『恋は、鏡の中のわたしを変えていく』あなたと踊るタンゴ

夢窓(ゆめまど)

文字の大きさ
21 / 21

「永遠の誓いは、あなたの名前とともに」

しおりを挟む
晴れわたる青空。王宮の庭園に、白い花が咲き乱れていた。
貴族たちが集い、楽団が静かに演奏を始める中──

花嫁アネットは、長いベールに包まれて控室にいた。

「……大丈夫、大丈夫よ私。いつも通り笑って、しっかり歩くの。今日は、特別な日なんだから」

鏡の中の自分に、そっと言い聞かせる。
レースのヴェール越しに覗く瞳は、かつてよりも自信に満ちていた。

ドレスは王妃様から贈られたもの。繊細な刺繍に、風にそよぐ薄いサテン。
そして髪には、あの日の情熱の赤い薔薇を一輪。

「アネット、そろそろです」

控室の扉を開けたのは、父だった。
目元が少し赤い。

「……父さま?」

「こんなに綺麗に育ってくれて、ありがとう」

その言葉に、アネットも少し目を潤ませながら、父の腕に手を添える。



庭園の中央、祭壇の前。

音楽が高鳴り、参列者の視線が一斉に振り返る。

レオンは、騎士団の礼装に身を包み、背筋を伸ばして待っていた。
彼の胸にも、アネットとおそろいの赤い薔薇。

アネットが父と一歩ずつ近づいてくる。
その歩みが、まるで光の筋のように、庭園を照らしていく。

父が優しくレオンに娘の手を出して、
「幸せに」と笑って去っていく。

「お待たせしました、レオン様」

「……来てくれて、ありがとう。今日、夢が叶います」

二人は手を取り合い、誓いの言葉を交わす。

「病めるときも、健やかなるときも。
富めるときも、貧しきときも。
あなたを信じ、愛し、尊び続けます──」

「この人こそが、私の永遠です」

 

神官の言葉に続き、二人は指輪を交わし──

 

「新郎、新婦の口づけを」

 

静まり返った庭園に、頬を寄せる音がそっと響いた。

一瞬の静寂のあと、拍手が広がり、花びらが舞う。
風が二人の髪をやさしく揺らし、鳩が空へと羽ばたいていく。



式のあと

レオンは小声で囁く。

「……緊張した?」

「ええ、でももう安心したわ。だって、あなたが隣にいるから」

レオンは笑い、アネットの手を握り直す。

「これから、君の作る朝ごはんが毎日楽しみだよ」

「それなら……私のドレスの重さより、重い愛情で包んでね?」

ふたりは顔を見合わせ、ふっと笑い合った。

 

──この日から、ふたりの新しい物語が始まる。

結婚式から数週間。
少し落ち着いた午後、アネットの家に久しぶりに兄姉たちがそろって帰ってきた。

「ごめんね~!ようやく都合ついたわ!」
姉は、昔から変わらず快活。相変わらずの元気ぶりで、夫のレオンにも躊躇なく抱きつこうとして、アネットに止められる。

「ちょっと、お姉さま!それは私の旦那様です!」

「え~、可愛い妹の夫くんじゃない~!」

「そうだよ、アネット。レオンは家族だろ?」
兄が笑う。その隣には、初対面の婚約者がにこやかに頭を下げた。

「はじめまして、兄さんの婚約者のマリアと申します。……実は、今日、お願いがあって」

「お願い?」

マリアが照れながら、バッグから取り出したのは――

「王宮の舞踏会、参加することになったんです。でも私、ダンスまったくできなくて……アネットさん、教えていただけませんか?」

 



 

「じゃあみんなでやろう!ファミリーレッスンってことで!」

そう言い出したのは、レオンだった。

「せっかく家族がそろったんだ。僕たちの“地獄のレッスン”の成果を、皆さんにもお裾分けしたくてね」

「ちょっと!“地獄”とか言わないでよ!」

 

リビングのテーブルを端に寄せ、カーペットを外して、即席のダンスフロアに早変わり。

アネットとレオンがまず模範ステップを軽やかに披露する。

「……きれい……」
マリアがうっとりと見とれる。姉は「なにそれ、あたしにもできるやつにしてよ」とブーブー文句。

兄が少し顔を赤らめながら、姉の手をとる。

「踊ろう。ゆっくりでいいから」

「……ふふ。あんたがそう言うなんて珍しいわね」

 

