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「親たちの決断、恋のための家族会議」
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応接室には、いつになく重たい空気が漂っていた。
アネットの両親が向かい合い、沈黙のまま紅茶が冷めていく。
父「……だが、レオン君は騎士科とはいえ、所詮は平民の家の出だ。娘の夫としては……なあ」
母「はぁ……あなた、いつの時代の人ですの?今の子はね、恋愛結婚ですのよ」
父「わかっている、わかっているが……あの子は公爵家の婚姻対象でもあるんだぞ?昨日、例のリジェール公爵家の次男からも、申し込みが来ている」
母が机をばんと叩いた。
母「問題はそこです!あの子の心が、誰にあるかを見ていない!」
父「……」
母「今のアネットを見て、彼女を変えたのが誰なのか、考えました?」
父は口をつぐみ、ゆっくりとため息をついた。
父「……レオン君、か。確かに……今のあの子は、以前の影のある令嬢じゃない。健康的で、よく笑う。まるで別人のようだ」
母「そうです。あの子は、恋をして、努力して、変わったんです。それを否定してはいけません!」
父「……だが、家格の問題は大きい。仮に婚約を認めたとしても、宮廷で笑い者になる可能性だって――」
母「なら、いい方法がありますわ」
父「……?」
母「私の兄、覚えてます?南方領で伯爵家を継いでるでしょう。子どもがいないのよ。レオン君をあの家の養子に迎えればいいんです!」
父「……えっ、それは……本気か?」
母は優雅に微笑んだ。
母「本気ですわ。もともと兄も、“きちんとした若者がいれば後継にしたい”って言ってましたし、レオン君なら礼儀もあるし申し分ないですもの」
父は、数秒の沈黙のあと、ぱんと手を打った。
父「それだ!!……いや、なぜ気づかなかった!」
母、じっと見つめる。
母「……あなた、ほんとに思いついてませんでしたの?」
父、きまり悪そうにうつむく。
父「……いや、まあ、その……」
母「まったく、私がいなきゃどうなるのかしら、この家は」
父「はは、ははは……」
母「それと、レオン君に伝える時は、さりげなく“栄誉ですわよ”って言ってくださいね。驚かせちゃダメですの」
父「了解した」
レオンは、アネットの父――侯爵に呼び出されて、書斎へと足を運んだ。
いつも威厳のある男が、今日は少しだけ柔らかい表情で迎えてくれる。
侯爵「よく来てくれたな、レオン君」
レオン「はい。お話があると伺って……」
侯爵は深く息を吐き、一枚の手紙を机に置いた。
それは南方領・エスタン伯爵家の主からの書状だった。
侯爵「実は、私の義兄――妻の兄にあたる人物が、後継ぎを探していてな」
レオン「……後継ぎ……ですか?」
侯爵「うむ。そして私は君を推薦した。成績も優秀、礼儀も正しく、今や騎士団で認められつつある男だ。何より――娘が君を愛している」
レオンは、思わず息を呑んだ。
侯爵「……身分の差は、大きな壁だ。しかし、それを越える方法があるなら、私は越えたい。君も……そうだろう?」
レオン「……はい。越えたいです。アネット様のためなら、どんな努力も惜しみません!」
侯爵はゆっくりと頷いた。
侯爵「では、これは娘と君のための提案だ。君がエスタン伯の養子となること。それで、君は正式に娘の伴侶となれる」
レオンは、一瞬だけ瞳を見開いたが――すぐに深く頭を下げた。
レオン「ありがとうございます。……心より、感謝いたします。そして、必ずアネット様を幸せにします!」
侯爵「そうしてくれ。そして、領地経営の勉強も今から始めてくれ。君は騎士科でも成績がよかった。きっと、できる」
レオン「はい、努力いたします!」
一度深く頭を下げ、レオンは顔を上げる。
頬が紅潮していた。
レオン「……あの、侯爵様。お許しいただけるなら、すぐにでも――アネット様に、プロポーズさせていただきたいのですが!」
侯爵は笑った。
侯爵「ふふ、それはもう、早い方がいいな。娘はとっくに覚悟を決めているようだ。……君も、立派な男だよ。頼むぞ」
レオン「はいっ!」
少年のような笑顔で、レオンは背筋を伸ばした。
その瞳には、まっすぐな決意の光が宿っていた。
「やったああああああああ!!」
中庭に、思い切りいい声が響き渡った。
振り返ったアネットの目に飛び込んできたのは、満面の笑顔でこちらへ走ってくるレオンの姿。
「……なにか、ありましたの? そんなに大きな声を出して」
アネットが呆れ半分で問いかけると、レオンは目の前まで来たところで、勢いよく膝をついた。
