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第15話 出発の朝
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自室の窓から外を見ていた。
朝の新鮮な光と空気に包まれた、草原が見える。
ここから見える景色の中に、一体どれくらいの生命が息づいているのだろう。私はそこに想いをはせ、この生命力に溢れた、素晴らしい世界に感謝した。
窓から外を見ただけで、こんなにも言葉が浮かんでくるなんて…笑えてくる。気分がいい。ノッてる。
なぜって?
それはね、今日は領主の城に出発する日だからです!
くり返します。城です。城!
いつもなら寝起きの悪い私が、こういう日なら機嫌よく起きているのだから不思議でならない。
「ウォルフ朝ごはん食べよ~」
私はハシゴを滑り落ちるように降りた。
ウォルフはすでに起きていて、スープを作っていた。
「おはようございます。卵を頂いているので、目玉焼きでも焼きましょう」
そう言って、スープを作っている鍋とフライパンを入れ替えて、手際よく目玉焼きを作り始める。
できる男だね~。そう言えば、女性経験豊富な素振りを見せていたけど、なるほど、こういう女性ファーストな感じ、さぞかしおモテになったことでしょう。女性は、お姫様扱いされるのが好きなのさ。少なくても、私はそう。
「ねぇ、コーヒーとか紅茶ないの?」
「それは、なんでしょうか?」
なんてことでしょう。コーヒーや茶のない生活なんてありえない。
しかし、ウォルフが知らないと言うなら、ないのだろう。
「知らないならいいや。いただきます」
まずは、スープから頂こう……。
「おいしい!」
ウォルフの嬉しそうな顔が見える。マジうまいよ。
このキノコがいい仕事をしている。そして、軽く湯に通しただけの葉物がアクセントになっていて、香りと食感を提供している。
欲を言えば、トマトとか、ジャガイモ、トウモロコシなんて入っていると、なお良しなんだけど。
私は、それらの食材は高価なのか、尋ねてみたけど、コーヒーとかと同じで、その物自体を知らないそうだ。
食卓に並んだパンは、家で食べたものより柔らかい。
どの様にして柔らかくしているのか聞くと、スープ鍋の上で軽く蒸してあるのだそうだ。
スープを温めつつ、パンも柔らかくするとは、エコだよね。
そう言えば、ダスティン達はどうしたんだろう。キハーノ達は?
ウォルフに聞くと、キハーノの部隊十名のうち三名は、ダスティン達を連れて領主の城へ出発したらしい。キハーノ率いる主力の六名は、リーベリとムスカドとの堺近くにあるリンツ宅へ向かった。
残りの一名は、私達をリーベリまで案内する係だけど、馬で散歩に出掛けたとのことだった。
散歩って、のんきな騎士さんだな。
「ごちそうさまでした」
出発が待ち遠しい。ノノさん、早くこないかな。
一度外に出て辺りを見回したけど、姿が見えなかったので、教会の広間にあるベンチに座った。
屋根に空いた穴から、空が見える。
これが私の魔法で空いた穴か……私にこんな事ができるなんて、信じられない。
雲が流れているのが見える。
時計がないせいか、時間がゆっくりと流れている気がする。
どれぐらい、そうしていたのか、私は、ほっぺにくすぐったい感覚を覚えて目を開けた。
「おはよう、アンナちゃん」
ノノさんだ。
私のほっぺで遊んでる。
目が合うと、クスリと笑った。
「おはよう、ノノさん」
「ゆっくり休めた?」
奇麗な目だなぁ。
私は昨夜起った事を話した。キハーノが斬り掛かってきた話のときには、騎士が聞いて呆れる、とノノさんも怒り心頭の様子だった。
私の事で怒ってくれるの、なんか嬉しい。
「おやおや、仲のよろしい事で」
ウォルフだ。
テオといい、ウォルフといい、ノノさんと楽しんでいると、じゃまをする。不満である。
「おはようございます。アンナちゃんに悪さをしなかったでしょうね」
「そんな事をしたら、私はこの世にいませんよ」
本気か冗談かわからないノノさんの言葉を、ウォルフは同じようなニュアンスで返した。
「信じていいんですよね?」
ノノさんだ。射るような眼差しを、ウォルフに向けている。
「信じていただきたい」
そう言って、彼は頭をさげた。
「まあ、あなたよりアンナちゃんの方が強そうだし、大丈夫か」
