10 / 171
1章 彼女が異世界に行ったのは、どうやらその胸に理由があるらしい。
10 彼女が俺に残したもの
しおりを挟む
そして異世界行きを決めた俺と魔王クラウザーは、ひとまず俺の家へと向かった。
異世界へ行くにあたって、着ているもの以外に一つだけ何か持って行ってもいいと言われたからだ。
公園から出る直前で無理矢理マントを外させると、クラウは渋々と黒い布を腕にぶら下げた。こうすると長髪の違和感なんて、イケメン効果でむしろプラスに働いてしまう。
通り掛かりの御婦人が、何度もクラウを振り返って嬉しそうな顔を向けてくる。
「それにしても、やっぱりこの世界の女性は胸が大きいんだね」
さっきのおばちゃん達や御婦人を見て言ってるのだろうか。俺は射程圏外の胸なんて視界に入って来ないから、彼女たちがどうだったかなんて全然記憶にはない。
「そ、そうだな。あのマーテルさんよりは大きい女の方が多いかな。やっぱ、お前の居る異世界の女ってのは、貧……胸がないのか?」
女が全員貧乳なら、恐らく『貧乳』なんて言葉は存在しないだろう。
クラウはその胸中を込めて、神妙な顔で頷いた。
「そうなんだよ。男も女も変わりないからね。この世界の女性の胸を初めて見た時は、実に素晴らしいと思ったよ。こっちじゃ「おっぱい」って言うんだろ?」
「お、おぅ。そうだな」
公道で突然発された言葉に、俺は「うわぁ」と慌てて辺りに誰も居ないことを確認する。確かに男女差がないのなら、異世界人の胸は異世界人にとって、ただの胸かもしれない。
「本当、この世界は神秘的だね」
疲れの混じる溜息は、絶望の色を漂わせる。
☆
程よくして家に着くと、共働きの両親はもちろん留守だった。
息子がこんな時間に異世界人を連れ込んでいるなど夢にも思っていないだろう。
再びマントを装着したクラウと、2階にある俺の部屋へと階段を上った。
「相変わらずこの世界の部屋は狭いね」
「城と比べんなよ」
天井を見つめながら、「押しつぶされそうだね」と眉をひそめるクラウの事など放っておいて、俺は自分の部屋をぐるっと見渡した。
何を持っていこうかと考えた所で、俺はふと本棚に並んだアルバムを手に取った。これを持っていこうという訳じゃない。この中にたくさんある筈の美緒の写真がどうなっているのか確認がしたかったのだ。
そして現実に打ちのめされ、涙が止まらなくなってしまう。
小さい頃の俺も、大きくなった俺も、隣に美緒は居なかった。
写真に写る風景に見覚えはあるが、記憶の写真とは少しずつシチュエーションが変わっていて、記憶にない記録をそこに残している。
学校のアルバムにも美緒は名前すら存在していない。
やはり彼女の全てが抹消されている。
「こんな気持ちになるなら、俺の記憶も消えれば良かったのかもな」
胸が苦しいなんて感じたことなかった。
何も覚えていなければ、この作られた『正常』を素直に受け入れられたはずだ。
「消してあげようか? 消すだけなら僕にもできるよ」
戸口に立つクラウが、そんな選択肢を持ちかけてくる。
それもいいかもしれないと思ってしまう俺は、自分が思っている以上にどん底にいるらしい。
「けど、保管者に代替えは居ないからね? 保管者を失った転生者は、元の世界の居場所を失うから、二度と戻っては来れないんだよ」
「……なんだよ。じゃあ、変な期待させんなよ。そんなこと言われたら、やっぱり俺が行くしかないだろう?」
涙を拭ってゆっくりと上げた視線が低い箪笥の上で止まった。無造作に積み上げられた何冊もの本の一番上に少女趣味のイラストが見えて、俺の涙を再び溢れさせる。
「美緒――」
彼女が読めと俺に勧めてくれた本だった。
どうしてこれがここに残されているのかは分からない。
「これ、彼女に借りた本なんだ。消えなかったんだな」
「きっと本人の要素が薄くて、取り残されてしまったんだね」
「じゃあ、俺はコイツの出した謎かけに気付いてやれなかったって事か」
そこに印されたタイトルに、俺は思わず苦笑いする。
『異世界の魔王とセーラー服の女王様』
今まで全然気付かなかった。けれどこれを借りた時、美緒は俺が好きそうだからと言っていた。
そんな会話をしたのは、1週間ぐらい前だろうか。
「知ってたんだな……」
その本の表紙には、さぁ行こうと言わんばかりに右手を高く掲げたセーラー服の女子と、頭のサイドに角を生やしたイケメン魔王が並んでいる。