ぜえぜえと息を切らしながら、深呼吸して――まっすぐに、彼女を見上げる。
「アネット様……いえ、アネット」
「はい?」
「お願いがあります」
「……はい?」
「私はあなたを、終生のパートナーと決めております。ずっと、ずっと前から。どうか、この気持ちを受け止めていただけませんか?」
アネットは目をぱちぱちさせて、しばらく固まっていた。
「……あの。もしわたくしが、公爵令嬢でなくなっても、平民になっても」
「えっ」
「それでも、あなたについて行きたいと思っておりましたが」
「はい、結婚してください!」
「もちろんです。はい、です」
言いながら、アネットの頬は真っ赤になっていた。
それでも、しっかりとレオンの手を取り、ぎゅっと握り返す。
「……ふふ。そんなに大声出さなくても、ちゃんと聞こえておりますのに」
「いや、あの、つい……嬉しすぎて」
立ち上がったレオンは、まだ頬を染めながらも、何度も「やった!」と小声で呟いていた。
「次は……指輪ですね」
「え?」
「いや、その、ちゃんと準備してから、正式にプロポーズするつもりだったんですけど……感情が先に出ちゃいました」
「じゃあ次のプロポーズも、楽しみにしてますわ」
その笑顔に、レオンはまた「やった……!」と囁く。
――こうして、ふたりの恋は本当に実を結んだのだった。
「窓辺のふたり、祝福のまなざし」
「あら……始まったみたいよ」
広間の窓辺で、母はカーテンの陰からそっと外を覗いた。中庭では、レオンが勢いよくアネットのもとへ走っていくところだった。
「ふふ、あれは叫び声かしら? やった、って聞こえたけれど」
「……全く、若いってのはいいもんだな」
父は腕を組んで、静かに頷く。少し照れくさそうな、けれどどこか誇らしげな横顔だった。
「まぁ、娘に嫌われずに済んだよ。……本当に、良かった」
母はそっと彼の手に自分の手を重ねた。
「今日は、レオン君が主役ですけど――」
「ん?」
「本当の主役は、あなたですわ。私にとっては」
父は、思わず息を呑んで母を見る。いつもの調子でさらりと言う妻のその目が、ほんの少し潤んでいるように見えた。
「……なに言ってんだ」
「ふふっ、嬉しいときぐらい、言わせてくださいな」
ふたりはしばらく窓から目を離さず、寄り添うようにして静かに見守っていた。中庭で抱き合う娘と青年の姿を、幸せそうに――まるで、何年か前の自分たちを思い出すように。
そして母は小さく囁く。
「幸せになりなさい、アネット。……今度は、あなたの番よ」
アネットの両親が向かい合い、沈黙のまま紅茶が冷めていく。
父「……だが、レオン君は騎士科とはいえ、所詮は平民の家の出だ。娘の夫としては……なあ」
母「はぁ……あなた、いつの時代の人ですの?今の子はね、恋愛結婚ですのよ」
父「わかっている、わかっているが……あの子は公爵家の婚姻対象でもあるんだぞ?昨日、例のリジェール公爵家の次男からも、申し込みが来ている」
母が机をばんと叩いた。
母「問題はそこです!あの子の心が、誰にあるかを見ていない!」
父「……」
母「今のアネットを見て、彼女を変えたのが誰なのか、考えました?」
父は口をつぐみ、ゆっくりとため息をついた。
父「……レオン君、か。確かに……今のあの子は、以前の影のある令嬢じゃない。健康的で、よく笑う。まるで別人のようだ」
母「そうです。あの子は、恋をして、努力して、変わったんです。それを否定してはいけません!」
父「……だが、家格の問題は大きい。仮に婚約を認めたとしても、宮廷で笑い者になる可能性だって――」
母「なら、いい方法がありますわ」
父「……?」
母「私の兄、覚えてます?南方領で伯爵家を継いでるでしょう。子どもがいないのよ。レオン君をあの家の養子に迎えればいいんです!」
父「……えっ、それは……本気か?」
母は優雅に微笑んだ。
母「本気ですわ。もともと兄も、“きちんとした若者がいれば後継にしたい”って言ってましたし、レオン君なら礼儀もあるし申し分ないですもの」
父は、数秒の沈黙のあと、ぱんと手を打った。
父「それだ!!……いや、なぜ気づかなかった!」
母、じっと見つめる。
母「……あなた、ほんとに思いついてませんでしたの?」
父、きまり悪そうにうつむく。
父「……いや、まあ、その……」
母「まったく、私がいなきゃどうなるのかしら、この家は」
父「はは、ははは……」
母「それと、レオン君に伝える時は、さりげなく“栄誉ですわよ”って言ってくださいね。驚かせちゃダメですの」
父「了解した」
レオンは、アネットの父――侯爵に呼び出されて、書斎へと足を運んだ。
いつも威厳のある男が、今日は少しだけ柔らかい表情で迎えてくれる。
侯爵「よく来てくれたな、レオン君」