そう言って、安心したような顔をしたけど……ノノさん、私は案外弱いのよ、と訴えかけたかった。けれど、それをすると、ノノさんが余計な心配をしちゃうから、黙っていたけど。
「しかし、騎士様は遅いですね」
ウォルフが外を見に行く。
ノノさんは私に、道中ともにする騎士さんがどんな人なのか聞いてきたけど、私は良くわからない。キハーノのことなら少しは答えられるのだけれど。
とりあえず、散歩にでかけちゃうような人だよと伝えると、のんきな人なんだねと、多少呆れ顔のノノさんが見れた。
「戻りましたよ」
ウォルフが教会の入口から顔を覗かせて教えてくれた。
やっと戻ってきたか。私達は外に出た。
あー、馬を蛇行させながら走っているヤツがいる…もちろん乗馬してだけど…時には円を描きながら走ってくる。
浮かれてるなぁ。
これが第一印象。
「おまたせ。道に迷っちゃって」
私達の目の前で馬を停め、馬上から声を掛けてきたその男性は、二十歳前の爽やかな笑顔をたたえていた。しかも、こちらを待たせていたことに気付いた様子はない。
コイツは坊っちゃんだ。
これが第二印象。
こんな人でも騎士は、騎士。ノノさんと私は、失礼のないように自己紹介した。騎士もそれを受けて、下馬してから挨拶した。
「僕はクリストファ・ロビン。しっかり警護するから安心してね」
笑顔を絶やさず話してくれるのはいいんだけど、この人、喋る速度が遅い。
私は早く出発したくて、せっついているのに、ロビンはのんびりと、おっとりとしている。
「騎士様、もう出発なさいますか?」
私は、はやる気持ちをおさえて、丁寧に尋ねた。彼は笑顔で応えてくれた。
「今、散歩から帰ってきたので、馬を休ませてからかな」
衝撃が私の体を貫いた!
続いて怒りが込み上げてくる。その想いは声となり、今まさに口から飛び出さんとしていた。
だが、しかし、私は、ソレを、抑えつけた。
相手が騎士だからではない。ノノさんに不快な想いをさせたくなかったからだ。
ロビン、ノノさんに感謝しなよ。
「騎士様、お尋ねしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
ノノさんの声が、私の心を慰めてくれる。いい声だ。
ロビンの了解を得て、ノノさんが続けた。
「私とアンナの移動には、何を使用するのですか?」
はて?確かに考えていなかった。まさか歩きじゃないよね。
「徒歩でいいかな?ゆっくりと移動するし、疲れたら僕の馬に乗せてあげるよ」
衝撃!パート2!
「客人として招くと聞いていないのですか?」
私は、思わず口を出した。けれど怒鳴らないように我慢した。少し漏れたかもしれないけど。
「やっぱり準備していて良かったですね」
ノノさんがウォルフに声を掛けた。
「そうですね」
ウォルフが返事をすると、二人で教会内へ入っでいく。
「なに?とうしたの?」
「待ってて」
私も行く、と言ったが、すぐ戻るから、とおいてけぼりをくらった。
ロビンと二人きりはイヤだなと思ったけど、以外にそうはならなかった。
馬がそこら辺に生えている草をついばんでいるのに、ロビンが付き合っているからだ。
それを眺めながら、清々しい気持ちに…ならなかった。段取りが悪すぎる。この世界に時計がないから、時間の大切さを実感できないからなの?
いくらか前に、同じことを考えていたはずだが、状況でこうも気分が違うのか。我ながら勝手だなと思えたことで、少しだけどゆとりができた。
「おまたせ」
背後からノノさんの声がした。
「何してたの?」
声を掛けながら振り返ると、そこには、貴公子がいた。
白いシャツに腰ベルト、黒いパンツと黒いロングブーツを履き、ピンクがかったブラウンの癖っ毛を、後ろで束ねている。右手の薬指には、サファイアだろうか、青い石の指輪を付けていた。
「…かっこいい」
それ以外の言葉なんてありえない。
「そう?変じゃない?」
そんな事ない。ラフな感じが堅くなくて、ノノさんの癖っ毛に似合っている。私は更に絶賛した。
「じゃ私と一緒に馬に乗ろうか」
「え?ノノさんと相乗りで行くの?」
「私、小さい時から家の馬に乗ってるから、安心してね」
私は、嬉しい気持ちと、恥ずかしい気持ちとが混在して、良くわからなくなった。だって馬に二人乗りって、王子様とお姫様みたいじゃない?デート見たいじゃない?ロビン邪魔じゃない?
