撫でる。
しかし瞳の奥は鋭く光っていた。
キャスリン
「……ええ。きっと、ここにいるわ」
(サファイアの存在を報告)
──その日の夕刻、王宮内の小会議室。
アベルは書類に目を通していたが、キャスリンが入ってくるとすぐに顔を上げた。
⸻
アベル
「どうした、キャスリン。初日の王宮は落ち着けたか?」
キャスリン
「ええ、紅茶も本も用意されていたので、思ったより快適でしたわ。
──ただし、ひとつ、とんでもないものを見てしまいましたけれど」
アベルの眉がぴくりと動く。
⸻
キャスリン
「庭園で、かわいらしい女の子に出会いましたの。
金髪に、澄んだ青い瞳。名前は“サファイア”。……二歳くらいでしたわ」
アベル
「……っ!」
⸻
キャスリンは淡々と続ける。
キャスリン
「護衛の騎士が教えてくれました。あの子は──カナタ殿下とルビー嬢の娘だと」
会議室の空気が一瞬で凍りつく。
アベルは椅子から立ち上がり、信じられないというように机を叩いた。
⸻
アベル
「2歳……!? 兄上とルビーが出会ってから、まだ……2年だと言ってたが!」
キャスリン
「ええ。計算が合いませんわね。
つまり、ルビーは“入学最初から殿下と不貞を働いていた”ことになります。
兄上は出会ってすぐ子供を作られ、王家の名をさらに汚してたわけです」
⸻
アベルの瞳に怒りと衝撃が宿る。
しかしキャスリンはあくまで冷静に、紅茶をひと口すする。
キャスリン
「この事実が広まれば、カナタ殿下の廃嫡は誰にも覆せません。
むしろ……彼を庇う者は、もういなくなるでしょうね」
⸻
アベルは深く息を吐き、拳を握りしめた。
アベル
「……キャスリン。君がこの事実を知らせてくれたこと、感謝する。
これは国を立て直すための……最悪の証拠だ」
⸻
キャスリンは扇子で口元を隠し、淡い微笑を浮かべた。
キャスリン
「わたくしはただ、静かに暮らしたいだけですのよ。
でも──騒ぎを片付けるのに役立つなら、この情報も悪くありませんわ」
二杯目の紅茶が注がれる中、アベルは意を決したように口を開いた。
⸻
アベル
「キャスリン。……正式な婚姻を急ぐつもりはない」
キャスリン
「まあ。王太子殿下にしては珍しいお言葉ですわね」
⸻
アベルは真剣な表情で続けた。
アベル
「だが、国外からの縁談攻勢は激しさを増すばかりだ。
君が望んでいないのは承知しているが──“王太子妃候補”という立場にあれば、しばらくは他国のしつこい干渉を避けられる」
キャスリン
「つまり、“条件付きの結婚案”ということですのね?」
アベル
「そうだ。
当面は形式上、私の妃として王宮で暮らしてほしい。
だが、君の自由は奪わない。本も紅茶も、静かな時間も……すべて約束する」
⸻
キャスリンはカップを傾け、紅茶の香りを楽しみながら考え込む。
キャスリン
「……なるほど。他国から逃れるには、王太子妃という立場は確かに都合がいい。
けれども──王宮での暮らし、私の本棚やティーセットを持ち込めるのかしら?」
⸻
アベルは思わず苦笑し、すぐに答える。
アベル
「持ち込んでくれ。むしろ私の執務室の隣に書庫を作ろう。
……君が落ち着ける環境を整える。それが条件を受けてもらうための、最低限の務めだ」
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キャスリンは扇子で口元を隠し、目を細めた。
キャスリン
「……殿下。
本当に“邪魔をしない”と誓えるのなら、考えてあげなくもありませんわ」
(王宮初日・サファイアとの出会い)
──王宮に入った初日。
キャスリンはまだ落ち着かぬ心を抱きながら、庭園の東屋で紅茶を味わっていた。
そこに、小さな足音が駆けてくる。
⸻
少女
「──あっ!」
ふわふわの金髪、澄んだ青い瞳。
二歳ほどの少女が、キャスリンのスカートにしがみつく。
少女
「おねえさま……お姫様みたい!」
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キャスリンは思わず目を細め、しゃがみ込んだ。
キャスリン
「まあ、かわいい子ね。こんなところでどうしたの?」
少女
「お母さまが……ここで待っててって。だから待ってるの」
⸻
少女の名を問うと、無邪気に答えが返ってくる。
少女
「わたし、サファイアっていうの。青いおめめだから、お母さまがそう呼んだの」
その瞬間、キャスリンの胸に冷たい衝撃が走った。
王族の証──青い瞳。
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キャスリン(心の声)
「この子……王族の血を引いている? 金髪に青い瞳……まさか……」
護衛の騎士が追いつき、息を切らせて説明する。
護衛
「お嬢様、その子は……カナタ殿下と、ルビー嬢の娘でございます」
⸻
キャスリンの手がカップの取っ手で止まる。
キャスリン(心の声)
「2歳……? 彼らが出会って、すぐの子?
……信じられない。
つまり、兄王子の廃嫡は必然。
ルビーは“最初からみんなを、裏切っていた”のね」
⸻
サファイアはにこにこと笑い、キャスリンの指を掴む。
サファイア
「おねえさま、ここにいてね。わたし、おねえさま好き!」
キャスリンは一瞬だけ表情を和らげ、少女の髪を撫でる。
しかし瞳の奥は鋭く光っていた。
キャスリン
「……ええ。きっと、ここにいるわ」
(サファイアの存在を報告)
──その日の夕刻、王宮内の小会議室。
アベルは書類に目を通していたが、キャスリンが入ってくるとすぐに顔を上げた。
⸻
アベル
「どうした、キャスリン。初日の王宮は落ち着けたか?」
キャスリン
「ええ、紅茶も本も用意されていたので、思ったより快適でしたわ。
──ただし、ひとつ、とんでもないものを見てしまいましたけれど」
アベルの眉がぴくりと動く。
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キャスリン
「庭園で、かわいらしい女の子に出会いましたの。
金髪に、澄んだ青い瞳。名前は“サファイア”。……二歳くらいでしたわ」
アベル
「……っ!」
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キャスリンは淡々と続ける。
キャスリン
「護衛の騎士が教えてくれました。あの子は──カナタ殿下とルビー嬢の娘だと」
会議室の空気が一瞬で凍りつく。
アベルは椅子から立ち上がり、信じられないというように机を叩いた。
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アベル
「2歳……!? 兄上とルビーが出会ってから、まだ……2年だと言ってたが!」
キャスリン
「ええ。計算が合いませんわね。
つまり、ルビーは“入学最初から殿下と不貞を働いていた”ことになります。
兄上は出会ってすぐ子供を作られ、王家の名をさらに汚してたわけです」
⸻
アベルの瞳に怒りと衝撃が宿る。
しかしキャスリンはあくまで冷静に、紅茶をひと口すする。
キャスリン
「この事実が広まれば、カナタ殿下の廃嫡は誰にも覆せません。
むしろ……彼を庇う者は、もういなくなるでしょうね」
⸻
アベルは深く息を吐き、拳を握りしめた。
アベル
「……キャスリン。君がこの事実を知らせてくれたこと、感謝する。
これは国を立て直すための……最悪の証拠だ」
⸻
キャスリンは扇子で口元を隠し、淡い微笑を浮かべた。
キャスリン
「わたくしはただ、静かに暮らしたいだけですのよ。
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