どちらかというと、実物の魔王の方がイケメン――いや、悔しいからやめておく。
異世界へ行くにあたって、着ているもの以外に一つだけ何か持って行ってもいいと言われたからだ。
公園から出る直前で無理矢理マントを外させると、クラウは渋々と黒い布を腕にぶら下げた。こうすると長髪の違和感なんて、イケメン効果でむしろプラスに働いてしまう。
通り掛かりの御婦人が、何度もクラウを振り返って嬉しそうな顔を向けてくる。
「それにしても、やっぱりこの世界の女性は胸が大きいんだね」
さっきのおばちゃん達や御婦人を見て言ってるのだろうか。俺は射程圏外の胸なんて視界に入って来ないから、彼女たちがどうだったかなんて全然記憶にはない。
「そ、そうだな。あのマーテルさんよりは大きい女の方が多いかな。やっぱ、お前の居る異世界の女ってのは、貧……胸がないのか?」
女が全員貧乳なら、恐らく『貧乳』なんて言葉は存在しないだろう。
クラウはその胸中を込めて、神妙な顔で頷いた。
「そうなんだよ。男も女も変わりないからね。この世界の女性の胸を初めて見た時は、実に素晴らしいと思ったよ。こっちじゃ「おっぱい」って言うんだろ?」
「お、おぅ。そうだな」
公道で突然発された言葉に、俺は「うわぁ」と慌てて辺りに誰も居ないことを確認する。確かに男女差がないのなら、異世界人の胸は異世界人にとって、ただの胸かもしれない。
「本当、この世界は神秘的だね」
疲れの混じる溜息は、絶望の色を漂わせる。
☆
程よくして家に着くと、共働きの両親はもちろん留守だった。
息子がこんな時間に異世界人を連れ込んでいるなど夢にも思っていないだろう。
再びマントを装着したクラウと、2階にある俺の部屋へと階段を上った。
「相変わらずこの世界の部屋は狭いね」
「城と比べんなよ」
天井を見つめながら、「押しつぶされそうだね」と眉をひそめるクラウの事など放っておいて、俺は自分の部屋をぐるっと見渡した。
何を持っていこうかと考えた所で、俺はふと本棚に並んだアルバムを手に取った。これを持っていこうという訳じゃない。この中にたくさんある筈の美緒の写真がどうなっているのか確認がしたかったのだ。
そして現実に打ちのめされ、涙が止まらなくなってしまう。
小さい頃の俺も、大きくなった俺も、隣に美緒は居なかった。
写真に写る風景に見覚えはあるが、記憶の写真とは少しずつシチュエーションが変わっていて、記憶にない記録をそこに残している。
学校のアルバムにも美緒は名前すら存在していない。
やはり彼女の全てが抹消されている。
「こんな気持ちになるなら、俺の記憶も消えれば良かったのかもな」
胸が苦しいなんて感じたことなかった。
何も覚えていなければ、この作られた『正常』を素直に受け入れられたはずだ。
「消してあげようか? 消すだけなら僕にもできるよ」
戸口に立つクラウが、そんな選択肢を持ちかけてくる。
それもいいかもしれないと思ってしまう俺は、自分が思っている以上にどん底にいるらしい。
「けど、保管者に代替えは居ないからね? 保管者を失った転生者は、元の世界の居場所を失うから、二度と戻っては来れないんだよ」
「……なんだよ。じゃあ、変な期待させんなよ。そんなこと言われたら、やっぱり俺が行くしかないだろう?」
涙を拭ってゆっくりと上げた視線が低い箪笥の上で止まった。無造作に積み上げられた何冊もの本の一番上に少女趣味のイラストが見えて、俺の涙を再び溢れさせる。
「美緒――」
彼女が読めと俺に勧めてくれた本だった。
どうしてこれがここに残されているのかは分からない。
「これ、彼女に借りた本なんだ。消えなかったんだな」
「きっと本人の要素が薄くて、取り残されてしまったんだね」
「じゃあ、俺はコイツの出した謎かけに気付いてやれなかったって事か」
そこに印されたタイトルに、俺は思わず苦笑いする。
『異世界の魔王とセーラー服の女王様』
今まで全然気付かなかった。けれどこれを借りた時、美緒は俺が好きそうだからと言っていた。
そんな会話をしたのは、1週間ぐらい前だろうか。
「知ってたんだな……」
その本の表紙には、さぁ行こうと言わんばかりに右手を高く掲げたセーラー服の女子と、頭のサイドに角を生やしたイケメン魔王が並んでいる。
どちらかというと、実物の魔王の方がイケメン――いや、悔しいからやめておく。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる