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赤ちゃんが、できてた。
捕まった時、父さんは、何も考えず、アンナと一緒に酒を飲んでいたらしい、
その夜、僕と母さんが家に帰っていたら。
盗賊団が、まだいたはずだ。
考えたら、怖くなった。
彼らが犯行前に捕まって、よかった。
最悪な状態で捕まっていたら、父さんも、もっと罪が重くなっていたかもしれない。
ロレンソさんが、後から教えてくれた。
ロレンソは、顔を見てすぐにクラウン団だとわかったらしい。
でも父さんは、知らなかった。
最後まで、気づいていなかった。
ハロルド様が、また怒った理由がそこだった。
護衛官として、毎日指名手配書を見ていたのに。
隣にいた女が、毎日会っていた女が、その中にいたのに。気づかなかった。
母さんは、ずっと青いままだった。
僕は、母さんの隣に座った。
何も言わなかった。
ただ、隣にいた。
そんなある日、母さんに呼ばれた。
「ケイン、話があるの」
「なんですか」
「子供ができたわ。まだ、3ヶ月らしいのよ。」
しばらく、意味がわからなかった。
「父さんとの子供らしい」
父さんは、まだ捕まったままだった。
「母さん、産むの?」
「産むわよ」
迷いのない顔だった。
僕は、少し考えた。
父さんは捕まってる。母さんは仕事してる。王宮にいる。いろいろ、大変だと思う。
でも。
「よし」
「よし?」
「僕が、離乳食作るぞ」
母さんが、目を丸くした。
「シェフに教わってくるから、任せてください」
母さんが、少し笑った。
久しぶりに見る、本当の笑顔だった。
「じゃあ、お願いしようかしら」
「はい、任せてください」
これからが、大変だと思う。
父さんのこと、赤ちゃんのこと、勉強のこと、全部一緒にやっていかないといけない。
でも、母さんと、二人で、頑張ろうと決めた。
王宮に隔離された生活は、快適だった。
最初は、調査された監視生活だった。どこに行くにも、誰かがついてきた。
でも、慣れてくると、だんだん自由になってきた。
騎士団の朝稽古に、参加させてもらえるようになった。
早朝、まだ空が白い時間に、みんなと一緒に体を動かす。時々、ハロルド様が稽古をつけてくれた。父さんに教わっていた剣とは、全然違った。ハロルド様、騎士団の強者らしい。
学校には行けないから、家庭教師が来て、宿題を出してくれた。
それは、まあ、普通だと思っていた。
しばらくしたら、王子様と一緒に勉強するようになっていた。
なんで?
王子様のリチャード様は、七歳だった。かなりの優秀さで、九歳の僕とちょうどいいらしい。らしい、と言われても、よくわからなかった。
語学の勉強が始まった。今まで、そんなものやったことがなかった。めちゃくちゃ難しかった。
リチャード様は、僕の市井の頃の話に興味があった。
「パン屋って、どんな所?」
「普通のパン屋ですよ。いろんなパンが売ってて」
「普通って、どんな感じ?」
一生懸命説明すると、リチャード様は目を輝かせて聞いていた。
王子様に、パン屋の話をする日が来るとは思わなかった。
王子様との勉強が、三時頃終わる。
王子様は、王子教育するらしい、
教科書を片付けて、ケインは王宮の厨房に向かった。王宮の台所で、下働きさせてもらっている。
見習いのラリックが、もう作業を始めていた。
「遅い」
「勉強あったんだ」
「王子様とだろ、知ってる」
ラリックは、じゃがいもを剥きながら言った。羨ましいのか、羨ましくないのか、よくわからない顔をしていた。
ケインも、エプロンをつけて隣に並んだ。
じゃがいもの皮剥き。にんじんの皮剥き。玉ねぎの皮剥き。毎日やっている下準備だった。最初は不格好だったのが、だんだん薄く剥けるようになってきた。
シェフ長が、手の空いた時間に声をかけてくれた。
「今日は特別だ」
「何ですか」
「離乳食になりそうなものを教える。さつまいものプリンだ」
ケインは、手を止めた。
生まれてくる赤ちゃんにために?
「教えてください」
「まず、さつまいもを蒸すところからだ」
裏漉しが、一番大変だった。
何度も、何度も、押し当てて漉していく。腕が痛くなった。
でも、滑らかになっていくさつまいもを見ていたら、やめられなかった。
夕飯の時間だった。
ハロルド様と母さんが、食事をしていた。
ケインが、静かに近づいてきた。
コトリと、小さな器を置いた。スプーンも、一緒に。
「これ、僕が作った。さつまいものプリン。良かったら食べて」
少し照れくさそうだった。
「甘くないけど、おいしいよ」
ハロルド様が、器を手に取った。
「ほう、甘くないのはいいな」
一口食べた。
「うまいじゃないか」
母さんも、スプーンを入れた。
「喉越しがいいわね」
もう一口、食べた。
「幾つでも食べれるわ」
ペロっと、なくなった。
ケインの顔が、ぱっと明るくなった。
「ほんと?よかった」
それから、少し胸を張った。
「必死で、裏漉ししたんだ」
ハロルド様が、もう一度器を見た。
「お前、本当にシェフになれるぞ」
ケインは、耳まで赤くなった。
この所母さんとハロルド様は、一緒に、食事をしている。
「ハロルド様と母さんって、お友達なの?」
ハロルド様が、少し考えた。
「お友達と言われたら、そうかもしれない」
「なんで、そうかもしれない、なんですか」
「大人って複雑なんだ」
ケインは、首を傾げた。
「私は王家の人間で、ジュリアは男爵令嬢だ。身分制度からなら、難しい」
「何が?」
「つまり、いろいろだ」
よくわからなかった。
ハロルド様が、続けた。
「そのうち、ちゃんとしたいと思っている」
「ちゃんとした、って?」
「今はまだだがね」
それだけ言って、ハロルド様は書類を置いた。
「ジュリアが子供を産んで、離婚が済んでから。私は諦めないってことだ」
ケインは、しばらく考えた。
「つまり、今は友達なんだよ」
ハロルド様が、静かに言った。
なんとなく、わかったような、わからないような。
でも、ハロルド様が母さんのそばにいてくれるのは、悪くないと思った。
「妃としてではなく」
ハロルド様が、静かに言った。
「側室としてでもなく」
ケインは、黙って聞いていた。
「おカミさんでもなく」
少し間があった。
「私の妻だ」
ケインは、その言葉をしばらく頭の中で転がした。
妃でも、側室でも、カミさんでもなく。
妻。
「……ハロルド様」
「なんだ」
「母さんに、ちゃんと言いましたか?」
ハロルド様が、少し黙った。
「まだだ、まだ、時期じゃない」
「早く言った方がいいと思います」
「そうだな」
「母さん、鈍いから」
ハロルド様が、今度は声を出して笑った。
「知ってる」
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