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1章 彼女が異世界に行ったのは、どうやらその胸に理由があるらしい。
6 次に俺が出会った相手は、犬に見えたんだが。
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異世界から来たというハイレグを着た貧乳美女は、俺の前から跡形もなく消えてしまった。
「あ……あぁ」
愕然とした気持ちで、彼女を追い掛けた右手をだらりと下げる。
俺以外に誰もいない平日の公園は、照り付ける太陽にぐんぐんと温度を上げていった。
「どうしたらいいんだよ」
美緒は魔王のハーレムに入るべく異世界へ行き、この世界で誰からも忘れられてしまった。
彼女の記憶は『保管者』に選ばれた俺が持っている。
そして、テニス部の先輩も異世界へ行き、どこかに俺とは別の『保管者』が居るらしい。
彼女らの記憶は保管者同士で共有することが出来るというが――。
あのハイレグ貧乳美女に会って得られた情報の大まかな内容は、それくらいだろう。
それを知った所で何の解決策にも繋がらないが、異世界への望みが全く閉ざされたわけじゃない。
あの貧乳女は、ハーレムを作るために10人集めるようなことを言っていたのだ。あと5人の枠を求めて、絶対にまた動きを見せるはずだ。
顔面を伝う汗をタオルで拭い、俺は再び水道で顔を洗った。何度も何度も水をぶっかけた所で、焦る気持ちは募るばかりだ。
「ったくよぉ……」
こんな状況で、普通の生活なんてできる訳がない。
アイツが異世界に行ったことは異常だ。毎日一人で寂しく登校している俺が正常だなんて日常を受け入れるわけにはいかないのだ。
「あの女……俺を異世界に連れてけよ!」
むかっ腹を吐き出し、首のタオルを頭からかぶった所で、ふと俺はその気配に気付いた。
誰かいたのか?
大声で叫んでしまったことを恥ずかしいと思いながら、弁解せねばと顔を回す。
けれど、そこに居たのは一匹の犬だった。
「なんだ、お前か。驚かすなよ」
ホッと息を吐いて、俺はその犬に目を凝らした。
公園の端にあるブランコの前で、灰色の大きな犬が俺をじっと見つめている。
飼い主とはぐれたのか? と思ったが、そいつは首輪をしていなかった。
「ノラ犬?」
昔、親から野良犬を見掛けたら近付くなと言われたのを思い出したが、遭遇するのは初めてだった。経験がないせいで、あまり危機感はない。
そおっと距離を開いていけばいいと思って、俺は足元に置いておいた学校の鞄を肩に背負い、ゆっくりと後退った。
けど、距離は広がらないどころか少しずつ狭くなっている。
真っすぐに俺を見つめる赤い眼光は、俺が背を向けて逃走する余裕など与えてはくれなかった。
「ちょっと、待てよ」
じゃりじゃりと砂をかく音が大きくなって、俺は恐怖に全身を震わせる。
(大体、犬ってこんなだっけか?)
最初はそうだと思ったのに、近付いてきたヤツの姿に俺は違和感を感じずにはいられなかった。
犬なんか飼ったことないから詳しくは知らないけれど、赤い目の犬なんて居ただろうか。
それに口の両端に伸びる牙は、ヤツの鼻先の厚みをゆうに超えて地面へ向けて垂れ下がっている。
あれはチーターの口についている、肉を食い千切るための牙にしか見えなかった。ドックフードを食べるようには見えない。
近所で良く見る散歩中の柴犬より、二回りは大きいだろう。近付くごとに鮮明になる情報に、俺は自分の死を予感した。
「まさかお前も異世界から来たのか?」
異世界の犬というのは、こんなにも攻撃的な容姿なんだろうか。
コヨーテか、オオカミという言葉も過ったが、その姿を俺は詳しく知らない。
けど一つだけ分かるのは、コイツが日本のこんな街中で、ウロウロと餌を求めるような奴じゃないということだ。
なんで俺を狙おうとしている?
あのハイレグ貧乳女は、どうして今ここに居ないんだ?
灰色の異世界犬は、ただただ俺を攻撃しようと間合いを詰めて、飛び掛かる瞬間を伺っている。
コイツに食われた所で、ラノベの主人公みたいに異世界には飛べないのに。死ぬことが条件ではないと、あの女に聞いたばかりだ。
グルルルという低い呻き声が、俺の腹にまで響いてくる。そんな所は、この世界の野獣たちと一緒だ。
(お前、攻撃力半端ないだろう?)
