『恋は、鏡の中のわたしを変えていく』あなたと踊るタンゴ

夢窓(ゆめまど)

文字の大きさ
20 / 21

風のワルツと、薔薇の誓い

しおりを挟む
 

「……本当に大丈夫? このドレス、20キロあるらしいのよ」

舞台袖でアネットが小声でぼやく。

ドレスの裾はまるで宝石の滝。腰のあたりから下には、薔薇をかたどった宝石がぎっしり詰められ、光の反射で虹ができそうなほどキラキラしていた。

「ぐるぐる回転したらハンマー投げよ、これ」

「ふふ、大丈夫。俺の腕、信用してない?」

レオンはいたずらっぽく笑って、アネットの手をそっと握りしめた。

「君は、俺だけ見ていればいい。絶対に支えるから」

その言葉に、アネットの表情がふっと和らぐ。

(……ほんとにもう、どうしてそういう時だけかっこいいの)

 

「そろそろホールへ向かいなさいな」

背後から声をかけたのは母親だった。

華やかなドレスを着た彼女は、口元に笑みを浮かべている。

「行ってらっしゃい。私の、世界一の娘と、その旦那様へ」

 

大きな扉の向こう、王宮のホールには王や貴族、各国の使節たちが集っていた。

2人が姿を現すと、ざわめきが一瞬で静まり、次の瞬間、大きな拍手が巻き起こる。

 

(わぁ……)

アネットは息を呑んだ。眩しい光の中で、レオンの手をぎゅっと握り返す。

「いきますか、僕たちの“風のワルツ”」

「ええ。……優雅にね。ハンマー投げじゃないわよ」

「心得てます」

 

音楽が流れる。

ふたりはゆっくりとホールの中央へ歩き出す。

ドレスの裾がふわりと揺れ、宝石の薔薇が光を受けてきらめいた。

一歩、また一歩。

軽やかなステップ。

そして旋回――。

 

レオンがアネットを支えながら、大きく回る。

ドレスの重さを感じさせないその動きに、観客の誰もが息を呑んだ。

 

「綺麗……」

「なんて優雅なの……」

「風が薔薇を舞わせているみたい……!」

 

アネットのドレスが、風にのって咲き誇る薔薇のようにホールを彩る。

レオンの確かなリードに乗って、彼女は空を舞うように踊る。

宝石のきらめきも、音楽も、観客の視線も、もう気にならない。

ただ――

「あなたが、いるから」

「君が、信じてくれるから」

 

二人のステップが一つに重なり、フィニッシュ。

レオンがアネットを軽やかに抱き上げ、最後のポーズを決めた瞬間――

 

ホールは嵐のような拍手と歓声に包まれた。

祝福の拍手が鳴り止んだ頃、王が軽く手を上げると、ホールが静けさを取り戻した。

「立派な舞であった。勇敢なる騎士レオン・ウィスタリアと、その伴侶アネット嬢に、王宮より改めて祝福を贈ろう」

王の言葉に、再び拍手が起きる。

レオンはアネットの手を取り、壇上へと進み出る。そして、緊張した面持ちでマイクの前に立った。

 

「皆さま、ありがとうございます」

礼装姿のレオンが、まっすぐに観客を見つめて続ける。

「私は……もともと貴族の出でも、英雄の子でもありません。ただ、武を磨き、まっすぐに前を見てきただけの男です」

会場が静まり返る。

「ですが、そんな私にも、支えてくれる人が現れました。彼女はいつも努力して、前に進む人です。私は、その姿に、何度も心を動かされました」

隣に立つアネットが、少しだけうつむく。頬が、赤く染まっている。

「これからの人生、私は彼女を守り、共に生きていく覚悟です。どうか、皆さまにも見守っていただければ、幸いです」

深く頭を下げると、温かな拍手が広がった。

 



その夜、別室の晩餐会。

煌びやかな食卓に、選ばれた者たちが集う中──

「レオン様、アネット様、お席はこちらへどうぞ」

用意された席に腰を下ろすと、目の前には見慣れた料理の名があった。

 

