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「お別れのダンスは、可愛いと言ってほしかった」
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フェアエル・パーティ。
それは、騎士科の上級生たちを送り出す卒業の宴。
私は新調したドレスを身にまとい、大広間の隅でそっと胸を押さえていた。
「似合っているかしら……?」
鏡の中の私は、ほんの少しふっくらして、頬もほんのり紅色。
でも、それが悪くないと思えるようになったのは――レオン様のおかげ。
(卒業したら……もう、気軽には会えなくなる)
今まではすれ違ったり、グラウンドで偶然を装って会えたりした。
けれど、それももう――終わり。
「アネット様」
振り向くと、そこに立っていたのはレオン様。
礼装姿の彼は、いつもよりもずっと大人びて見えて、思わず息を呑んだ。
「……レオン様、今日は……」
「お綺麗です。とても、可愛いくて、似合っていますよ」
その一言に、胸がいっぱいになって、何も言えなくなってしまう。
私、ずっと――
「可愛い」って言われたかったの。
「踊っていただけますか?」
「はいっ!」
手を取られて、ホール中央へ。
緊張で足が震える。けれど、レオン様の手が優しく導いてくれる。
「卒業しても……アネット様が努力してること、忘れません」
「……私も。私も、レオン様の言葉が支えでしたの」
タンゴのリズムに乗って、心がふわりと宙に浮いたような気がした。
別れのパーティのはずなのに。
なのに、どうして、こんなにも幸せな気持ちになるのかしら。
――ねえ、レオン様。
私、もっともっと可愛くなりますわ。
だから今日だけはあなたに相応しい
女になりますわ。
床を蹴り激しく靴音を響かせる。
始める。
――リベルタンゴ。
難しいタンゴだけれど、先生のアレンジによって、私たちにも踊れるよう調整された一曲。
要所に“見せ場”が散りばめられた、初心者用の華やかな振付。
あとは、信じて、任せるだけ。
(わたくしは――)
踊り始めた瞬間、足が自然と動いた。
レオン様のリードが、まるで風の流れのように滑らかで。
一歩、一歩。
回転、そしてステップ。
(わたくしは、レオン様となら)
この“少しだけふっくらした”身体で、踊っていける。
このドレスで、ちゃんと舞える。
靴音――
「カン……カン……」
一歩、また一歩。
床に響くのは、私とレオン様の靴音だけ。
その音が、静寂の中にリズムとなって流れる。
レオン様のリードに応じて、私の身体が自然と回る。
ターン――
くるりと一回転。
ドレスの裾が花びらのようにふわりと広がる。
止まった瞬間、彼の腕に引き寄せられて――見上げたその瞳は、誰よりも真剣だった。
(この人は、私のことを“見て”くれている)
「カン、カン、カン……」
靴音が、ふたりだけの会話のように響く。
そして、最大の見せ場。
レオン様が、私の手を高く掲げて――
ふたりで、大きな回転。
その瞬間、拍手すら忘れた観客たちが、息を呑んだ。
そして視線がぶつかる。
ふたりだけの世界。
曲が終わる寸前、最後のポーズ――
レオン様の手が私の腰をしっかり支え、私は彼の腕の中で、大きく胸を反って微笑む。
曲が終わる。
最後のポーズのまま、私とレオン様は静かに呼吸を整える。
──しん……
広間には、一瞬の沈黙が降りた。
そして――
「ブラボー!!!」
誰かの声と同時に、大きな拍手が巻き起こった。
「すごい……!」
「アネット様、本当に踊れるようになったんだ……!」
「しかもタンゴであれって、どんだけレッスンしたの……?」
舞踏会に招かれた教師たちも、思わず見惚れたようにうなずく。
「あれが、地獄のレッスンの成果か……」
「いや、それ以上に……ふたりの気持ちが通じてる。完璧だった」
(わたくし、できました……)
息を切らしながら、胸の中でつぶやく。
すると、レオン様がそっと顔を寄せた。
「アネット様」
「……はい?」
「このまま、あなたとずっと踊り続けたい」
歓声とどよめきが広間を包み、レオン様がそっと私の手を握ってくる。
「……やり切りましたね」
「はい……」
目元が潤むのを感じた。
悔し涙じゃなくて、嬉し涙だなんて。
わたくし、知らなかったんですのよ。
「鍛えるって、美しい……!」
「騎士科の筋トレって、ただの力じゃないのね」
「しなやかで綺麗……あんなふうになりたい!」
観客の中にいた女子生徒たちが、口々にそう呟く。
それを聞いたレオン様が、どこか得意げに微笑んだ。
「筋肉は美しさも支えるのです」
「ふふっ、騎士科の筋肉レッスン、宣伝成功ですわね」
そこへ、指導教官のマダム・グレンダが大きな拍手をしながら近づいてきた。
「アネット嬢、レオン。素晴らしかったわよ。予定より一段も二段も上の出来だったじゃない」
「……ありがとうございます」
「努力と、根性と、ほんの少しの勇気と何より、信頼があったからこそね」
マダムの言葉に、ふたりして深く頭を下げた。
舞踏会の空気が、やわらかく華やかに染まっていく。
レオン様がそっと私の手を取って、ささやく。
「ここからが、始まりです」
「ええ。わたくし、もう“骨と皮”じゃありませんから」
わたくしの中に、ちゃんと筋肉と――恋心が育っている。
観客席からの喝采が、まだ鳴り止まない。