「あっ――」
ジリジリと後退った背中が、滑り台の階段に横からぶつかってしまった。
「ヒィィイイ!」
逃げ場を失った俺は、涙をぼろぼろと零しながら必死で横に飛び退る。
そこで、一瞬だけ視線を相手からそらしてしまう――それを奴は見逃さなかった。
ジャリ! と強く砂を蹴る音が鳴った。
「うわぁぁああ!」
俺は走り去る事もできず、ただ恐怖を逃れたい一心で目を瞑った。
アホみたいに無防備で、身体をヤツに向けたまま恐怖に悲鳴を響かせた。
その時だ。
バリバリっという稲妻が、宙を上から斜めに切り裂いた。
夏の暑い青空のどこに雷雲など沸いたのだろう。
ドンと地面を打ち付ける光が、俺の目の前で異世界犬を撃ち抜いたのだ。
ギャウン! と高く短い断末魔が響く。
横たわった異世界犬は、赤い血を腹から湧かせてすぐに動かなくなった。
自分が助かったことを悟って、俺はその場にへたり込んだ。
こんなことが出来るのは、こっちの世界の人間じゃない。
あの女が戻って来たのだろと公園内へ視線を回すと、
「大丈夫だった?」
すぐ側で掛けられた声は、貧乳ハイグレ女のものではなく、若い男の声。
ようやく目に飛び込んだ相手の風貌に、俺は更に驚愕した。
「あ……あぁ」
愕然とした気持ちで、彼女を追い掛けた右手をだらりと下げる。
俺以外に誰もいない平日の公園は、照り付ける太陽にぐんぐんと温度を上げていった。
「どうしたらいいんだよ」
美緒は魔王のハーレムに入るべく異世界へ行き、この世界で誰からも忘れられてしまった。
彼女の記憶は『保管者』に選ばれた俺が持っている。
そして、テニス部の先輩も異世界へ行き、どこかに俺とは別の『保管者』が居るらしい。
彼女らの記憶は保管者同士で共有することが出来るというが――。
あのハイレグ貧乳美女に会って得られた情報の大まかな内容は、それくらいだろう。
それを知った所で何の解決策にも繋がらないが、異世界への望みが全く閉ざされたわけじゃない。
あの貧乳女は、ハーレムを作るために10人集めるようなことを言っていたのだ。あと5人の枠を求めて、絶対にまた動きを見せるはずだ。
顔面を伝う汗をタオルで拭い、俺は再び水道で顔を洗った。何度も何度も水をぶっかけた所で、焦る気持ちは募るばかりだ。
「ったくよぉ……」
こんな状況で、普通の生活なんてできる訳がない。
アイツが異世界に行ったことは異常だ。毎日一人で寂しく登校している俺が正常だなんて日常を受け入れるわけにはいかないのだ。
「あの女……俺を異世界に連れてけよ!」
むかっ腹を吐き出し、首のタオルを頭からかぶった所で、ふと俺はその気配に気付いた。
誰かいたのか?
大声で叫んでしまったことを恥ずかしいと思いながら、弁解せねばと顔を回す。
けれど、そこに居たのは一匹の犬だった。
「なんだ、お前か。驚かすなよ」
ホッと息を吐いて、俺はその犬に目を凝らした。
公園の端にあるブランコの前で、灰色の大きな犬が俺をじっと見つめている。
飼い主とはぐれたのか? と思ったが、そいつは首輪をしていなかった。
「ノラ犬?」
昔、親から野良犬を見掛けたら近付くなと言われたのを思い出したが、遭遇するのは初めてだった。経験がないせいで、あまり危機感はない。
そおっと距離を開いていけばいいと思って、俺は足元に置いておいた学校の鞄を肩に背負い、ゆっくりと後退った。
けど、距離は広がらないどころか少しずつ狭くなっている。
真っすぐに俺を見つめる赤い眼光は、俺が背を向けて逃走する余裕など与えてはくれなかった。
「ちょっと、待てよ」
じゃりじゃりと砂をかく音が大きくなって、俺は恐怖に全身を震わせる。
(大体、犬ってこんなだっけか?)
最初はそうだと思ったのに、近付いてきたヤツの姿に俺は違和感を感じずにはいられなかった。
犬なんか飼ったことないから詳しくは知らないけれど、赤い目の犬なんて居ただろうか。
それに口の両端に伸びる牙は、ヤツの鼻先の厚みをゆうに超えて地面へ向けて垂れ下がっている。
あれはチーターの口についている、肉を食い千切るための牙にしか見えなかった。ドックフードを食べるようには見えない。
近所で良く見る散歩中の柴犬より、二回りは大きいだろう。近付くごとに鮮明になる情報に、俺は自分の死を予感した。
「まさかお前も異世界から来たのか?」
異世界の犬というのは、こんなにも攻撃的な容姿なんだろうか。
コヨーテか、オオカミという言葉も過ったが、その姿を俺は詳しく知らない。
けど一つだけ分かるのは、コイツが日本のこんな街中で、ウロウロと餌を求めるような奴じゃないということだ。
なんで俺を狙おうとしている?
あのハイレグ貧乳女は、どうして今ここに居ないんだ?
灰色の異世界犬は、ただただ俺を攻撃しようと間合いを詰めて、飛び掛かる瞬間を伺っている。
コイツに食われた所で、ラノベの主人公みたいに異世界には飛べないのに。死ぬことが条件ではないと、あの女に聞いたばかりだ。
グルルルという低い呻き声が、俺の腹にまで響いてくる。そんな所は、この世界の野獣たちと一緒だ。
(お前、攻撃力半端ないだろう?)
「あっ――」
ジリジリと後退った背中が、滑り台の階段に横からぶつかってしまった。
「ヒィィイイ!」
逃げ場を失った俺は、涙をぼろぼろと零しながら必死で横に飛び退る。
そこで、一瞬だけ視線を相手からそらしてしまう――それを奴は見逃さなかった。
ジャリ! と強く砂を蹴る音が鳴った。
「うわぁぁああ!」
俺は走り去る事もできず、ただ恐怖を逃れたい一心で目を瞑った。
アホみたいに無防備で、身体をヤツに向けたまま恐怖に悲鳴を響かせた。
その時だ。
バリバリっという稲妻が、宙を上から斜めに切り裂いた。
夏の暑い青空のどこに雷雲など沸いたのだろう。
ドンと地面を打ち付ける光が、俺の目の前で異世界犬を撃ち抜いたのだ。
ギャウン! と高く短い断末魔が響く。
横たわった異世界犬は、赤い血を腹から湧かせてすぐに動かなくなった。
自分が助かったことを悟って、俺はその場にへたり込んだ。
こんなことが出来るのは、こっちの世界の人間じゃない。
あの女が戻って来たのだろと公園内へ視線を回すと、
「大丈夫だった?」
すぐ側で掛けられた声は、貧乳ハイグレ女のものではなく、若い男の声。
ようやく目に飛び込んだ相手の風貌に、俺は更に驚愕した。
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