レオン「はい。お話があると伺って……」
侯爵は深く息を吐き、一枚の手紙を机に置いた。
それは南方領・エスタン伯爵家の主からの書状だった。
侯爵「実は、私の義兄――妻の兄にあたる人物が、後継ぎを探していてな」
レオン「……後継ぎ……ですか?」
侯爵「うむ。そして私は君を推薦した。成績も優秀、礼儀も正しく、今や騎士団で認められつつある男だ。何より――娘が君を愛している」
レオンは、思わず息を呑んだ。
侯爵「……身分の差は、大きな壁だ。しかし、それを越える方法があるなら、私は越えたい。君も……そうだろう?」
レオン「……はい。越えたいです。アネット様のためなら、どんな努力も惜しみません!」
侯爵はゆっくりと頷いた。
侯爵「では、これは娘と君のための提案だ。君がエスタン伯の養子となること。それで、君は正式に娘の伴侶となれる」
レオンは、一瞬だけ瞳を見開いたが――すぐに深く頭を下げた。
レオン「ありがとうございます。……心より、感謝いたします。そして、必ずアネット様を幸せにします!」
侯爵「そうしてくれ。そして、領地経営の勉強も今から始めてくれ。君は騎士科でも成績がよかった。きっと、できる」
レオン「はい、努力いたします!」
一度深く頭を下げ、レオンは顔を上げる。
頬が紅潮していた。
レオン「……あの、侯爵様。お許しいただけるなら、すぐにでも――アネット様に、プロポーズさせていただきたいのですが!」
侯爵は笑った。
侯爵「ふふ、それはもう、早い方がいいな。娘はとっくに覚悟を決めているようだ。……君も、立派な男だよ。頼むぞ」
レオン「はいっ!」
少年のような笑顔で、レオンは背筋を伸ばした。
その瞳には、まっすぐな決意の光が宿っていた。
「やったああああああああ!!」
中庭に、思い切りいい声が響き渡った。
振り返ったアネットの目に飛び込んできたのは、満面の笑顔でこちらへ走ってくるレオンの姿。
「……なにか、ありましたの? そんなに大きな声を出して」
アネットが呆れ半分で問いかけると、レオンは目の前まで来たところで、勢いよく膝をついた。
ぜえぜえと息を切らしながら、深呼吸して――まっすぐに、彼女を見上げる。
「アネット様……いえ、アネット」
「はい?」
「お願いがあります」
「……はい?」
「私はあなたを、終生のパートナーと決めております。ずっと、ずっと前から。どうか、この気持ちを受け止めていただけませんか?」
アネットは目をぱちぱちさせて、しばらく固まっていた。
「……あの。もしわたくしが、公爵令嬢でなくなっても、平民になっても」
「えっ」
「それでも、あなたについて行きたいと思っておりましたが」
「はい、結婚してください!」
「もちろんです。はい、です」
言いながら、アネットの頬は真っ赤になっていた。
それでも、しっかりとレオンの手を取り、ぎゅっと握り返す。
「……ふふ。そんなに大声出さなくても、ちゃんと聞こえておりますのに」
「いや、あの、つい……嬉しすぎて」
立ち上がったレオンは、まだ頬を染めながらも、何度も「やった!」と小声で呟いていた。
「次は……指輪ですね」
「え?」
「いや、その、ちゃんと準備してから、正式にプロポーズするつもりだったんですけど……感情が先に出ちゃいました」
「じゃあ次のプロポーズも、楽しみにしてますわ」
その笑顔に、レオンはまた「やった……!」と囁く。
――こうして、ふたりの恋は本当に実を結んだのだった。
「窓辺のふたり、祝福のまなざし」
「あら……始まったみたいよ」
広間の窓辺で、母はカーテンの陰からそっと外を覗いた。中庭では、レオンが勢いよくアネットのもとへ走っていくところだった。
「ふふ、あれは叫び声かしら? やった、って聞こえたけれど」
「……全く、若いってのはいいもんだな」
父は腕を組んで、静かに頷く。少し照れくさそうな、けれどどこか誇らしげな横顔だった。
「まぁ、娘に嫌われずに済んだよ。……本当に、良かった」
母はそっと彼の手に自分の手を重ねた。
「今日は、レオン君が主役ですけど――」
「ん?」
「本当の主役は、あなたですわ。私にとっては」
父は、思わず息を呑んで母を見る。いつもの調子でさらりと言う妻のその目が、ほんの少し潤んでいるように見えた。
「……なに言ってんだ」
「ふふっ、嬉しいときぐらい、言わせてくださいな」
ふたりはしばらく窓から目を離さず、寄り添うようにして静かに見守っていた。中庭で抱き合う娘と青年の姿を、幸せそうに――まるで、何年か前の自分たちを思い出すように。
そして母は小さく囁く。
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