「私のおじいちゃんが、馬に乗るのが好きでね、農耕馬を乗馬できるように調教してたの」
なんてオシャレなお祖父様。ノノさんのお祖父様なら納得だ。乗馬姿が様になってそう。
「その影響で、私も小さい時から馬に乗ってたの。お母さんは女が乗るもんじゃないって嫌がってたけどね」
なるほど、ノノさんの開放的な雰囲気は、馬によって育まれたのね。
ノノさんの性格形成に良い影響を与えてくれて、お祖父様、お馬さま、ありがとうございます。
「どうです。私のソーイングの腕は大したのもでしょう」
ウォルフが馬を引いてきた。
「あいさつをしときますね」
そう言うと、ノノさんは手綱を受け取り、私達から離れていった。
ノノさんとの会話を楽しんでいたから、そろそろ来るんじゃないかと思たよ。でも、ノノさんの服に関しては、褒めてあげようかな。
「ウォルフ凄いよ。いつの間にこんな準備をしたの?」
「領主様との会見が決まった事を、ノノ樣に知らせに行ったときに、思い立ちましてね。備えあれば憂いなしですよ」
これだけの物を一晩で作るなんて、いくらソーイングの腕があると言っても大変だったんじゃないかな。
「ちゃんと寝た?」
「私の若い頃の服を手直ししただけですから、そんなに手間は掛かっていません」
これ、ウォルフの若いときの服なんだ。こんな服を持ってるって、どんな家に住んでいたんだろ。でも、過去の事に触れると、ウォルフは壁を作るんだよね。
分かることと言えば、この服を着て、女性を口説いていたって事くらいだな。
「あと、これを渡しておきましょう」
そう言って四葉のデザインがされたネックレスを手渡して来た。
「気に入らないでしょうが、利用できる物は利用しましょう。貴女の夢のために」
確かに教団の力の強い地域もあるだろうし、こういう物を利用して信用を得ることもあるだろう。
「着けてもらえる?」
私はウォルフに四葉のネックレスをつけてもらった。
「ありがとう」
離れたところから、ハイ、というノノさんの声が聞こえた。
馬に乗り、歩かせている。楽しそう。
「じゃ、アンナちゃん。乗ってみようか」
ノノさんからお誘いの声が掛かった。見るとすでに乗馬している。
「うん」
人生初の乗馬がノノさんと一緒。
なんて、素敵なんでしょ。
私は歩き出した。
朝の新鮮な光と空気に包まれた、草原が見える。
ここから見える景色の中に、一体どれくらいの生命が息づいているのだろう。私はそこに想いをはせ、この生命力に溢れた、素晴らしい世界に感謝した。
窓から外を見ただけで、こんなにも言葉が浮かんでくるなんて…笑えてくる。気分がいい。ノッてる。
なぜって?
それはね、今日は領主の城に出発する日だからです!
くり返します。城です。城!
いつもなら寝起きの悪い私が、こういう日なら機嫌よく起きているのだから不思議でならない。
「ウォルフ朝ごはん食べよ~」
私はハシゴを滑り落ちるように降りた。
ウォルフはすでに起きていて、スープを作っていた。
「おはようございます。卵を頂いているので、目玉焼きでも焼きましょう」
そう言って、スープを作っている鍋とフライパンを入れ替えて、手際よく目玉焼きを作り始める。
できる男だね~。そう言えば、女性経験豊富な素振りを見せていたけど、なるほど、こういう女性ファーストな感じ、さぞかしおモテになったことでしょう。女性は、お姫様扱いされるのが好きなのさ。少なくても、私はそう。
「ねぇ、コーヒーとか紅茶ないの?」
「それは、なんでしょうか?」
なんてことでしょう。コーヒーや茶のない生活なんてありえない。
しかし、ウォルフが知らないと言うなら、ないのだろう。
「知らないならいいや。いただきます」
まずは、スープから頂こう……。
「おいしい!」
ウォルフの嬉しそうな顔が見える。マジうまいよ。
このキノコがいい仕事をしている。そして、軽く湯に通しただけの葉物がアクセントになっていて、香りと食感を提供している。
欲を言えば、トマトとか、ジャガイモ、トウモロコシなんて入っていると、なお良しなんだけど。
私は、それらの食材は高価なのか、尋ねてみたけど、コーヒーとかと同じで、その物自体を知らないそうだ。
食卓に並んだパンは、家で食べたものより柔らかい。
どの様にして柔らかくしているのか聞くと、スープ鍋の上で軽く蒸してあるのだそうだ。
スープを温めつつ、パンも柔らかくするとは、エコだよね。
そう言えば、ダスティン達はどうしたんだろう。キハーノ達は?