広間いっぱいの祝福の中で、
私とレオン様は、ゆっくりと手を繋いだまま、笑い合った。
それは、騎士科の上級生たちを送り出す卒業の宴。
私は新調したドレスを身にまとい、大広間の隅でそっと胸を押さえていた。
「似合っているかしら……?」
鏡の中の私は、ほんの少しふっくらして、頬もほんのり紅色。
でも、それが悪くないと思えるようになったのは――レオン様のおかげ。
(卒業したら……もう、気軽には会えなくなる)
今まではすれ違ったり、グラウンドで偶然を装って会えたりした。
けれど、それももう――終わり。
「アネット様」
振り向くと、そこに立っていたのはレオン様。
礼装姿の彼は、いつもよりもずっと大人びて見えて、思わず息を呑んだ。
「……レオン様、今日は……」
「お綺麗です。とても、可愛いくて、似合っていますよ」
その一言に、胸がいっぱいになって、何も言えなくなってしまう。
私、ずっと――
「可愛い」って言われたかったの。
「踊っていただけますか?」
「はいっ!」
手を取られて、ホール中央へ。
緊張で足が震える。けれど、レオン様の手が優しく導いてくれる。
「卒業しても……アネット様が努力してること、忘れません」
「……私も。私も、レオン様の言葉が支えでしたの」
タンゴのリズムに乗って、心がふわりと宙に浮いたような気がした。
別れのパーティのはずなのに。
なのに、どうして、こんなにも幸せな気持ちになるのかしら。
――ねえ、レオン様。
私、もっともっと可愛くなりますわ。
だから今日だけはあなたに相応しい
女になりますわ。
床を蹴り激しく靴音を響かせる。
始める。
――リベルタンゴ。
難しいタンゴだけれど、先生のアレンジによって、私たちにも踊れるよう調整された一曲。
要所に“見せ場”が散りばめられた、初心者用の華やかな振付。
あとは、信じて、任せるだけ。
(わたくしは――)
踊り始めた瞬間、足が自然と動いた。
レオン様のリードが、まるで風の流れのように滑らかで。
一歩、一歩。
回転、そしてステップ。
(わたくしは、レオン様となら)
この“少しだけふっくらした”身体で、踊っていける。
このドレスで、ちゃんと舞える。
靴音――
「カン……カン……」
一歩、また一歩。
床に響くのは、私とレオン様の靴音だけ。
その音が、静寂の中にリズムとなって流れる。
レオン様のリードに応じて、私の身体が自然と回る。
ターン――
くるりと一回転。
ドレスの裾が花びらのようにふわりと広がる。
止まった瞬間、彼の腕に引き寄せられて――見上げたその瞳は、誰よりも真剣だった。
(この人は、私のことを“見て”くれている)
「カン、カン、カン……」
靴音が、ふたりだけの会話のように響く。
そして、最大の見せ場。
レオン様が、私の手を高く掲げて――
ふたりで、大きな回転。
その瞬間、拍手すら忘れた観客たちが、息を呑んだ。
そして視線がぶつかる。
ふたりだけの世界。
曲が終わる寸前、最後のポーズ――
レオン様の手が私の腰をしっかり支え、私は彼の腕の中で、大きく胸を反って微笑む。
曲が終わる。
最後のポーズのまま、私とレオン様は静かに呼吸を整える。
──しん……
広間には、一瞬の沈黙が降りた。
そして――
「ブラボー!!!」
誰かの声と同時に、大きな拍手が巻き起こった。
「すごい……!」
「アネット様、本当に踊れるようになったんだ……!」
「しかもタンゴであれって、どんだけレッスンしたの……?」
舞踏会に招かれた教師たちも、思わず見惚れたようにうなずく。
「あれが、地獄のレッスンの成果か……」
「いや、それ以上に……ふたりの気持ちが通じてる。完璧だった」
(わたくし、できました……)
息を切らしながら、胸の中でつぶやく。
すると、レオン様がそっと顔を寄せた。
「アネット様」
「……はい?」
「このまま、あなたとずっと踊り続けたい」
歓声とどよめきが広間を包み、レオン様がそっと私の手を握ってくる。
「……やり切りましたね」
「はい……」
目元が潤むのを感じた。
悔し涙じゃなくて、嬉し涙だなんて。
わたくし、知らなかったんですのよ。
「鍛えるって、美しい……!」
「騎士科の筋トレって、ただの力じゃないのね」
「しなやかで綺麗……あんなふうになりたい!」
観客の中にいた女子生徒たちが、口々にそう呟く。
それを聞いたレオン様が、どこか得意げに微笑んだ。
「筋肉は美しさも支えるのです」
「ふふっ、騎士科の筋肉レッスン、宣伝成功ですわね」
そこへ、指導教官のマダム・グレンダが大きな拍手をしながら近づいてきた。
「アネット嬢、レオン。素晴らしかったわよ。予定より一段も二段も上の出来だったじゃない」
「……ありがとうございます」
「努力と、根性と、ほんの少しの勇気と何より、信頼があったからこそね」
マダムの言葉に、ふたりして深く頭を下げた。
舞踏会の空気が、やわらかく華やかに染まっていく。
レオン様がそっと私の手を取って、ささやく。
「ここからが、始まりです」
「ええ。わたくし、もう“骨と皮”じゃありませんから」
わたくしの中に、ちゃんと筋肉と――恋心が育っている。
観客席からの喝采が、まだ鳴り止まない。
広間いっぱいの祝福の中で、
私とレオン様は、ゆっくりと手を繋いだまま、笑い合った。
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