ぎこちないながらも、それぞれが一歩ずつ、ステップを踏んでいく。

「足、踏まないで!」

「こっちのセリフよ!」

「マリアさん、焦らなくて大丈夫。呼吸を合わせるのが大切なんです」

「は、はいっ!」

「姉さま、腰が高すぎます!もっと重心を落として!」

「あんた、指導だけは一人前になったわね!」

 

リビングには、笑い声が絶えなかった。

 



 

ひととおりの練習が終わり、皆が息を整えていると──

「ねえ、今度は……家族全員で、ペアチェンジして踊ってみるのってどうかしら?」

「賛成ー!」

「僕は……アネットとがいいな」

「却下です!それは後で!」

 

リビングに響く音楽と、賑やかなステップの音。

ふたりきりのレッスンでは味わえなかった、**家族と踊る“団らんのダンス”**は、
やがて新しい記憶として、心に刻まれていった――。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

〖完結〗終着駅のパッセージ

苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。 彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。 王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。 夫と婚姻してから三年という長い時間。 その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。 ※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

新たな物語はあなたと共に

mahiro
恋愛
婚約破棄と共に断罪を言い渡され、私は18歳という若さでこの世を去った筈だったのに、目を覚ますと私の婚約者を奪った女に成り代わっていた。 何故こんなことになったのか、これは何の罰なのかと思いながら今まで味わったことのない平民の生活を送ることとなった。 それから数年が経過し、特待生として以前通っていた学園へと入学が決まった。 そこには過去存在していた私の姿と私を断罪した婚約者の姿があったのだった。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

平手打ちされたので、婚約破棄宣言に拳でお答えしました

Megumi
恋愛
婚約破棄を告げられ、婚約者に平手打ちされた——その瞬間。 伯爵令嬢イヴの拳が炸裂した。 理不尽に耐える淑女の時代は、もう終わり。 これは“我慢しない令嬢”が、これまでの常識を覆す話。

公爵令嬢は運命の相手を間違える

あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。 だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。 アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。 だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。 今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。 そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。 そんな感じのお話です。

閉じ込められた未亡人は、当主となった義息と契約する。

黒蜜きな粉
恋愛
借金の肩代わりとして後妻に入った私は、 妻と呼ばれながら屋敷の離れで「いないもの」として暮らしていた。 ある雪の日、夫が事故死したと告げられる。 だが、葬儀に出ることすら許されず、私は部屋に閉じ込められた。 新たに当主となった継子は言う。 外へ出れば君は利用され奪われる、と。 それが保護であり、同時に支配なのだと理解したとき、 私はその庇護を条件付きの契約に変えることを選ぶ。 短いお話です。

醜女の私と政略結婚した旦那様の様子がおかしい

サトウミ
恋愛
この国一番の醜女である私と結婚したイバン様。眉目秀麗で数多の女性と浮き名を流した彼は、不祥事を起こしたせいで私なんかと結婚することになってしまった。それでも真面目な彼は、必死に私を愛そうと努力してくださる。 ──無駄な努力だ。 こんな色白で目と胸の大きい女を、愛せるはずがない。

[異世界恋愛短編集]私のせいではありません。諦めて、本音トークごと私を受け入れてください

石河 翠
恋愛
公爵令嬢レイラは、王太子の婚約者である。しかし王太子は男爵令嬢にうつつをぬかして、彼女のことを「悪役令嬢」と敵視する。さらに妃教育という名目で離宮に幽閉されてしまった。 面倒な仕事を王太子から押し付けられたレイラは、やがて王族をはじめとする国の要人たちから誰にも言えない愚痴や秘密を打ち明けられるようになる。 そんなレイラの唯一の楽しみは、離宮の庭にある東屋でお茶をすること。ある時からお茶の時間に雨が降ると、顔馴染みの文官が雨宿りにやってくるようになって……。 どんな理不尽にも静かに耐えていたヒロインと、そんなヒロインの笑顔を見るためならどんな努力も惜しまないヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 「お望み通り、悪役令嬢とやらになりましたわ。ご満足いただけたかしら?」、その他5篇の異世界恋愛短編集です。 この作品は、他サイトにも投稿しております。表紙は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:32749945)をおかりしております。

処理中です...