城好きのアンナ〜すべての城を制覇します〜

chui

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第20話 光輝く素晴らしいもの

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 私の目の前が光り輝いている。これは、身も心も満たしてくれる、素晴らしき物。
 こちらの世界に来てから2回目の夜。現代にいた時は城にしか興味がなくて、上京してから実家に帰省すらしていない私は、ホームシックとは無縁だったけど、ここに来てからひとつだけ慣れない物がある。
 食事だ。
 動物性タンパク質を、お腹いっぱい摂取したい。四本脚でも、二本足でも、足がないものでもいい。お米は我慢するから、せめて柔らかいパン。蒸さなくても柔らかいパンを食べたいの。
 で、あるわけです。目の前に。
 銀の食器に乗ったステーキはローズマリーかなんかで香り付けしてある。
 パンは白いよ。柔らかそう。しかも焼き立てだよ。スープは見た目お汁粉みたいな感じの豆スープ。
 照明がランプとロウソウなので、料理に陰影がついて美味しそうだし、部屋の雰囲気もいい。
 さっきも言ったけど、銀器が揃えられていて、こちらでは経験したことのない贅沢な空間だ。
 「それでは、いただきましょう」
 領主さま、待ってました。
 私は急いで神に祈り捧げ、目の前に置かれた肉料理に手を伸ばした。
 この肉は豚だろうか、ハーブ香りの隙間から感じる匂い…これはバターか?
 私はナイフとフォークを使い、切り取った一切れを口に運んだ。
 ああぁ、肉だ。塩バター味のトンテキだよ。だれか、お米をください。
 完全に食慾に火が付いた私は、がっつきたい!が、領主の前でもあるので、その気持ちを無理矢理に抑えつけた。
 ノノさんを見るとフォークを右手に持ってる。
 もしやノノさん、フォークとナイフの使い方を知らないのでは?
 私の心配をしている気配を感じとったのか、ノノさんと目があった。そして、私の手に視線を移した。
 明らかに驚いている。わかる。右利きなんだから利き腕ににフォークを持ちたいよね。
 私はノノさんにわかるように、少しばかり大げさな動作で肉を切り分け、それを口に運んだ。
 ね。こんな感じに使うんだよ。
 ぎこちなく左手にフォークを持ち、ナイフで肉を切り始めたノノさんは、上手く切り分ける事ができずにムキになっている。ナイフを前後にギコギコしだした。
 馬術なんて難しい事のできるノノさんが、ナイフとフォークを上手く使えなくて意地になっている姿は、可愛いとさえ思えてくる。苦労して切った肉を口に含んだ時には、天使かと思えるような表情で目を輝かせていたし、パンを手に取ったときには、その柔らかさにに目を見開いて驚いていた。
 現代のスポンジケーキなんて食べさせたらどうなるんだろう。なんて想像をして、ますます微笑ましい気持ちになった。
 食欲を満たし、精神的にも肉体的にも満足を得た私は礼を述べた後で、領主に質問をした。
 ノノさんは何事かと、姿勢を正して私の方を見る。
 「農作物の改良というものをご存知ですか」
 「申し訳ないですが、改良とはどういったものなのですか」
 例えばですが、と私は基本的な品種改良の話を聞かせる。
 美味しい実をつけるリンゴの木と、大きい実をつけるリンゴの木をかけ合わせる事で、美味しい大きな実を付けるリンゴの木を作ることができるといったような話だ。
 「そんな事が可能なんですか」
 かなりの驚きを見せた領主は、そのまま続けた。
 「それが可能なら、たくさんの穂がなる麦を作れるわけですね。その方法は?」
 私は農業の専門家ではないけれど、優秀な品種同士の受粉など、掛け合わせのことは知っている。そして、1年に1回しか実験の結果が確認ない事も伝えた。
 「これは…時間がかかるものなのですね…」
 私が現代で聞いた記憶では、品種改良にかかる時間は10年から20年だったはず…あれはブドウの品種改良だったと思う。
 でも時間が掛かってもトライ・アンド・エラーでやっていくしかない。
 「貴重な話をありがとう。これは成し遂げたい…と思います」
 笑顔で話す領主の目に、炎が揺らいでいる。
 「領主さま、お招き頂いたのに恐縮なのですが、そろそろ下がらせてもらってもよろしいでしょうか」
 ノノさんがそう言うと、領主は長々と引き留めてしまったことを詫びて、こういった。
 「我がヴィリア自慢の浴場で、疲れをとって頂きたい」 
 来た!来ました温泉!
 城を見て、ご飯を食べて、次は温泉。
 ノノさんが困惑気味に私の方を見ている。それはそうだエンリ村に温泉なんてなかったし、そもそもお風呂の概念がないはず。だってエンリ村には、シャワーすらなかったもん。
 私はノノさんと目を合わせると、大きく何度も頷いた。大丈夫。私が教えますからね。そう目で伝えた。
 でもそれは、うまく伝わらなかったようで、ノノさんを余計にに困惑させてしまった。笑顔が引きつっているのがわかる。
 「行けばわかるから、早く行こう」
 私は勢いよく立ち上がった。
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