ウォルフに聞くと、キハーノの部隊十名のうち三名は、ダスティン達を連れて領主の城へ出発したらしい。キハーノ率いる主力の六名は、リーベリとムスカドとの堺近くにあるリンツ宅へ向かった。
残りの一名は、私達をリーベリまで案内する係だけど、馬で散歩に出掛けたとのことだった。
散歩って、のんきな騎士さんだな。
「ごちそうさまでした」
出発が待ち遠しい。ノノさん、早くこないかな。
一度外に出て辺りを見回したけど、姿が見えなかったので、教会の広間にあるベンチに座った。
屋根に空いた穴から、空が見える。
これが私の魔法で空いた穴か……私にこんな事ができるなんて、信じられない。
雲が流れているのが見える。
時計がないせいか、時間がゆっくりと流れている気がする。
どれぐらい、そうしていたのか、私は、ほっぺにくすぐったい感覚を覚えて目を開けた。
「おはよう、アンナちゃん」
ノノさんだ。
私のほっぺで遊んでる。
目が合うと、クスリと笑った。
「おはよう、ノノさん」
「ゆっくり休めた?」
奇麗な目だなぁ。
私は昨夜起った事を話した。キハーノが斬り掛かってきた話のときには、騎士が聞いて呆れる、とノノさんも怒り心頭の様子だった。
私の事で怒ってくれるの、なんか嬉しい。
「おやおや、仲のよろしい事で」
ウォルフだ。
テオといい、ウォルフといい、ノノさんと楽しんでいると、じゃまをする。不満である。
「おはようございます。アンナちゃんに悪さをしなかったでしょうね」
「そんな事をしたら、私はこの世にいませんよ」
本気か冗談かわからないノノさんの言葉を、ウォルフは同じようなニュアンスで返した。
「信じていいんですよね?」
ノノさんだ。射るような眼差しを、ウォルフに向けている。
「信じていただきたい」
そう言って、彼は頭をさげた。
「まあ、あなたよりアンナちゃんの方が強そうだし、大丈夫か」
そう言って、安心したような顔をしたけど……ノノさん、私は案外弱いのよ、と訴えかけたかった。けれど、それをすると、ノノさんが余計な心配をしちゃうから、黙っていたけど。
「しかし、騎士様は遅いですね」
ウォルフが外を見に行く。
ノノさんは私に、道中ともにする騎士さんがどんな人なのか聞いてきたけど、私は良くわからない。キハーノのことなら少しは答えられるのだけれど。
とりあえず、散歩にでかけちゃうような人だよと伝えると、のんきな人なんだねと、多少呆れ顔のノノさんが見れた。
「戻りましたよ」
ウォルフが教会の入口から顔を覗かせて教えてくれた。
やっと戻ってきたか。私達は外に出た。
あー、馬を蛇行させながら走っているヤツがいる…もちろん乗馬してだけど…時には円を描きながら走ってくる。
浮かれてるなぁ。
これが第一印象。
「おまたせ。道に迷っちゃって」
私達の目の前で馬を停め、馬上から声を掛けてきたその男性は、二十歳前の爽やかな笑顔をたたえていた。しかも、こちらを待たせていたことに気付いた様子はない。
コイツは坊っちゃんだ。
これが第二印象。
こんな人でも騎士は、騎士。ノノさんと私は、失礼のないように自己紹介した。騎士もそれを受けて、下馬してから挨拶した。
「僕はクリストファ・ロビン。しっかり警護するから安心してね」
笑顔を絶やさず話してくれるのはいいんだけど、この人、喋る速度が遅い。
私は早く出発したくて、せっついているのに、ロビンはのんびりと、おっとりとしている。
「騎士様、もう出発なさいますか?」
私は、はやる気持ちをおさえて、丁寧に尋ねた。彼は笑顔で応えてくれた。
「今、散歩から帰ってきたので、馬を休ませてからかな」
衝撃が私の体を貫いた!
続いて怒りが込み上げてくる。その想いは声となり、今まさに口から飛び出さんとしていた。
だが、しかし、私は、ソレを、抑えつけた。
相手が騎士だからではない。ノノさんに不快な想いをさせたくなかったからだ。
ロビン、ノノさんに感謝しなよ。
「騎士様、お尋ねしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
ノノさんの声が、私の心を慰めてくれる。いい声だ。
ロビンの了解を得て、ノノさんが続けた。
「私とアンナの移動には、何を使用するのですか?」
はて?確かに考えていなかった。まさか歩きじゃないよね。
「徒歩でいいかな?ゆっくりと移動するし、疲れたら僕の馬に乗せてあげるよ」
衝撃!パート2!