「……これ、まさか」

「ふふ、はい。“塩ハーブの鶏肉焼き”に、“かぼちゃのグラタン”、そして“いちごのタルト”。ぜんぶ……わたしが練習してた、アレ」

アネットがこっそりと、家庭用レシピで王宮用に仕上げた品々。

レオンは、感激したように小さく笑った。

「うまいな、相変わらず」

「そう? そりゃあ、あなたを喜ばせたいですもの」

 

そしてその夜、誰よりも幸せそうに笑っていたのは、

“新妻アネット”を抱き寄せたレオンであり、

“娘の幸せ”に目を細める父と母であり、

そして、夢にまで見たその光景を、胸に焼き付けたアネット自身だった。

 

──「これが、わたしの選んだ人生。恋して、努力して、つかんだ未来」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〖完結〗終着駅のパッセージ

苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。 彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。 王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。 夫と婚姻してから三年という長い時間。 その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。 ※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

新たな物語はあなたと共に

mahiro
恋愛
婚約破棄と共に断罪を言い渡され、私は18歳という若さでこの世を去った筈だったのに、目を覚ますと私の婚約者を奪った女に成り代わっていた。 何故こんなことになったのか、これは何の罰なのかと思いながら今まで味わったことのない平民の生活を送ることとなった。 それから数年が経過し、特待生として以前通っていた学園へと入学が決まった。 そこには過去存在していた私の姿と私を断罪した婚約者の姿があったのだった。

平手打ちされたので、婚約破棄宣言に拳でお答えしました

Megumi
恋愛
婚約破棄を告げられ、婚約者に平手打ちされた——その瞬間。 伯爵令嬢イヴの拳が炸裂した。 理不尽に耐える淑女の時代は、もう終わり。 これは“我慢しない令嬢”が、これまでの常識を覆す話。

公爵令嬢は運命の相手を間違える

あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。 だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。 アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。 だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。 今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。 そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。 そんな感じのお話です。

醜女の私と政略結婚した旦那様の様子がおかしい

サトウミ
恋愛
この国一番の醜女である私と結婚したイバン様。眉目秀麗で数多の女性と浮き名を流した彼は、不祥事を起こしたせいで私なんかと結婚することになってしまった。それでも真面目な彼は、必死に私を愛そうと努力してくださる。 ──無駄な努力だ。 こんな色白で目と胸の大きい女を、愛せるはずがない。

閉じ込められた未亡人は、当主となった義息と契約する。

黒蜜きな粉
恋愛
借金の肩代わりとして後妻に入った私は、 妻と呼ばれながら屋敷の離れで「いないもの」として暮らしていた。 ある雪の日、夫が事故死したと告げられる。 だが、葬儀に出ることすら許されず、私は部屋に閉じ込められた。 新たに当主となった継子は言う。 外へ出れば君は利用され奪われる、と。 それが保護であり、同時に支配なのだと理解したとき、 私はその庇護を条件付きの契約に変えることを選ぶ。 短いお話です。

[異世界恋愛短編集]私のせいではありません。諦めて、本音トークごと私を受け入れてください

石河 翠
恋愛
公爵令嬢レイラは、王太子の婚約者である。しかし王太子は男爵令嬢にうつつをぬかして、彼女のことを「悪役令嬢」と敵視する。さらに妃教育という名目で離宮に幽閉されてしまった。 面倒な仕事を王太子から押し付けられたレイラは、やがて王族をはじめとする国の要人たちから誰にも言えない愚痴や秘密を打ち明けられるようになる。 そんなレイラの唯一の楽しみは、離宮の庭にある東屋でお茶をすること。ある時からお茶の時間に雨が降ると、顔馴染みの文官が雨宿りにやってくるようになって……。 どんな理不尽にも静かに耐えていたヒロインと、そんなヒロインの笑顔を見るためならどんな努力も惜しまないヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 「お望み通り、悪役令嬢とやらになりましたわ。ご満足いただけたかしら?」、その他5篇の異世界恋愛短編集です。 この作品は、他サイトにも投稿しております。表紙は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:32749945)をおかりしております。

処理中です...