「客人として招くと聞いていないのですか?」
私は、思わず口を出した。けれど怒鳴らないように我慢した。少し漏れたかもしれないけど。
「やっぱり準備していて良かったですね」
ノノさんがウォルフに声を掛けた。
「そうですね」
ウォルフが返事をすると、二人で教会内へ入っでいく。
「なに?とうしたの?」
「待ってて」
私も行く、と言ったが、すぐ戻るから、とおいてけぼりをくらった。
ロビンと二人きりはイヤだなと思ったけど、以外にそうはならなかった。
馬がそこら辺に生えている草をついばんでいるのに、ロビンが付き合っているからだ。
それを眺めながら、清々しい気持ちに…ならなかった。段取りが悪すぎる。この世界に時計がないから、時間の大切さを実感できないからなの?
いくらか前に、同じことを考えていたはずだが、状況でこうも気分が違うのか。我ながら勝手だなと思えたことで、少しだけどゆとりができた。
「おまたせ」
背後からノノさんの声がした。
「何してたの?」
声を掛けながら振り返ると、そこには、貴公子がいた。
白いシャツに腰ベルト、黒いパンツと黒いロングブーツを履き、ピンクがかったブラウンの癖っ毛を、後ろで束ねている。右手の薬指には、サファイアだろうか、青い石の指輪を付けていた。
「…かっこいい」
それ以外の言葉なんてありえない。
「そう?変じゃない?」
そんな事ない。ラフな感じが堅くなくて、ノノさんの癖っ毛に似合っている。私は更に絶賛した。
「じゃ私と一緒に馬に乗ろうか」
「え?ノノさんと相乗りで行くの?」
「私、小さい時から家の馬に乗ってるから、安心してね」
私は、嬉しい気持ちと、恥ずかしい気持ちとが混在して、良くわからなくなった。だって馬に二人乗りって、王子様とお姫様みたいじゃない?デート見たいじゃない?ロビン邪魔じゃない?
「私のおじいちゃんが、馬に乗るのが好きでね、農耕馬を乗馬できるように調教してたの」
なんてオシャレなお祖父様。ノノさんのお祖父様なら納得だ。乗馬姿が様になってそう。
「その影響で、私も小さい時から馬に乗ってたの。お母さんは女が乗るもんじゃないって嫌がってたけどね」
なるほど、ノノさんの開放的な雰囲気は、馬によって育まれたのね。
ノノさんの性格形成に良い影響を与えてくれて、お祖父様、お馬さま、ありがとうございます。
「どうです。私のソーイングの腕は大したのもでしょう」
ウォルフが馬を引いてきた。
「あいさつをしときますね」
そう言うと、ノノさんは手綱を受け取り、私達から離れていった。
ノノさんとの会話を楽しんでいたから、そろそろ来るんじゃないかと思たよ。でも、ノノさんの服に関しては、褒めてあげようかな。
「ウォルフ凄いよ。いつの間にこんな準備をしたの?」
「領主様との会見が決まった事を、ノノ樣に知らせに行ったときに、思い立ちましてね。備えあれば憂いなしですよ」
これだけの物を一晩で作るなんて、いくらソーイングの腕があると言っても大変だったんじゃないかな。
「ちゃんと寝た?」
「私の若い頃の服を手直ししただけですから、そんなに手間は掛かっていません」
これ、ウォルフの若いときの服なんだ。こんな服を持ってるって、どんな家に住んでいたんだろ。でも、過去の事に触れると、ウォルフは壁を作るんだよね。
分かることと言えば、この服を着て、女性を口説いていたって事くらいだな。
「あと、これを渡しておきましょう」
そう言って四葉のデザインがされたネックレスを手渡して来た。
「気に入らないでしょうが、利用できる物は利用しましょう。貴女の夢のために」
確かに教団の力の強い地域もあるだろうし、こういう物を利用して信用を得ることもあるだろう。
「着けてもらえる?」
私はウォルフに四葉のネックレスをつけてもらった。
「ありがとう」
離れたところから、ハイ、というノノさんの声が聞こえた。
馬に乗り、歩かせている。楽しそう。
「じゃ、アンナちゃん。乗ってみようか」
ノノさんからお誘いの声が掛かった。見るとすでに乗馬している。
「うん」
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なんて、素敵なんでしょ。
私は歩き出した。
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